日常系萌え4コマ漫画ってなんなんだよ!? 人生、かな……あるいは、文学、かな……。
突然ですが、私は日常系4コマ漫画が好きです。
ぶっちゃけてしまえば、きらら系と呼ばれる、女の子がいっぱい出てきて、特に大きなストーリー展開もなくひたすらにきゃっきゃうふふと戯れている4コマ漫画が好きです。
そして、それは少なからぬ支持を受け、何本もの作品がアニメ化されました。
そう、4コマ漫画が。
一本一本はたった4コマで終わる漫画、その集合体である4コマ漫画作品が30分アニメとかに普通になってます。
5分アニメの形態を取っている作品もありましたが、昨今話題になるものの大半は30分アニメでしょう。
そして、その中には、「ひだまりスケッチ」のように4期まで制作される作品まで出ました。
……いや、「ひだまりスケッチ」はこのジャンルのアニメのパイオニアじゃん? と言われればその通りなのですが。
確か「ひだまりスケッチ」がきららでは初のアニメ化、だったはずです。
その後、一大ブームを巻き起こして劇場版までつくられた「けいおん」や、「きんモザ」「ごちウサ」など様々なコラボ企画も出る番組が作られ、「ゆるキャン△」へと続いていきます。
その間にあった、メジャーにはなりきれなかった佳作もたくさんありました。
個人的には「GA」とか「かなめも」「ゆゆ式」「スロウスタート」「はるかなレシーブ」「アニマエール」などが好きでしたね。
ええ、百合厨ですが、何か?
というのはおいとくとして。
これらの作品に共通する特徴として「なんてことない物語」ということが挙げられるのではないでしょうか。
例えば「ひだまりスケッチ」。
主人公ゆのを中心に、メインの女の子が4人→6人→5人+2人で美術科の高校生らしい日常を送るだけです。
(なずなは普通科ですが)
大きなコンテストに出すような話もなく、特訓やライバルとの対決もなく、ただひたすらに日常が繰り広げられます。
「けいおん」も同様と言っていいでしょう。
文化祭などのイベントはあれど、大きなコンテストもなく、ただひたすらに日常が送られます。
なので、否定的な声もあがります。
ただ可愛い女の子を並べているだけじゃないか、とか。
なんのストーリー性もない、萌え豚御用達のアニメだ、とか。
まあ、私が萌え豚なのは否定しませんけども。
また、言われていることも、完全に否定できるかと言えば、微妙です。
可愛い女の子一杯です。
いわゆる山場のあるストーリーかと言われれば、ないわけではないですが、弱いとは言えましょう。
(はるかなレシーブはスポコンものとしてのストーリー性がちゃんとあると思います)
では、つまらないか、と言われれば。
決してそんなことはないのです。
でなければ、少なからぬ支持を集め、何本も作られる程度に採算が採れるわけがありません。
また、女の子を並べてきゃっきゃさせるだけで良ければ、売れなかった作品も出るわけがありません。
ストーリーとしての起伏が弱い。
なのに面白い。
これは物語として、どういうことなんだろう?
それについて考えた時に、私は一つの仮説に辿り着きました。
多分、その方面のファンの方からは大ブーイングの可能性もあるとは思うのですが。
『日常系4コマ漫画には文学性がある』
それが私の至った、ほぼ結論と言える仮説です。
はい、石を投げつけたくなった方、お気持ちはわかります。
私も最初は何考えてんだ? と思ったものですから。
ところで、文学史上名高い「吾輩は猫である」ってどんなストーリーでしたっけ。
……もちろん、けなすつもりは毛頭ありません。
猫という視点で物語を見る発想の斬新さ。
そこに描かれる人間たちの悲喜こもごも。
『人間とは』というものを実に巧みに、ユーモラスさを交えて描いた名作だと思います。
つまり、ストーリー性って、娯楽作品には重要だけど、文学作品だとそこまでではないんじゃないでしょうか。
むしろ、そこにどれだけ人間というものの、悲しさ、愚かさ、美しさ、愛しさを描けるか、ではないのでしょうか。
そして、それこそが成功する日常系アニメとそうでないアニメの境目ではないのかと思うのです。
(あ、とことんギャグに振り切ったものは別として。
それは娯楽作品としてギャグに振り切っていただきたいところ。)
私たち日本人のほとんどは高校生活を送ります。
そして、その高校生活がストーリー性に満ちたものだった方は、きっとそう多くはないでしょう。
では、その高校生活は、無意味で無駄なものでしたか? 味気ないものでしたか?
そう問われて……頷く人もそれなりにいらっしゃるかとは思いますが。
そんなわけあるか! と猛反発される方も同じくらいいらっしゃるかと思います。
私たちが、ただ、生きている。
それは決して無意味なものではなく、その過ごした時間の中に学びや喜び、時に悲しみや痛みさえ後々の人生に意味を持つものです。
きっと、多くの方が意識的無意識的問わず、そう感じていることなのでしょう。
で、あるならば。
可愛い女の子たちのなんてことない日常を描いていくことに、意味がない、わけがないのです。
まず、たとえ創作の存在であろうと、彼女らの日常は萌え豚の私なぞよりも遥かに尊い。意味がある。
……ごめんなさい、ちょっと言い過ぎましたが、反省せずに続けます。
そんな彼女らが複数集まる。もうそれだけで尊い。
その上、部活やなにやと一つのテーマを持って活動する。そこで和気あいあいと頑張る。楽しむ。
もう、尊くないわけがない。
そう、日常系萌え4コマを楽しんでいる人間は、ストーリー性を楽しんでいるわけではありません。
そのキャラクターの人生というストーリーの一幕を楽しんでいるのです。慈しんでいるのです。なんなら愛しく思っているのです。
だって、こんな可愛くていい子たち、私の人生には……いたけど、関わることは許されなかったよ!?
見ることすら危険を伴う可愛い女の子たちの日常を、遠慮なく眺めることができる。
これは幸せなことじゃないでしょうか。
そして、ある人はこんな日常が送りたかったと憧れ、ある人は青春ってこんな感じだったなぁと懐かしむ。
受け入れてしまえば、それぞれの立場でそれぞれの感慨を抱くことのできるコンテンツなのです。
愛しき日々の儚さは、消え残る夢、青春の影
なんて歌詞もこざいましたが。
失ってしまった、あるいは得ることのできなかった青春の影を疑似体験できることは、やはり意味があることなのだと思います。
さて、長々と語ってまいりましたが。
つまり、私から見た日常系萌え4コマというものは。
「人間ってそんなものね」を明るくポップに可愛くにぎやかに描いたものなのです。
そこには、極端に言えば人間賛歌が見えます。
人間っていいよね、生きるって悪くないよね、楽しいことあるよね。
まあこの場合、可愛い女の子っていいよね、いちゃいちゃしてるのっていいよね、とも取れるのは否定はしませんが。
さらには、女の子っていいよね、彼女らが生きてるだけで意味があるよね、二人寄り添ったらもっと楽しいよね、なんならいちゃいちゃしちゃえばいいじゃない!
と百合方面に走ってしまったりするのも致し方ないのです、物語の構成上。
ええ、詭弁ですけども。
そして、多分ですけども、成功している日常系萌え4コマのアニメ化は、そういったことを制作側が十分に理解して制作しているように思うのです。
名作と呼ばれる、メジャーになった、二期を作られたアニメは、大体の場合背景描写にこだわりがあったように思います。
なんなら、メインキャラクターがいない、背景やモブだけの場面すら時折挟まれていました。
でも、それが全く不快ではない。
むしろ、それが作品の空気をより良くしていることすらありました。
私はそれが、彼女らの人生、彼女らの生きている世界を描写する行為に見えたのです。
あるいは、懐かしい青春の日々の描写でもあったのかも知れません。
それは、彼女らという創作の人間の人生の一幕を切り取る行為であり、「人間ってそんなものね」と描写するものであり、その意味において文学的だと思うのです。
文学の価値を否定する方は、多分これをお読みの方々の中にはそうはいらっしゃらないでしょう。
そして、その価値の一つに、人間を描くことがあることを否定される方もそうはいらっしゃらないでしょう。
であるならば、人間を描く日常系萌え4コマの価値は、決して否定されるものではないと思うのです。
文学の手法として、登場人物に抑止、抑圧をかけるというものがあります。
生命、人間というものの形を測る時、ただそれを躍動させるだけでは実感が乏しくなる。
ゆえに、抑圧をかけるという形でその生命に触れ、人間というものの形を推察する。
そんな作業が文学には必要となることがあるように思います。
対象に触れる、とういことは、たとえ指先であろうと、触れて圧力をかけて、その反動を感知するということですから。
なので、いわゆる文学作品は暗かったり陰気だったり悲惨だったりするのではないかと。
そういった抑圧をほとんど感じさせずに人間を描けてしまっているから、日常系萌え4コマは受け入れられ、楽しまれ、ストーリーガチ勢からは疎まれているのかも知れません。
話の中に出てくるのは、せいぜいが新しいことを始めようとしたけど上手くいかない、くらいのものです。
その程度の抑圧で人間が描けてしまえているのは何故か、というのはさらなる考察が必要にも思いますが……。
しかし案外、それこそ「人間ってそんなものね」ということかも知れません。
傍から見たらどうでもいいこと、些細な事。でも当人にとっては一大事。
それに振り回され、一生懸命に向き合う。
それが人間であり人生であり、私たちだから、それをわかりやすく受け入れやすく可愛い女の子で描いた作品は、私たちの心に響くのかも知れません。
世界から見ればモブである私たちの人生は、それはそれで意味があるし愛おしい。
それを確認させてくれるから、こんなにも日常系4コマは愛おしく、楽しいものなのかも知れません。