初めに
おそらく、というか確実にこの作品は小説と呼べるものではないだろう。作品というのも間違いなのかも知れない。だが、これはとある男の決意なのだ。そしてここから遅くとも着実に成長していくであろう男をどうか温かく見守っていただきたいのである。
私はある不安に苛まれていた。量産型の凡人、あるいは衆愚に成り果ててしまうのではないかという不安。私は始めはこれを勉学に対する不安だと考えた。しかし、いくら勉学ができたところでこの不安が消えることはなかった。そこで私はこの不安がどこから生み出されているものなのかを積極的に調べることにしたのだ。しかし、何しろこれといった手がかりにがあるわけでもないから調べるのに苦労をした。まずは衣食住の充実を考えた。人間の根本をなすものは衣食住の三つだからである。しかし、これは違った。いくら美味しいものを食べても解消されることはなく。オシャレに着飾っても、模様替えをしても意味がなかった。次に私は趣味を持つことにした。あまりお金を使いたくなかったのから、散歩と読書をすることにした。昼夜を問わず歩いてみたり、哲学書から絵本まで目につく本を読んでみたりした。しかし、これでもまだ不安は消失しなかった。
他にも料理を始めてみたり、けん玉を始めてみたり、いろいろ試してみたのだがどれもうまくいかなかった。そこでようやく私は友人に尋ねてみることにした。この友人というものはとにかく明るく、社交的なやつで、しかも多くの特技を持っているなんとも優秀な男だった。私が彼にこれまでの経緯を説明すると彼は幾分か考えた後、その不安の原因は「個性」だ、とのたまった。個性だと? ふざけるなそのくらい自分にだってある、と私は彼に文句をいった。だが彼は間違いをした生徒を正すよう教師のように、君が思っている個性は「個性」ではなく、君の構成要素に過ぎない、と言った。加えて、私は君は個性的に見えない、などと言ってきた。彼がいうには「個性」とは他人からみた自分の特徴だそうだ。つまり他人から見えなければ「個性」ではないということだ。なるほど確かに私はこれまで積極的に自分を出したりするとことはしなかった。他人の視線を気にしながら、振る舞ってきたと思う。
しかし、これからは違う。私は自分の要素をそれがどれほど未熟で未完成なものであろうともさらけ出していく。そして、私は不安の原因を取り除くと同時に私の個性が確固たるものになることを願うのである。