ぎゅうスキ!(19) Bさんが最高評価を付けました
続き書きました 2016/10/31
パワポで作った適当な画像追加しました。2016/11/03
白い髪は焼けただれていた。両の足は膝から下を失っている。体に幾つもの火傷の痕があり、その色は赤く、まだ火傷を負ってからそれほど日にちが過ぎていないことを表していた。
そこは豪華な造りの部屋だった。意匠の施された机には高そうな羽の付いた万年筆が立てられている。机の背にある壁は本で埋まっており、背表紙の文字も異なる言語で書かれているものが多そうだった。本棚に向かい合う壁には牛の絵が描かれた絵画。それとは別に光を取り込むための窓がある壁。その窓の外には7つの月がVの字を作っている。そして、部屋の隅にあるクイーンサイズのベッドには包帯まみれの男が悶え苦しんでいた。
「許さん。許さんぞ、ココーダ!ここおおおおおだあああああああ!!!」
「くそがっ! 武人を馬鹿にしおって!」
「奴だけは。奴だけは」
おお。怒髪天を衝く状態だ。頭に毛がどこまで残っているかわからんがな。
オッサンにローション塗れにされて、ケツに槍をぶっ刺されて、部下を皆殺しにされて、不意打ちで酷い怪我を負わされただけなのに……よく考えなくても恨まれて当然だった。
「ココーダ…ココーダ…」
恋い焦がれる乙女のようにオッサンの名前を呼ぶ壮年の男。その表情は鬼のようだ。
「バルガスはどこ?」「師匠は生きているのか?」「笑えるー」
遠くで声が聞こえる。
やがて足音が近づいてきた。
扉が開かれる。
視界に入ったのは、陰険メガネと優男と色っぽい女とその他大勢だった。
「ココーダ…ココーダ…」
壮年の男は気づいていないのか、変わらずオッサンの名前を繰り返す。
陰険メガネは壮年の男に近づき、その残った目に映る位置まで移動した。
「お…おお。ウルベリア様……申し訳ありません」
壮年の男は今度は泣き出した。
「申し訳ありません。申し訳ありません……」
壮年の男は泣きながら謝罪を続ける。
陰険メガネは壮年の男が落ち着くまで待った。およそ30分くらいかかった。
「落ち着いた?」
陰険メガネが想念の男に話しかける。
壮年の男は「はっ!」と答えると、残った瞳に鋭い輝きが戻る。
「ほ、報告します。部隊55名中、23名死亡。その9割近くをココーダ1人に殺られました。」
「「「は?」」」
陰険メガネ等3人の声が揃う。目が大きく見開き、口は半開きで開けっ放しだ。
「じ、事実です。奴は強大な力を持っており、迷宮ごと部下18人を飲み込みました。また迷宮の外で待機していた部下のうち2名が顔面や体に不自然な穴を開けられ殺られています。キガミは刀を使うのでココーダが殺ったのではないかと推測します。お、俺の怪我も…ココーダに……奴は危険です」
壮年の男はまくし立てるように報告をする。自分が倒されたことについてだけは途切れ途切れ述べていたが。
「ココーダさんが?まさか? 『暗闇の洞窟』でレアスキルでも取得したとかかしら?」
「……いえ。奴が『暗闇の洞窟』で取得したのは『ヨメデル』でした」
陰険メガネの独り言のような発言に答える壮年の男。
「だったら、ますます訳がわからない…」
「へぇ……ココーダ、雑魚のふりをしてたってわけだ」
「そんなやばい奴なんだ」
3人は思い思いの言葉を発する。
「別の者から、キガミ君が本以外を『牛の穴』で購入してたって聞いたけど、本当なの?」
陰険メガネは別の疑問を口にする。
「……はい。間違えありません。映像を写す機械や掃除をする機械を買ってました。冒険者ギルドの受付嬢がそれらを所持しております」
壮年の男はオッサンの危険性を話半分でとらえられたのが気に食わなかったのだろうか表情が曇っている。しかし、上司からの質問に答えることにしたようだ。
「そちらの確認は楽そうね。先にやりましょうか」
陰険メガネは優男と色っぽい女をちらりと見る。
優男は笑っているようだが、その瞳は暗い陰を落としている。色っぽい女は変化は良くわからない。喜んでいるようにも見える。
「バルガス将軍。ロゼを付けます。機国に渡ってその失った部位を機械で補ってきなさい。その後は追跡部隊として独自に行動していいわ。ロゼも付けたままにしとくわ」
「えー。加齢臭が臭い。……まあ良いか、そちらのほうが面白そうだし」
陰険メガネは壮年の男にまだチャンスをやるようだ。色っぽい女は最初は嫌そうな顔をしていたが今は上機嫌のようだ。
「おお。ありがとうございます。この老いぼれに一矢報いる機会をくださり」
壮年の男は再び泣き出した。今度は感激の涙のようだ。涙もろすぎる。
陰険メガネと優男、その他大勢は部屋を後にする。
「わからないことが多すぎる…」
そう言うと爪を噛む陰険メガネ。
ふと、思い出したかのように呟く。
「念のため後で確認に行きましょうか。”牧場”へも」
◇◇◇
ちっ。せっかくの美味いズブロッカが台無しだ。
タイムレコードを確認する。
……5時間前だ。
色々と不味すぎる。
迂闊に動くと気取られる。
逃げるのは楽だが、目的から遠ざかる。
……仕方ない。しばらくは流れに身を任せて様子見だ。
「我が親友フェルナンデス、オッサンを…ココーダを頼む。」
「しかし、それでは貴公は…」
我が親友フェルナンデスは俺の心配をしているようだ。ふっ…いらぬことを。
「構わん。まずはココーダの守りを頼む。それとも俺では不安か?」
しばし沈黙する我が親友フェルナンデス。
「…わかった。貴公を信じよう。さらばだ、ノリオ」
フェルナンデスはそう言うとこの地を後にする。
「……オッサンを頼んだぞ、フェルナンデス」
遠ざかる親友の背を見て、俺は希望を込めてそう言った。




