ぎゅうスキ!(9) 人気者
修正しました。2016/10/16
パワポで作った適当な画像修正しました。2016/10/29
巨大なクジラのぬいぐるみがベッドの上に鎮座している。王城の転移者用個室。部屋の隅には折りたたまれたダンボールが立てかけられていた。
金髪の少年が腕組みをして入り口の扉にもたれかかっている。その表情は少し悲しげで眉間にシワがほんの少し寄っていた。窓際には赤髪処女。小窓から外の様子を伺っている。紫鉄血は赤髪処女から2歩ほど離れた場所に立っており、少し悲しげな表情をしていた。
紫鉄血が重い口を開く。
「あなたをここに置いていきます」
赤髪処女はゆっくりと振り返る。こぼれるような笑顔だった。
「うん。わかった」
金髪少年は奥歯を噛み締めたのか強張った表情になっている。
紫鉄血が再び口を開く。
「毎晩、シェフに『クリエル』を送らせます。返信をするように」
「うん。わかった」
赤髪処女は人懐っこい笑顔で応える。紫鉄血は顔を下に向けた。その眉間にはシワが寄っている。
「最低でも一週間は持たせなさい」
「うん。わかった」
赤髪処女の表情は慈愛に満ちており、その綺麗な瞳は強張り震える紫鉄血を写していた。
しばらく沈黙が流れる。
「部屋に戻ります」
紫鉄血はそう告げると足早に部屋の出口に向かう。ドアを開け迎え入れる金髪少年。彼は小声で一人ごとを言ってから紫鉄血に続いた。
「終わったら、迎えに来る」
ドアが低い音を立てて閉まる。
「ばいばい、静…」
赤髪処女は儚げな笑顔でそう言った…
◇◇◇
女は酒に酔っていた。
「キャハハハハ…」
笑いながらグラスを口に運ぶと、一気に喉を通す。
14畳くらいの部屋だろうか。壁一面に茶色の本棚。そこには大小様々な書物が収まっている。部屋の中央近くには一組の革張りソファーとテーブル。部屋の奥には豪華そうな濃い茶色の書斎机。その上には万年筆立てと簡易照明、封の開いた酒のボトル、そして黄色の髪のショートヘアのメガネをかけた女。
ショートヘアは机の上に腰掛け酒をあおっていた。妖艶な笑みを浮かべ頬は軽くピンクに染まっている。足を組んでおりスリットの隙間からはガーターベルトのアジャスターが見えていた。
ソファーには禿が座っていた。
「しかし、どうしてアカイ殿をおいて出ていくと決断したのでしょか?」
禿は疑問を口にする。
ショートヘアはご機嫌に答える。
「え?万事上手く進んでいたじゃない?」
「え?」
禿は驚いたのか目を見開いている。
「うふふふ。気分が良いから教えてあげるー」
ショートヘアはそう言ったあと、グラスに口を付けた。
「隷属のアクセサリーを身に着けなかったのも、『クリエル』の練習を切り上げたのも、魔族と魔王のことがバレたのも、それほど問題ありませんでしたー。てゆーか、隷属のアクセサリーを身につけられたら難易度低すぎてウルルン困っちゃうー」
ぶりっ子っぽいポーズを取る。少し殴りたくなった。
「あーんなゴブリングッズを、しかも一気に何種類も渡されて疑問を覚えない人っていると思う?」
「いや、まあ、その…でもそう言う指示では?」
ショートヘアはドヤ顔で話す。禿はしどろもどろしながら答えた。
「一個だと、奴隷にしようと画策しているのかもしれないと思います。でも、それがこれ見よがしに10個だとメッセージになるのですー。つ・ま・り…」
「私達がほしいのは、アカイさんです。っとね」
ショートヘアは足を組み替える。ご機嫌だ。
「あ…そのためにわざわざゴブリンの意匠を施したのですか?」
禿はそう呟くとスッキリした顔をしていた。
「そのとおりー。あーんなゴブリンの指輪、誰も身につけようとしないでしょ?まあ、メイドを捕まえて実験したのには驚いたけどね。あれはないわー」
ショートヘアは苦笑しながら、グラスに酒を注ぐ。
「まあアカイさんに最終的には隷属してもらいたいんだけど。万が一が怖いのよ。シロガネさんは勘が鋭いからゴブリンなしでも気づくだろうからねー。5年に一度の4連ガチャ。それのウルトラレアよ。失いたくないに決まってるじゃん」
ショートヘアは再びグラスの酒をあおる。
「穏便に進めたかったの。だからメッセージ」
「あの子は護衛だし。主の生命の価値を良くわかってた。主さんも自分の生命を、自分の独断で危険に晒せるものではないことをわかってた。綺麗なのよ、あの二人は」
ショートヘアは寂しい表情をしながら、グラスに酒を注ぐ。
「しかも都合が良いことに、性的な暴力は振るいません、連絡はとれますって条件だもんね。」
ショートヘアはグラスの酒を一気に空にする。
「ホント、吐き気がするわ」
ショートヘアはボトルを片手に苦々しい表情を浮かべていた。
「『クリエル』の難易度を上げたのはね。練習が終わってほしくなかったからなのー。何故ならねー」
一転して、ショートヘアはボトルを振り回しながら自慢気に話をし始める。
夜は長いようだ。
「ホー…ホー…」「モー…モー…」獣の鳴き声が遠くに聞こえる。