第2話 やっぱり普通
主人公の名前決まりました。
白い膜の中を抜けた先は、森でした。
「……せめて街道沿いとかにしてよ」
視界いっぱいに広がる木、木、木、木。
幸いなことにヤバそうな獣の唸り声が聞こえてきたり、すでに囲まれてたりなんてことはなかった。
「てかあっつ!!!何これ暑い!」
森の中ではあるが、太陽の光が遮られることなく届いている。しかしそれが原因なのではなく、気温そのものが高いのだ。まるで夏真っ盛りといった感じだ。
死んだ時の季節が冬だったから、もちろん今着ているのは冬服。
とりあえずコートとマフラー、手袋を外す。それからセーターや二重に履いていた靴下も脱いで、肌着に付けていたカイロを剥がす。寒がりだから着膨れするくらい着込んでいた服が完全にお荷物だ。
転移という扱いになっているからか、背負っていたリュックも側に落ちていた。拾って確認してみるがなくなっている物などはなく、そこから常備しているエコバッグを取り出して詰め込めるだけの服を詰め込む。やはりコートは入りきらないので手に持つことになってしまった。
「なんでロングコートなんて着てたんだ私。これからはショートしか着ないからな」
どうせ寒くなるとショートじゃ防寒にならないとか言うんだろうけど。
それにしてもどうしようか、見渡す限り木しかなく、どちらに進めばいいかも分からない。
「とりあえず頼んだこの世界の常識がちゃんとインストールされてるかの確認かな?」
行き先を決めるためにもこの世界の地図とか主要な国についてくらいは知れないものかと意識を移す。
その瞬間、何かが頭の中へと流れ込んでくる感覚と共に強烈な頭痛に襲われる。
「あ"っ!?」
痛みに耐えられず蹲り呻くこと数秒。頭痛はスッと治った。
「はあ、はあ、こんな古典的な情報の入れ方ある…?もうちょっと優しくしてくれても良いと思うんですけど…」
信じられないような痛みの後には、この世界の常識と言っていいのかたくさんの情報が頭の中に存在していた。
元の世界では主に小学生で習うようなことは一般常識と言われていたが、ぶっちゃけ完全に覚えてる人なんていないはず。
ところがこの神様がインストールしてくれた常識は、そういったたしかに常識なんだろうが細かくなんて覚えていないような部分まで鮮明に書き出せる状態で頭の中にある。
そんなことしたらそりゃあ膨大な情報量だしあの痛みも当たり前だ。
「あの神様には0と1しかないのか…もうちょっと取捨選択とかして送ってほしかったよ」
もうため息しか出ない。さっきの痛みに耐えることで普段運動なんてまともにしてない一般女子の体力は底を突いた。
正直もう1ミリも動きたくないが、そんなことも言ってられない。できれば夜になる前に森を出たいが果たしてそんなことができるのか。
この世界だが、どうやら大きく3つの大陸に分かれているらしい。常識の中には今日の日付も入っていたのか、今日が大地の月の第2風の日ということがわかった。大地の月というのが地球での8月に当たるようだ。このことから、今私がいるのは大地の月に夏を迎えるアレクシア大陸だと推測できる。しかし問題はそのアレクシア大陸のどこなのか、だ。
情報によるとアレクシア大陸は3つの大陸の中で最も大きな大陸だ。その分小さなものから大きなものまで森なんてのは無数にある。もしここが北の海に面する森だった場合、北に行けば海しかないなんてことになるのだ。
方向はしっかり見極めなければ本気で命取りになる。逆にここは中央付近の森でどっち行っても人里に辿り着ける場所かもしれないが。
「ステータスオープン」
そして、なんと驚くことにこの世界はステータスオープンのある世界だった。ほら、よくあるでしょあのステータスオープンだよ。
ここが剣と魔法の世界とは言っても、ステータスはギルドや神殿でしか見れないとか、特別な技能持ってる人にしか見れないとか、そういうのもあるから期待してなかったよ。
うわあ、本当に見れてる!こうなるとさすがにテンション上がる。
名前:リカ・カンザキ レベル:1
種族:人 年齢:21 性別:女
HP:50/50
MP:30/30
称号:普通の権化
うん。…うん。
常識情報からしても一般人の平均そのものって感じのステータス。それは別にいいんだ、自覚はある。だけどこの称号って何???
称号:普通の権化>普通の中の普通の存在に贈られる称号。特にボーナスはない。
何か出た。
よくある意識を向けると詳細が見れるあれだな。まあ、特に問題なさそうだし放っといていいか…。
「……ああ、異世界に来ちゃったんだなぁ」
なんとなく、まだ夢を見てるような気持ちでいた。
でもこうやって現実だと思えない知識を持って実際に確認して、やっと理解できた、理解してしまった気がする。
私は死んで、今からこの見知らぬ世界で生きていかなければいけないのだ。
大学生になっても実家暮らしで、毎日帰れば母親が夕飯を作ってくれていた。家族に甘えてばっかりで、ちょっとバイトもしてたけど社会に出たなんて嘘でも言えない。
そんな私が、今からたった1人で生きていく。
気がつくと涙が溢れて止まらなくなっていた。
ヒトリキリ。
その単語が頭の中を回り続ける。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。
そうして漸く涙が枯れた頃には、本当に体力が尽き果てて。
泣きすぎて腫れぼったい瞼と痛む頭をそのままに、ここがどこだったのかも忘れて私は気を失ってしまった。
ステータスに関しては本当はベタにスキルとか攻撃力とか書こうと思ったんです。でも面倒だったのでやめました。
ここはステータスオープンがある世界なんだぜ!ってことだけ覚えててください。作者も覚えておきます。
今後も一々ステータス書くことはないですが、レベルくらいは描写中に出すようにします。…忘れなければ。
世界観説明は今後やる機会があればやります。なければ後書きかどこかに置いておきます。