ぎゅうスキ!(13) 冒険者ギルドの悪夢
修正しました。2016/10/28
パワポで作った適当な画像挿入しました。2016/10/29
「エアコンはそっちに配置して」
「あいよー」
「ガソリンを購入しておいて」
「わかった」
「ここに100インチの大画面テレビを置いて」
「テレビ台はどうする?」
「とりあえず買っておいて」
「どうして……どうしてこんなことに……」
「何かすみません。」
黒のショートカットが可愛い受付嬢は茫然自失とし何かを悔やんでいた。オッサンは謝っている。紫鉄血と金髪少年はレイアウトを決めて物を配置していた。
ホールと酒場が合体したような内観の建物。ホール部分には幅1メートルの木のカウンターが5つ並べられており、そのカウンターの奥には上階へ続く階段がある。酒場部分は6人がけの席が20ほどと大きな円卓が並べられていた。床や壁は木できており、壁の一角には今日の依頼と書いてある掲示板が貼り付けられていた。
現在、そこに似つかわしくない物が存在している。ホールの中央に置かれている小型発電機とガソリンケース。そこから延びているケーブル。その先には巨大なテレビとブルーレイレコーダー、ハンディ掃除機、コタツ、エアコン。…どれも浮いた空気を醸し出している。
「あ。冒険者ギルドの説明をお願いしても良いですか? 聞いとけって言われたんで」
オッサンはためらいがちに受付嬢に話しかける。
「え、ええ……」
受付嬢はまだ呆けたままだった。
◇◇◇
「パーティーの募集:新人冒険者3人組です。部下を20人募集します。(定員締切あり。給与の一部に異世界の珍しい物品の購入権利有り)」
大きな看板にはそう書いてあった。
3つの人だかりと1つの列が出来ている。
人だかりの一つには100インチ大画面の色鮮やかな液晶テレビ。天空の街ラプータが映されていた。
「「「おおおー!!」」」
映像を見た冒険者達が歓喜の声をあげている。皆が皆、少年のような瞳だ。輝いている。
ハンディ掃除機、コタツ、エアコンが置いてある家電コーナーにもう一つの人だかりが出来ている。
ゴミと書いてある袋を開けて、それを掃除機で吸い込んで感動している冒険者。エアコンから出る風に恐る恐る近づき驚愕の表情を浮かべる冒険者。様々な反応を見せている。中でもコタツは人気なのか取り合いになっており、むさい中年が8人ほどぎゅうぎゅう詰めで入り込んでいる。その中は異臭が酷いことが予想された。
最後の人だかりは、様々な本が置かれておりそれを皆が読んでいた。人気なのはアイドルのグラビア写真集となんでも屋”牛の穴”通販カタログ最新版のようだ。グラビア写真を見ている冒険者は少し前かがみだ。エロは世界を超えたようだ。
1つの列の先には豪華な椅子。その椅子には紫鉄血が足を組んで座っており、ティーカップに口を付けている。紫鉄血の横には金髪少年とオッサンが立っている。それぞれ斬馬刀と刺身包丁を抜き身で持っていた。
列を作っている冒険者達が次々と紫鉄血に自己紹介をしては書類のようなものを渡していく。紫鉄血はその書類を受け取っては選り分けていた。書類には名前、年齢、スキル、冒険者ポイントなどが記載されており、まるで履歴書のようだった。
「17番、ミック、スキル『パンデル』、最高月間ポイント330pt、年間ポイント2100ptです」
「次」
「18番、スティーブ、スキル『パンデル』、最高月間ポイント108pt、年間ポイント690ptです」
「次」
「19番、ロイ、スキル『隠蔽』、最高月間ポイント210pt、年間ポイント1200ptです」
「次」
「売ってくれ、いくらでも出す」
また商人だ。先程から購入したいと何人もの商人が列に混じって懇願しにきている。そして例外なく金髪少年に叩き出されていた。
「ぐはっ」
金髪少年に蹴り出される商人。
商人が追い出された冒険者ギルドの出入り口にはプラカードを持った冒険者。そのプラカードには「ただいま入場規制が出されております」と書かれていた。
◇◇◇
顔に大きな傷がある壮年の男。髪には白髪が混じっている。
その壮年の男が列を無視して紫鉄血に向かって歩いてくる。
金髪少年は紫鉄血の前に立つ。斬馬刀の切っ先をを左後方に下げ、いつでも斬りかかれるような体勢をしていた。
喧騒に終わりが告げられたかのようだった。自己紹介をしていた冒険者達も沈黙して壮年の男と紫鉄血の様子を見ている。コタツに入った冒険者達はコタツに入ったままだった。
「なあ、これいじょう大事にせんでくれ」
壮年の男はそう言った。話す内容はお願いのようだが、威圧感が半端ない。
「私たちはパーティーを募集しているだけよ。許可もとったわ」
「なんでこんなことになってるんだ」「すみませんすみません」
紫鉄血は堂々と答える。
遠くで声が聞こえる。謝っている声は黒髪受付嬢に似ている気がする。
「どうせここにいるのはほとんどが俺の傭兵団のものだ。強いのを20人選ぶ。それで良いだろ?」
「あなたは?」
「バルガス。この傭兵団のリーダーだ」
再び沈黙が場を制する。
「自己紹介はそれだけ?」
紫鉄血は不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「スキルは『スシデル』だ」
「不採用」
答えた壮年の男に対し間髪入れずに返す紫鉄血。
「くっ。『スシデル』と『シュガデル』だ」
「不採用」
「…『斧王』『スシデル』『シュガデル』『ヘソデル』。スキルはこれで全部だ」
「不採用」
似たようなやり取りを繰り返す2人。紫鉄血の表情は段々と明るくなり、反対に壮年の男の表情は曇り始めていた。
しばらく静寂が訪れた。様子を見守る冒険者の何人かは息をするのも忘れているようだった。
壮年の男が静寂を破る。
「バルガス、バルガス・クーガー。スキルは『斧王』『スシデル』『シュガデル』『ヘソデル』。獣化は『迷宮の番人』『ひひーん』『ぶーぶー』『がおー』『ほーほけきょ』。以上だ」
「『ひひーん』?」
「以上だと言ったはずだが?」
今度は壮年の男が紫鉄血の疑問に即答し、会話を打ち切らせる。
「…あなたを除いて15人まで。5人はこちらで選ぶわ。あなたの部下から追加で面接を受けさせてもいいわよ」
「……わかった」
どうやら話はまとまったようだ。壮年の男は酒場の席に戻ると一人の冒険者に指示を出していた。さり気なく合計人数が1人増えた気がした。
再び場に喧騒が訪れる。
「21番、クリープ、スキル『パンデル』『ペパデル』『忍び足』、最高月間ポイント110pt、年間ポイント110ptです」
「次」
「22番、マイケル、スキル『スシデル』『ケンデル』『フクデル』、最高月間ポイント305pt、年間ポイント600ptです」
「次」
………
自己紹介も再開されたようだ。大画面で映されていた天空の街ラピュータを見ていた冒険者は一時停止を解除して再び映像を見出した。リモコン使いこなしているのか…適応能力が高すぎる気がした。掃除機、エアコンも電源が再度入れられる。コタツに入った冒険者達はコタツに入ったままだった。出入り口のプラカードは「完売御礼。本日終了です」という内容に変わっていた。
階上から声が聞こえる。
「こんなことになるとは思わなかったんです。新人冒険者にフロアでパーティー募集しても良いですよって、普通にいつもの回答しただけだったんです。」
彼女の悲痛な叫びは天に届かず、残り5名の冒険者の採用が決まるまでこの状況は続いた。
◇◇◇
「再度、雇用条件を確認します。」
フロアには20名の冒険者が5x4の隊列を組み、紫鉄血に注目している。紫鉄血は両手を組んで豪華な椅子の前に立っていた。その横にはオッサンと金髪少年。そして少し離れて壮年の男が控えている。
「給金は、毎週こちらのお金で10万円、異世界のお金で1万円です。
異世界の物品の購入は、記入用紙に番号を書いて提出してください。
武器、防具、食事代、交通費は支給します。
ボーナスはありますが、成果を求めての命令の無視は許しません。
死亡した場合、遺族に死亡退職金を払います。また個人の所持品は可能な限り遺族に渡します。
除隊時にはすべての支給品を返してもらいます。
私の命令は絶対です。以上」
「「「イエス・マム」」」
紫鉄血は満足顔で建物を後にする。金髪少年、オッサン、壮年の男がそれに続く。その後ろには20名の冒険者が足並みを揃えて付いていく。
嵐は過ぎ去った。
…と思ったら、オッサンが戻ってきた。
黒髪の受付嬢に言葉を告げる。
「迷惑料として、ここのテレビとか全てあなたにあげるそうです」
オッサンはそう言うと小走りにその場を去っていく。
呆然とする黒髪受付嬢。
目を大きく見開き、受付嬢を凝視する冒険者とギルドの職員と商人達。
次の瞬間、皆が黒髪受付嬢に突撃した。
悲鳴を上げる黒髪受付嬢。
喧々たる冒険者ギルド、そこには豪華な椅子が寂しげにホールに佇んでいた。
余談だが、オッサンが受けていた冒険者ギルドの説明を要約しておく。
・依頼の種類
採取、討伐、護衛、調査の4つ。
採取はほとんどが場所が困難なところにあるもので最も難易度が高い。食料や薬はスキルで出るため必然的に必要なものは贅沢品になるからだ。
討伐は主に闇の領域から出てきたモンスターの退治。難易度はモンスターの強さによる。
護衛は街から街へ移動する依頼者について回り危険から守るのが仕事だ。ダンジョンでの護衛は危険すぎるので冒険者ギルドでは受け付けていない。
調査の難易度は様々。闇の領域の調査は難易度が高い。他国の動向調査は難易度低め。ただし魔国だけは密入国になるため大変。
・ポイント制度
依頼をこなすと依頼料の他にポイントがもらえる。
上記のポイントの数値は、依頼の難易度ポイント+顧客の評価ポイントで決まる。
累計、年間、月間の取得ポイントが公開されている。
依頼に対しポイントが高い冒険者が優先して受けることができる他、依頼者が依頼条件に下限ポイントを課することもある。
最近は依頼をろくにこなしてないのに評価ポイントが高い者が多いそうだ。調査の結果、低ポイントの者が互いに格安の依頼の指名発注と受注をしており、顧客評価ポイントを不正に高めているらしいことがわかったらしい。




