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ぎゅうスキ! TWIST  作者: 神戸 ビーフマン
牛、世界を知る
23/29

ぎゅうスキ!(21) 5回目の結婚

3章開始しました。2016/11/05

 「これからの行動を説明します」


 紫鉄血は腕を組んで仁王立ちしたまま、そう言った。腕にはずっしり偽物が乗っている。


 金髪少年は胡座をかいている。読んでいる漫画の本を閉じた。赤髪処女は眠たそうにしている。正座して紫鉄血に注目している茶色いきのこ。オッサンはコーヒーを飲みながら顔だけ紫鉄血に向けている。



 「当面の脅威が去ったため、しばらくは慎重に行動します」

 「え? 送還装置に向かわないの?」


 オッサンの発言にため息をつく紫鉄血。


 「詳細な場所もわかってないでしょ。まずは情報収集が優先。友好的な相手が待っているとも限らないし」


 なるほどと何度も頷くオッサン。何故か金髪少年も頷いている。


 「これからの行動でやることは大きく3つです。出品者サービス無双と情報収集、それに戦力の分析強化の3つよ」


 「「おおー」」


 オッサンと金髪少年が歓声をあげる。赤髪処女は横になった。





 「まず出品者サービスだけど、これは第三者が商品を売ることができるサービスよ。準備にもうちょっと時間がかかるんだけどね。『牛の穴』でこの出品者サービスを行えば、こちらの世界のものを向こうの世界に移動させることができると考えているわ」


 「「おおー」」


 「そしてそれを向こうの世界で分析して大量生産したり強化したものを、再びこちらで買い取ります。これが出品者サービス無双計画!!」


 「「おおー」」


 金髪少年とオッサンは輝く目で紫鉄血を見ている。赤髪処女は完全に寝たようだ。いつの間にか毛布をかぶっている。


 「これはさっきも言ったけど数日程度かかるので、それまでにできることはミスリル等の不思議鉱石とか魔法が出るような不思議武器を手に入れておくことよ」


 コクコクと頷くオッサンと金髪少年。





 「次に情報収集。優先度が高い順に言うと、昔の勇者の情報、魔王と魔国の情報、スキルや魔法の情報、最後が魔国のダンジョンの情報よ」


 「昔の勇者の情報が最優先なの?」


 オッサンは疑問に思ったようだ。


 「……フンデレパモモロキオスはあるでしょうか?ないでしょうか?」


 紫鉄血はいきなり意味不明なことを言い出した。


 「は?なにそれ?」


 オッサンの疑問には答えず、次の質問をする紫鉄血。


 「なぜ太陽があるか答えなさい」


 「え?……ビッグバン?」


 それは宇宙の起源だ、オッサン。



 満足気な顔で紫鉄血は話を続ける。


 「そう。それが普通の反応なの」


 腕を組んだままその場を回るように歩きだす紫鉄血。腕の上にはスキルで強化されたあれが乗る。オッサンのビッグバン発言は決して普通の反応ではない。流したな…


 「戸籍はない。冒険者ギルドはランク制度ではない……転移直後のシュバルツの説明はやはりおかしいの。あるものはあると答えられるけど、ないものの説明ができるはずがない。

 逆にスキルはスキル。この表現は自然だわ。あるのが前提のものだから説明がとても難しい」


 紫鉄血は説明を続ける。文脈から考えるとシュバルツというのは禿のことだろうか。

 立ち止まり、オッサンに向かって言葉を紡ぐ。


 「たぶん、あの時の説明は戸籍や冒険者ギルドのランク制度を知ってる人が残した言葉も混じっているのだと思う。……その人物を私は百年前の勇者だと予想したわ」


 「でも百年前なんだろ?」


 疑問を露わにするオッサン。

 紫鉄血は腕組みをすると再び周囲を歩き回る。あれも再び腕の上に乗る。


 「ケモナーはほぼ獣だから注意するように…あのときシュバルツは確かにそう言ったわ。

 ケモナーとは動物好きの人のこと。ケモナーはほぼ獣だと喜ぶはずなの……

 ところで最近ある間違った使われ方がSNSとかで有名になってきているの。ケモナーを獣人好きを表現するときにつかうということが」


 「もしかしたら、勇者が私たちの世界のかなり近い時代の人なんじゃないかって思う…」


 「理由はわからないけど、言葉の出処を考えるとそうとしか思えない」


 「以上から帰ったとされる勇者の情報を調べます。それをもとに向こうの世界でお父様に勇者を見つけてもらう。これが実現すればスキルは持ち帰れるのか、送還装置はどこにあるのか等の情報がまとめて手に入るわ」


 丁寧に疑問点と自分の考えを説明する紫鉄血。

 それを聞き、なるほどと頷くオッサン。どうやら納得したようだ。茶色いきのこは微動だにしない。その鼻にはちょうちんが出来ていた。赤髪処女は「おにくー」と寝言を言って寝返りをうつ。





 「最後に戦力の分析と強化だけど、今あるスキルがどういう応用が効くのかを今日調べます。他には今買えるものでもっと強化できないかの検討。あとはダンジョンの情報を得てからだけど魔法取得ね」


 「「魔法!!」」


 ハモるオッサンと金髪少年。やはり男はいつまでたっても子供だ。


 「ちゃんと情報収集してからよ。『暗闇の洞窟』のように肉壁を雇ったり、できるだけ安全な方法を取るから。何も調べずにダンジョンに私達だけで突入するとか漫画だけにしてちょうだい」


 「「えー。異世界冒険っぽくない」」


 再びハモるオッサンと金髪少年。

 ため息をつく紫鉄血。まるで大きい子供を持つヤンママだな。





 「『隠蔽』の効果を確かめます。ロイ君!」


 茶色いきのこを指差し叫ぶ紫鉄血。


 「……ハッ」


 応える茶色いきのこ。鼻提灯が消えた。こいつ目を開けたまま寝ていたな……


 「孤高田株式会社のだつぜ…間違えました。税務書類を作成しなさい」

 「まてい!!!」


 大声で叫ぶオッサン。


 「孤高田株式会社とは何だ?」


 「会社名よ。本社は東京都港区六本木。代表取締役社長は孤高田武、つまりあなたね。設立は昨日。資本金は30億。従業員数は22人」

 「ツッコミどころがーツッコミどころが多すぎる!!」


 淡々と説明する紫鉄血。悲痛な叫びをあげるオッサン。


 「昨日寝たログハウスとか、『牛の穴』の支払いもその会社になってるぞ」

 「ハァ? なんでねえ、なんで?」


 ボソッと口ずさむ金髪少年。疑問をあげるオッサン。台詞の知能指数が下がっている。


 紫鉄血はしばらく思案顔をした後、非情な判断を下した。


 「そこの木に縛りつけなさい」

 「わかった」

 「離せー!ふざけんなー!」


 従う金髪少年。無駄な抵抗をしながら叫び続けるオッサン。

 いつもどおり状況は混沌としていた。




◇◇◇


 「だつぜ…税務書類の方は記載内容を頭に入れないと難しいみたいね。ロイ君には異世界の法的な書類を一通り覚えてもらいます。頑張るように」


 「ハッ!畏まりました、姫!」


 敬礼で応える茶色いきのこ。忠誠度がMAXになったようだ。



 「これより、『ヨメデル』の検証に移ります」


 胸を張り告げる紫鉄血。

 いつもならここでオッサンのツッコミが入るところだが、オッサンは木に縛られぐったりしていた。金髪少年は漫画の本を読んでいる。”キングDam”という漫画だった。ヒョウコウというキャラクターが好きだな。赤髪処女は夢の世界へ旅立って早幾年。


 紫鉄血は懐から”白銀十文字「娘へ」第8巻”と書かれた書籍を取り出す。もう嫌な予感しかしない。



 「孤高田武と陽子の離婚届を造った後、孤高田武とイザベル・メンドーサの婚姻届を造りなさい」

 「誰よ? それ誰よ?」


 オッサンのツッコミが復活した。ぐったりしていたのは演技だったのだろうか。今までオッサンと赤髪処女は夫婦だったのか…



 「…『隠蔽』孤高田武とイザベル・メンドーサの婚姻届け」

 「くそ!くそしいたけ!許さんぞ。お前を許さんぞー」


 きのこがスキルを発動すると、一枚の紙切れが現れ徐々に透明になり消えていった。オッサンの叫びは当然のように無視だ。



 「『ヨメデル』を使いなさい」

 「は? 誰出すの? イザベル・メンドーサって誰よ?」


 紫鉄血の言葉に、混乱を極めたオッサンが返す。



 紫鉄血はニコリと笑顔を作ると、オッサンに絶望を告げる。


 「”一番傷つくのは俺”なんでしょ?

  男に二言はあるのかしら?

 『ヨメデル』の実験は私達が帰るには必要なことなのよね」


 真っ青になるオッサン。紫鉄血は『暗闇の洞窟』でのビンタを根に持っていたらしい。



 目に涙をためてスキルを発動しようとするオッサン。しかしスキルは発動しなかった。


 「世界を渡って呼ぶことはできないのかしら?」

 「俺、嫁さんと離婚する必要性なかったの? ねぇ、なかったの?」


 考察する紫鉄血。後悔するオッサン。第16巻を読んでいる金髪少年。茶色いきのこは鼻提灯を再び作っていた。



 「念のため日本人でも確かめましょう」


 オッサンは悲痛な表情を浮かべる。


 「ロイ君、孤高田武とイザベルの離婚届と、孤高田武と梅田トメの婚姻届を造って」

 「……ハッ!畏まりました」

 「梅田トメって誰よ? なんか年齢が高そうな名前なんだけど?」


 紫鉄血は指示をだす。茶色いきのこは寝ていても反応したようだ。サラリーマンの必須スキルを持ってやがる。オッサンは4回目の結婚相手が気になるようだ。


 「梅田トメ。84歳。夫とは5年前に死別。とあるわね」

 「84歳!ちょいまって俺36。婆ちゃんより年上だから。お願いします。やめてください!!」


 「…『隠蔽』孤高田武と梅田トメの婚姻届け」 

 「えぐっ……うえーん」


 きのこに情はなかった。本気で泣き出すオッサン。紫鉄血は少し気の毒そうにオッサンを見つめていた。金髪少年は「『ヨメデル』を引いたのが俺じゃなくて本当に良かった」と呟いていた。



◇◇◇


 オッサンが落ち着くまでしばらく時間を要した。尚、『ヨメデル』を発動しても孤高田トメは現れなかった。本気で救えない……


 「重婚の確認もしましょう。離婚せずに白銀静との婚姻届を造りなさい」


 オッサンは項垂れている。その瞳は輝きを失い、地面を見続けていた。


 「駄目なようです。スキルが発動しませんでした」


 応える茶色いきのこ。



 「そう…実験は終了ね。最後に孤高田武を離婚させて、白銀静との婚姻届を出しておいて」

 「え? 嫁さんと戻してやらないの?」


 最後の指示に応えたのは、金髪少年だった。明日の我が身を見ているように感じたのだろうか?



 「駄目よ。私が捕まったときに呼び出してもらうかもしれないでしょ。婚姻の経歴よりも皆で一緒に帰ることを優先させましょう」 

 「おおう…意外とまともな理由だな…」


 金髪少年の優しさは紫鉄血には届かなかった。



 「まあ、状況によっては赤井と再婚したりころころ入れ替えるからよろしくね。戸籍謄本から履歴は合法的に消せるから、元の世界に戻ったら手続きをすればいいわ」


 どこまでも紫鉄血は紫鉄血だった。




 「バツ4…一夜にしてバツ4……キガミ君。キガミ君が『ヨメデル』を覚えれば…」


 虚空を見つめ呟くオッサン。

 金髪少年はビクッと反応した。平静を装い漫画を読んでいるが、額からは汗が吹き出していた。


 「鬼神がスキルを習得したら赤井とペアよ。鬼神は前線での戦闘がメインだから同じ戦場に立てる赤井とペアの方が好ましいわ。つまりあなたは私と。

 あと、言い忘れてたわ。この世界の女性を捕獲したらまた実験だから」



 紫鉄血の死刑宣告を聞き、オッサンは地面を叩きながら叫んだ。


 「ちくしょうがぁぁぁ!!!」




 ~孤高田武の結婚歴~


 2003年8月8日 エリーゼ ジュブワと結婚

 2016年10月4日 エリーゼと離婚 (バツ1)

 同日 赤井 陽子と結婚

 2016年10月6日 陽子と離婚 (バツ2)

 同日 イザベル メンドーサと結婚

 同日 イザベルと離婚 (バツ3)

 同日 梅田トメ (84歳)と結婚

 同日 トメ (84歳)と離婚 (バツ4)

 同日 白銀静と結婚




 * * *


 表題:RE:パンパカパーン

 差出人:孤高田武

 本文:というわけでセイちんと結婚しました。

    (T0T)//†アーメン~(泣)



 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…うおおおおおおおおおおおお、せいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 野獣の吠える声がする。


 「離婚ってどういうことですか?夫は遠いところに行ってるっていってたじゃないですか。なんで離婚届出せるんですか。それに私は合意した覚えはありません」


 遠くで声が聞こえる。



 高層ビルの一角。周囲はガラス張りで細々とした都会の様子が一望できる。広いフロアはパーテーションで区切られていて、20人ほどの従業員がPCに向かって作業をしていた。金髪前髪ぱっつんの少女は一際大きなデスクの奥にある革張りの椅子に座っており、両手で耳を抑えていた。

 デスクには「専務:孤高田フランソワーズ」と書かれてた黒い氏名標が佇んでいる。



 「殺す。孤高田武を殺す。ころおおおおおおおおおおおおす!ころおおおおおおおおおおおおおす!」

 「麻酔銃だ。象用の麻酔銃を持って来い」


 野獣を捕獲する作戦が聞こえる。


 「あの人はどこにいるんですか?再婚ってどういうことですか?」

 「奥さん落ち着いてください。く、くび、首を絞めないで…」


 遠くで殺人事件が起きようとしている。



 少女は眉間に皺をよせつつ、座った革張りのPCチェアをクルクル回しだす。チェアは360度回転仕様のようだ。



 そして、ため息を付くと遠くを眺めながら切実に願う。



 「パパ……お願いだから、早く帰ってきて……」



 日中に薄っすらと見える月は帯状の雲に巻き込まれ、姿を消していった。



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