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もふもふと鋼鉄人形  作者: 暗黒星雲
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第5話 女神クレドの解放

 マユ皇女は途中で二度結界の解除を行った。程なく俺たちは目的地に到着した。

 鋼鉄人形をしゃがませ二人の皇女を下に降ろす。

 山肌に石造りの神殿のような建物があった。その扉の奥に洞窟があり、幾重にも結界が張られた永遠の牢獄があるのだという。


「こんなところに500年ですか。むごいですね」

「ええ。そうですね」


 マユ皇女は胸に両手を当て目を瞑り祈りをささげる。そのまま数分間じっと動かず祈り続けている。瞼を開き両手を扉に当てた。


「カーン・アルマ神の命です。開いてください」


 石の重い扉が内側に開いていく。中はぼんやりと明かりが灯っていた。マユ皇女、ララ皇女に続いて俺も中へ入る。石造りの廊下を進んでいくと最奥に牢獄が見えた。

 そこには一匹の毛深い女鹿がいた。角は無く、光り輝く黄金色の毛並みが美しい。クレド様が動物の姿で描かれている宗教画を何度か見たことがあったが、それは孔雀やフクロウなど、鳥の姿だった記憶がある。このようなお姿であった事は予想外だったのだが、その神々しい美しさに暫し心を奪われた。


(マユ様、ララ様、お久しぶりです)


 頭の中に直接響いて来た。これが噂に聞く精神会話なのだろうか。


「お久しぶりです。クレド様」

「お久しぶりです」


 マユ皇女とララ皇女が深く礼をする。


(そちらの男性は?)


「こちらはドールマスターのハーゲン少尉です」

「初めましてクレド様。ハーゲンと申します」


 俺は片膝をつき最敬礼をする。


(今日は何か特別な御用がおありなのですか?)


「ええ、以前お話したクレド様の亡命の件で参りました。本日この牢獄から解放してさし上げます。そして星間連合外の星、地球へお連れ致します。さあ格子から離れてください」


 マユ皇女が瞑目する。


「永遠の結界、永遠の牢獄は今ここに灰塵と化せ。カーン・アルマ神の御名において」


 マユ皇女の詠唱が終わると、淡く輝いていた格子は光を失った。中央部分の格子は消失していた。


「さあどうぞ外へ」


(ありがとうマユ様)


 女鹿の姿をした女神クレド様が外に出てきた。

 ララ様がクレド様を熱い視線で見つめている。まさかこの人は恐れ多くもクレド様を撫でまわす気なのか!?


「クレド様、体を撫でてもいいですか?」


(ええどうぞ)


 俺の心配など関係ないようだった。ララ様は首のあたりに遠慮なく抱きつきあごや頭を撫でまわしている。


「ああ気持ち良い」


(私もです。ハーゲン、あなたも遠慮せず私を撫でて下さい。久方ぶりの人の温かさが大変心地よいのです)


 俺もしゃがみ込みクレド様の背中を撫でる。クレド様もうっとりとした表情を浮かべ目を細めた。


(ララ様、ハーゲンありがとう。500年ぶりの触れ合いに胸が熱くなります。心が弾けてしまいそうな感動を覚えます)


 クレド様は本当に心地よさそうな表情をしている。

 ララ様は一生懸命クレド撫でているのだが、その頬から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「ごめんなさいクレド様。助けてあげられなくて」


(問題ありません。ララ様。貴方が戦ってくれたことで私は救われたのです)


「でも……いくらやっつけても終わらなかった」


(それは仕方ありません。あの闇はこの結界に起因していたのですから)


 話が見えなかった俺はマユ皇女の方を見る。

 マユ皇女は微笑みながら頷いて話し始めた。


「そうなのです。ララさんが中心となって戦っていたのです。異界においてクレド様の御心を救うべく……。しかし、結果は芳しくありませんでした」

「いくらやっつけても魔物が減らんのだ」


 ララ皇女が握りしめた手を震わせている。

 この人が手を焼く魔物とは一体何なのだろうか。


「この魔物というのがクレド様の心を覆っていた闇です。この牢獄を形成している結界に誰かが細工をしたようですね」

「それで何をしようとしていたのでしょうか?」


 俺の質問にマユ皇女が答えてくれた。


「それはクレド様の支配です。クレド様の御心を闇に染め、そして何者かがクレド様を支配するための策略だと思います」

「それは本当ですか?」

「ええ。間違いありません。皇帝陛下が私達を動かされた理由はそこにあります」


(マユ様。そろそろ移動した方がよろしいのでは?)


「そうですね。迎えが来る頃です。外へ出ましょう」


 マユ皇女は頷くと外へ向かって歩き出した。俺たちは彼女に従い外へ向かう。

 うす暗い地下から陽光の眩しい地上へ出る。しばらく目が眩んで良く見えなかったが、少し離れた広場に宇宙軍の連絡艇が着陸していた。小型で10名程度の定員だったはずだ。あれで地上と衛星高度の宇宙船を往復できる。


「あれが迎えですかね」

「そのようです。急ぎましょう」


 俺たちはその連絡艇へと向かう。


 しかし、連絡艇のコクピットでパイロットらしき男がしきりに首を振っていた。よく見ると猿ぐつわを噛まされシートに縛り付けられている。後ろに立っていた猿人がにやりと笑い手榴弾を放り投げる。

 俺たちは今来た道を逆に戻り地に伏せる。

 バンという破裂音と共にコクピットのガラスが割れ、機体から火が出て燃え始めた。2~3度爆発する。

 

 俺は直ぐに身を起こし、ゼクローザスへ向かって走り出した。


 残念なことに、ゼクローザスは宇宙軍の重装兵に囲まれていた。

 あの囲みを突破して鋼鉄人形に乗り込むのは不可能だろう。


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