第4話 季節は夏
午後の狩りに出かけて行ったガイさんを見送り、私はダリルくんに村を案内してもらうことになった。お仕事は明日からだ。
村を歩くにあたって、今のままじゃ見てて暑いと言われたので昔ダリルくんのお母さんが着ていたという夏服をお借りした。
お母さんの話全く出てこないから気になってたんだけど、さすがに聞きにくいので全部スルーしてお礼だけ言っておいた。
「ここが中心の広場。あっちが雑貨屋でそっちは服屋。向こうにあるのが八百屋と肉屋。父ちゃんはあそこの肉屋に肉を卸してるんだ」
人口数十人の小さな村だ。外に一歩出たらよそ者が珍しいのか視線が突き刺さる。明らかに外国人だもんね、仕方ないけど俯き気味になってしまう。
「川が森に入ってすぐのところにあるんだ。毎朝そこまで水を汲みに行くのがまだ力になれない子供の仕事。姉ちゃんも場所は知ってた方がいいから今から行こう」
どうせだからと桶を持たされる。木ってそれだけで重いよね。
桶を持って村の外に出る。ダリルくんの言う通り森に入って100mも歩かない内に川が見えた。
「魚もいるからたまに釣りをしたりもするんだぜ」
「へえ〜」
覗き込むとなるほど、川底まで見える透き通った水の中を小魚が泳いでいるのが見えた。
手を浸すと冷たくてとても気持ちがいい。
少し飲んでみたらすごく美味しかった。水ってこんなに美味しかったっけ。
「はあ〜〜生き返る」
「姉ちゃんおっさん臭えぞ」
「うぐっ」
いいんだよ、元から女子力なんてないんだから。
そうやっていると、側の茂みがガサガサと音を立てた。
ピョン
音のする方を見ていると、ヒョコッと白い耳が飛び出してきた。
「?」
耳に続いて全身を出したのは真っ白な毛に赤い目の小さなウサギだった。
こちらを見ながら鼻をヒクヒクさせている。
「ひえっかわいい」
私がしゃがんだまま見つめているとウサギがヒョコヒョコと近寄ってくる。えっかわいい。
私の目の前まで来て止まって見つめてくるのでそっと手を出してみると、頭を押しつけてくる。
「ダリルくん、どうしよう可愛い叫び出しそう」
「やめてくれ」
必死に片手で口を押さえてウサギを撫でる。
……ふわふわだ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
可愛い可愛い可愛い可愛い。
そっと抱き上げても逃げずに耳をピクピクさせてる。これは懐いてくれてるってことでいいんだろうか。お持ち帰りしちゃっていい感じ!?
ウサギで思い出すのは小学生の頃。
当時から動物好きな私は、ジャンケンで勝ち取った飼育係という立場を持って堂々とウサギの世話をしに通った。しかし一度もウサギが私に近寄ることはなく、姿を見せると逃げられ続けた。
またある時は、友達が野生の子ウサギを拾って飼う事にしたというので他の友達と一緒に遊びに行った。他の友達はみんな大人しいウサギを撫でたり抱っこしたりできていたのに、私が手を伸ばした時だけ突然倒れて死んだフリをされるので泣く泣く諦めた。
ウサギは好きなのに関わる度に逃げられてもう諦めていたのだが、ここに来て懐かれるなんて…!
「感動で言葉が出ない…」
「ちゃんと出てるぞ」
優秀なツッコミのダリルくん。君将来は大物になるよ、間違いない。何も保証はしないけど。
「ねえこの子連れて帰ってもいいかな?」
私の顔がよほど切羽詰まって見えたんだろうね、ウッって一瞬詰まってからダリルくんは「いいんじゃない?」と言ってくれた。
「ありがとう!!やった〜今日から君はうちの子だ!君女の子?男の子?」
ちょっと抱き上げて見てみたがわからない。そりゃそうだよね、ペット飼ったこともない人間がウサギの性別を見るだけでわかるわけがない。
改めてダリルくんに確かめてもらったら女の子だった。
「ん〜名前どうしようか…可愛いのがいいよね」
ルビー、アイリス、ニコラ、ルナ、ハナ、リリー、ユリ。思いつくのを片っ端から言ってみると「ユリ」でウサギが反応した。気がした。
「ユリ!うん、綺麗な白い毛だし良いかも!よろしくねユリ」
まあ当然ながらウサギが反応なんて返すはずないんですけどね。勝手に言葉が通じたことにして満足する。
「ところでさ、姉ちゃんそのウサギ抱いて水汲んだ桶どうやって持って帰るつもりだよ」
「アッ」
水桶なんて完全に忘れてたよね。でも仕方ない、こんなに可愛いウサギが悪いのだ。可愛いは罪。嘘、可愛いは正義です!
「ダリルくんも可愛いよ」
「何の話?」
だんだんダリルくんの私への対応が雑になってる気がする。気をつけよ…。
四苦八苦した結果、ウサギを襟元から顔を出す形で服の中に入ってもらって落ち着いた。
そうすると今度は私が暑いんだけど、こればっかりはね。連れて帰るって言ったからには責任持たなければ。
「これでオッケー!もう帰っても大丈夫なのかな?」
「うん、帰ったら夕飯作って父ちゃんが戻るのを待つんだ」
「そっか、何か手伝えることあったら言ってね」
「当然だろ。父ちゃんは優しいけど、俺はタダ飯食わせるほどお人好しじゃないぞ」
「…だよね」
ダリルくんのしっかりした所を確認して、私たちは帰路に着くのだった。
活動報告だけ書いて投稿するの忘れてた