ぎゅうスキ!(8) ローストビーフ
修正しました。2016/10/16
パワポで作った適当な画像修正しました。2016/10/29
調理は自己責任でお願いします。
調理内容に意味はありませんが、オッサンが料理ができることに今後意味が出てきます。こんなの読んでいられないという方は、画像まで飛ばしてもらえると幸いです。
「チャララ、ラララ。チャララ、ラララ。チャラララララララララ、ラララ。チャンチャンチャン。チャンチャンチャン。チャラチャンチャンチャンチャン、チャチャチャチャチャ。チャラチャンチャンチャン…」
オッサンは軽快な音楽を口ずさむと踊りだす。
城の調理場なのだろうか。いくつものコンロと、調理器具が並んでいる。棚には綺麗な模様の白い皿が大きさ別にいくつも並べられていた。
その調理場でオッサンが踊っている。
「ここに常温に戻した神戸ビーフ1ブロックがあります。神戸ビーフが正式名称ですからね、ここ試験にでますよ、注意。たまに常温に戻さなくて良いという人もいますが、その人は温度管理のプロだからです。常温に戻ってないお肉から美しいローストビーフを作ることはとてもむずかしい。」
肉の塊を指差し説明。「難しい」のところで指を立ててチッチッチとやっていた。ツバが飛ばないようにマスクをしている。これについては関心する。
「あとは牛脂、ラードじゃありますよ。牛脂です。ラードは豚の脂です。」
「香味野菜適量。これはセロリ・にんじん・たまねぎ・ピーマン・パセリとかですね。熱の調整のためなので捨てる部分で結構です。でもレタスはやめたほうが良い。キャベツの芯はマルです。」
「そしてローズマリー、香りつけです。」
「凧色、これは神戸ビーフが2kg以上の場合だけで良いです。2kg以下なら凧糸がなくても型崩れしにくいです。したらごめんね。」
次々と材料を説明するオッサン。「したらごめんね」のところで殴りたくなる顔をした。
「オーブンの性能によりますが、ここで220℃くらいに温めまておきましょう。」
「凧糸でお肉を縛ります。このときにお肉の繊維方向を覚えます。焼いたら繊維の方向がわかりません。こつとしては、繊維方向のみ凧糸の数を密にするなどマークしてしまうことです。一緒にローズマリーの一部も縛ってしまいましょう」
オッサンは肉をしばっていく。
「塩、胡椒、細かく刻んだ残りのローズマリーをここでお肉に手で塗っていきます。塩コショウの上を転がすだけじゃだめです。塗り込むのです。」
オッサンは肉に、素手で塩コショウ、ローズマリーを念入りに練り込む。
「フライパンに牛脂を入れて熱します。」
「フライパンが十分に熱されたら、先程のブロック肉をフライパンに入れます。六面すべてを焼いていきます。当たり前ですが、トングを使ってください。さえ箸とか勇者すぎます。」
「お肉を焼くのは香り付けがメインです。お肉を高温で焼くとメイラード反応という現象が起き、お肉の香りが増すのです。醤油等もメイラード反応を利用して香り付けが行われています。」
オッサンはお肉をトングを使って焼いていく。「軽く押し付けても大丈夫。全面色が変わってちょっと焼くくらいが良いのかな。オーブンじゃこのメイラード反応起きませんよー」とフンフン匂いをかぎながら、肉を焼いていく。
「オーブンの鉄板の上に香味野菜を敷いていきます。その上に先程の焼いた肉をドーン。香味野菜のお仕事はお肉に焦げ目を付けないこと。ここからは蒸気で熱を加えるのです。」
「そして220℃で25-40分くらい焼きます。温度は180℃から220℃がベストで、低いほうがもちろん長時間焼かないといけません。しかーし、低温長時間の方が、出来上がりの色のグラデーションが綺麗になり味も繊細になるのです。160℃の例もありますが素人には無理です。」
こちらを向いて一通り語ると、笑顔でオーブンの中に鉄板を入れていく。そして隣のオーブンを開く。
「はい。こちらが35分後のお肉になります。」
こんがり焼けた肉が出てきた。
「はい、このお肉をアルミホイルで包んで、30分ほど放置します。これは予熱で内部を温めるためです。やけどに注意してくださいねー。そして、こちらが放置後になります。」
キッチンテーブルの下からアルミホイルの塊が出てきた。
「お肉の繊維方向に直角になるように切っていきます。つまり、焼く前にあった白い脂のラインに対して直角ですよ。」
「薄くスライスした方が美味しいです。これはローストビーフは外側と内側の味の違いを楽しめるからです。」
オッサンはアルミホイルの塊を開けると、もわっと蒸気に包まれた美味しそうなローストビーフを薄く、薄くスライスしていく。
「あとはタレです。ですが、今回は口頭での説明だけにします。理由は後ほど。」
オッサンがウインクした。殺したい良い笑顔だ。
「タレはかんたんです。先程のオーブンの残りのクズ野菜をトングでフライパンに摘んできます。このときに野菜の水分は切らないでください。野菜に染み込んだ肉の旨味を利用したいのです。だからと言って他の余分な脂持ってこないでくださいね、ギタギタになりますよー。」
「そこに赤ワイン。これをぐつぐつ煮込みます。香り付けなので煮立ったらもう良いです。ここでトングで野菜を摘んで捨てちゃってください。特に水分を切らないで良いです。」
「コンソメスープと塩こしょうで調味します。ウェイパーでも良いです。軽く混ぜるだけでOK」
「水に解いたコーンスターチを加えて、出来上がり。これはトロミ付けですね。」
オッサンは一通りタレの説明をしながら、ローストビーフを切り分けていた。
一通り切り分けると、米びつを出す。そして、懐から透明な手袋を出すとそれを身につける。
それを一口サイズに握っていった。「米を握るときは手の温度が低いほうがBEST、パンをこねるときは手の温度が高いほうがBEST」とつぶやいている。
握った米の上に、先程の鮮やかなグラデーションのローストビーフを載せる。その上にわさびを少し。
「どうぞ」
審査員席と書かれた札が乗っているテーブルに、ローストビーフの握りが盛られた皿を並べる。
そこには紫鉄血、赤髪処女、金髪少年、メイド一号、禿が座っていた。紫鉄血はチラチラと皿とオッサンを交互に見ている。赤髪処女はよだれを垂らしていた。獲物を見る獣の表情だ。金髪少年は漫画を読んでいる。メイド一号は皿を見てゴクリとツバを飲み込んだ。禿の瞳は今までにないほど輝き、「ほぉぉぉ」とつぶやいている。
ーーー食後に、紫鉄血はオッサンに言った。
「あなたを見直したわ。正直侮っていた。」
金髪少年もオッサンに一言言った。
「うまかったけど、スキルはどこで使ったんだ?『温度管理』だっけ?」
しばしの沈黙。
オッサン、紫鉄血、禿はその表情が固まった。赤髪処女とメイド一号はとても満足そうな顔をしたままだ。どうやらオッサンの2つ目のスキルを確かめるための料理会だったようだ。
オッサンは叫ぶ。
「今日一日無駄だったー」
余談だが、調理中にオッサンは娘から送られたメールをずっと開いていた。その表題は「クックパッ○ ローストビーフの作り方」と書かれていた。