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空を見て育った子供たちは。  作者: ポジ種→ハードゲイ。一発逆転マルウェア感染
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いつもの朝

破れかけのカーテンから漏れてくる朝日で目が覚めた。


湿気で肌に馴染む柔らかさを持った布団を床に蹴飛ばす。今日の朝ごはんは鶏飯にでもしよう。そう決めたら足が進む。目標に向かうというのは気分が良いものだ。


強化プラスティックの板の隙間から光が漏れだして、この家のみすぼらしさを美しさに変えようと努力してる。光の筋を辿って行くと、一輪のたんぽぽが壁の角に生えている。後で取っておこう。


昇降機に乗って、階を七進んだところが私のキッチンである。皆が足を載せてすり減り、足の形に綺麗に凹んだ厚ぼったい硬化プラスティックの板の上に乗り、これまた皆が手で握ったがためにすり減った、硬化プラスティックのパイプに手を掛ける。この前取り替えたと大家が言っていた、中古のパネル(この昇降機の中では最新の品である)に七の数字を入れ込むと、明らかに法定上昇速度を超えたスピードで昇降機は飛び立った。


昇降パイプの中は相変わらず、ミジンコ油のニオイがプンプンとする。風が通り抜けて心地よい。途中、パイプの中に釘が飛び出してる場所がある。皆、気づいていながら誰も大家に言わないので、長いことそのままにされている。誰か上昇中に何度か服が引っかかったのだろうか、釘は上向きに曲げられていた。


昇降機がガクンと止まった。私はパネルの「降出」ボタンを押して、キッチンフロアの方に足を運んだ。鶏肉を冷蔵庫から取り出し、適当な大きさに刻むと、焦げの着いたままのフライパンにごま油を引いてにんにくとそれを炒めた。私は一週間前に親から送られてきた日本製の炊飯器を開けると、ホンワリと飯のいい匂いがする。それをプラスティックのボウルについでそれにゴマ油と醤油、卵を入れ、思いっきりかき混ぜた後にフライパンに入れて鶏肉と炒める。それをボウルに戻して完成である。


スプーンですくって口いっぱいに頬張ると特に鼻に突き抜けるごま油とにんにくの焦げた香りがとても良い。この料理は、実家に居る時からよく作っていた。もちろん、親に隠れてだが。忙しい朝にはピッタリの品である。


食べ終わった油でギトギトになったボウルをシンクに置いて、その場で歯を磨く。ねっとり絡みつくにんにくゴマ油を電動歯ブラシでこそぎ落とす。顔を洗って、そのまま、昇降機で部屋に戻ると、青年少女工芸団の制服に着替えた。


実にださい襟付きの薄茶色のシャツに同じく薄茶色の生地の薄いズボンである。こんなの、市場で買ったら(ダサすぎて売っているわけがないのだが)ほんの200元にもならないだろうに、私達の両親は何の疑いもなくこいつを6000元という高級ドレス並の値段で買ってくれるのだ。


この国に根付いた驚愕の宗教的政治力に圧倒されながら、私は髪の毛を学校指定の十字結びにして、昇降機で37階のバイク乗り場に向かった。


バイク乗り場には122階に住む同級生の青林がいた。青林は二つ名で、本名は知らない。青林のバイクは中古の日本製のものであった。フロートが斜めに着いた、ださいフォルムに、青林は爆走団のステッカー仕様を貼っていた。昇降機構を改造しているのだろうか。初期上昇音が鶏の朝鳴きのように甲高く妙にうるさくて、私は思わず目をつむってしまった。


私はバイクにキーをかざして、ロックを外し、アクセルに飛び乗った。ハンドルを下向きに押し下げると初期上昇を始める。古びたフロートがガクガクと震えて勢い良く飛び立った。


ポッケに入っていた、父にもらったデジタル懐中時計で時刻を見ると、9時5分である。今日は早めに着きそうだ。


釣鐘型高層ビル群の間を通って、国立三号中空管線に入った。湿気とミジンコ油の燃焼ガスに含まれる窒素酸化物で腐食を受けて、ところどころ、透明な炭素繊維強化樹脂がかすんでいる。今日も管内は通勤者で埋め尽くされ、自動運転アシストによる衝突防止ネットでハンドルに妙な感覚を感じる。


私は法定速度よりも20Km/h早い280km/hで進む。皆がこのスピードなので、このスピード以外で走ることはほぼ不可能なのだ。


十分ほど飛ぶと、辺りにビルは見えなくなって、青林地区に入った。私は青林のただだだっ広く広がる広葉樹林が好きなのだが、この局地的緑化政策は空のリベラリストの格好の標的となっており、青林と安寧地区の間には自由党系の団体による放火活動を阻止すべく、昇降阻害ネットを巡らせている。


青林を抜けたところのICで私は三号線を出た。明文地区。いわゆる、学芸地区である。安寧地区とは打って変わって、白色の強化炭素繊維樹脂の窓を強化プラスティックでつなぎあわせた、芸術的なデザインが自分の存在感を知らしめるべく、ふわりふわりと浮いている。


そんな中で未だに浮遊型の形を取らない国立明文青年少女工芸団の施設は地面に根を下ろして、三百年前のような(実際に三百年前ぐらいに建てられたと聞いたことがある)四角い箱を組み合わせた鉄筋コンクリート製である。


古流建築マニアの間ではどうやら伝説的な存在として名が知れているらしいが、毎日使うものとしては、昇降機もない施設というのは厄介である。せめて、昇降機とクーラーぐらいは付けて欲しい。


兎にも角にも、この工芸団はこの国で一番の歴史を持っている。そして、一番レベルの高い工芸団だ。


私は、生徒たちで混みあった空中を押し分け掻き分け(衝突防止ネットがあるので、実際に押したり掻いたりできるわけじゃないが)屋上のバイク置き場を目指した。


三百年前に建てられた門の上を通って、ビルの上のバイク置き場に着地すると、一番近い所にあったロッカーにバイクを停めた。もう、ほとんどの生徒が来ているらしく、ロッカーの三分の二は埋まっている。


バイクから降りると、バイク置き場の中央に配置された、幅が二十メートルほどある階段に向かう。三年団員の乙班である私は七階へ、つまり屋上から下に四階降りる。無駄に広く作られた廊下のおかげで、とてもスムーズに班室に向かえた。


乙班には既に十九人の団員が居た。全員で団員は二十人。つまり私が最後に来たのである。いつもどおりである。

また始めてしまった新しい連載。前のやつ終わらせろよ。

僕の妄想を具現化するだけのシリーズです。


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