ぎゅうスキ!(12) 3人目の従者
パワポで作った適当な画像修正しました。2016/10/29
オッサン達はパン屋を出た後、色々な店を見て回っていた。
「ちょうど良い広場があるわ。休憩しましょう」
紫鉄血の提案に従い広場のベンチに座る。
中央通りの一角。少し開けた場所になっており、そこには男と犬の銅像が建っていた。像の男は刀を腰に差して散歩しているようだ。その周りに円を描くように置かれているベンチ。オッサン達はそのベンチの一つに腰を下ろし休憩している。
「なんで俺tueeeeの常識が通じないのよ」
紫鉄血は持ってる本を握りしめると吐き捨てるようにそう言った。
「『ペパデル』で胡椒がでる。『シオデル』で塩が出る。『シュガデル』で砂糖が出る。『ミソデル』で味噌が出る。醤油は直接出てはこないけど『スシデル』でご丁寧にわさびと充填されたランチャームが付いてくるのは何でなのよ!」
紫鉄血は持っている本を地面に叩きつける。軽快な音がした。本には"ニートだったのにトラックに跳ねられて異世界転生。輸送チートで俺無敵、獣耳奴隷達に感謝されてハーレムを作ったり腐葉土で内政チートもやりながら魔王の娘と結婚しちゃった"と書かれていた。…まさか、本のタイトルか?
「『フクデル』でウニクロの服が出るのはどういうことよ。しかも、ご丁寧にロゴ入り。どおりで道行く人の服装が地球と変わらないはずだわ。作り方もわかってないのにスキルの力で地球と似たようなものが再現されてる…」
地球の飛行機だって作られてはいたけど揚力が解明されたのは最近だぞ。理論はそれほど重要ではない。安定して提供できることが重要なのだ。
「これでは黒胡椒と船を交換することもできやしない…」
「いや、それはテレビゲームソフトの話だから」
オッサンは冷静にツッコミを入れていた。
* * *
「売れそうなものを提案しなさい」
立ち直った紫鉄血はそう言った。
「漫画を売るのはどうだ?」
金髪少年が応える。相変わらず漫画が大好きだ。
「単価が安そうね。でも趣味趣向にピントを合わせるのは良いアイデアよ」
紫鉄血の反応は上々だ。金髪少年は俺の仕事は終わったとばかりに漫画を懐から取り出す。今度の漫画は”クロメが斬る”だった。うう…チェルシーたん…
「マヨネーズは?」
「売ってたじゃない……どうせ『マヨデル』とかがあるのよ」
オッサンの意見は却下される。
「薬は?」
「『ピルデル』というスキルがあるみたい。もう何でもありよね……」
「全部の薬が出るとは限らないんじゃないかな。」
「そうね。細かく調査するのはありね。でも今回は時間がないから却下よ」
オッサンの2回目の意見も採用されなかったようだ。オッサンは少し不貞腐れた。
「地球にあって、緑の看板がなかった店は何があったっけ?」
オッサンは質問する側に回ることにしたらしい。
「簡単に考えつくのは、本屋とコンビニ、銀行、貴金属店、宝石店、車屋、美容室、パチンコ屋、携帯ショップ、ガソリンスタンド、おもちゃ屋、漫画喫茶、雀荘、電気屋、ガンショップのような武器屋、酒屋などね。『サケデル』はないのかしら?」
紫鉄血はしばし思考を巡らせる。
「武器は敵に塩を送るようなものだから論外として。使えそうなアイデアは、お店自体がなかったおもちゃ屋、電気屋、酒屋。スキルがないので単価が高そうなのが貴金属、宝石店あたりね」
どうやら考えがまとまったようだ。紫鉄血は金髪少年に『牛の穴』で買うものの指示を出している。オッサンは金髪少年の代わりに漫画の本を読んでいた。作者は紫鉄血が主人公の方が良かったかもしれないと思い始めていた。
◇◇◇
紫鉄血はモノクルを付けた20代の男と対峙している。
『高価買い取り中・質ウエダ』と書かれた大きな建物の一室。そこで百戦錬磨の強者共の争いが繰り広げられようとしていた。
豪華な革張りのソファーが二組。その間には一本の木で足まで造られたテーブル。ソファーに向かい合うのは紫鉄血とモノクル男。
空気が冷たくなっている。二人は対峙した瞬間に互いが強敵であることを認識していたようだ。オッサンまで緊張してツバを飲み込んでいる。金髪少年は相変わらず漫画を読んでいた。現在4巻、サド将軍が出てきたあたりだろうか。
沈黙を破り、先制攻撃を仕掛けたのは紫鉄血だ。
「異世界の娯楽品、持ち歩き携帯玩具よ」
そういって紫鉄血は初代ゲームガールを懐から取り出す。ナンテンドー初の携帯ゲーム機として一世を風靡した伝説のゲーム機だ。その白い大きなボディは荘厳で時代を作った誇りが感じられる。暗いところで画面が見えないことと、電池の消費量がとても多いのが玉にキズだ。
「おおっ。見たことないね。どういったものなんだい?」
後手となったモノクル男は紫鉄血の攻撃を慎重に受けとめた。
「電源を入れると画面に映像が出ます」
紫鉄血は上機嫌で電源を入れる。画面には平城京エイリアンが映し出されていた。ソフトの選定がマニアックすぎる。トテリスでいいだろ。トテリスで」
「!! これは…」
目を見開き驚くモノクル男。効果はバツグンだ!
「100万でどう?」
「ぶはぁ!」
聞き耳立てていたオッサンが吹き出した。すかさず紫鉄血のビンタがオッサンの頬に入る。乾いた音が部屋に響く。
* * *
「これは目で見ているかのような精巧な画を一瞬で保管することができます」
第2戦開始。再び先手は紫鉄血だ。
紫鉄血はポラロイドカメラを取り出し店主の顔を写す。画像をみた店主は飛び跳ねる。
「これは凄い!」
またも効果はバツグンだ!
「1000万でどう?」
「ぶはぁ!」
聞き耳立てていたオッサンが再び吹き出した。すかさず紫鉄血の肘がオッサンの鳩尾に入る。低い音とともにオッサンは崩れ落ちる。
* * *
「次は金とプラチナよ」
「お、今度は普通だな。相場は決まっているぞ」
第4回戦の火蓋が切って落とされる。
今度の攻撃はバツグンではないらしい。
「ちょっと調べさせてもらうよ」
そう言って店主は上皿天秤と水の入った容器を持ってきた。なにやら本物かどうかを確認しているようだ。
「金は比重19.67……めちゃめちゃ純度が高いな。これをどこで?」
驚愕する店主。実は効果はバツグンだった! 紫鉄血は無言の笑顔で応える。
「言えないか……まあそりゃそうだな」
店主は勝手に納得してプラチナの調査に移った。こちらも上皿天秤で重さを測ったり、水に入れて体積を測ったりしている。
「比重21.56!まじか」
紫鉄血を驚愕の表情で見つめる店主。紫鉄血はまたも無言の笑顔で応える。その口の端は先程よりもやや上に上がっていた。
~本日のお買取~
初代ゲームガール+平城京エイリアン(中古500円) 32万円
ポラロイドカメラ (6800円) 280万円
テキーラ(1本4000円)x20本 100万円
金のインゴット(100g50万円相当)x10本 1200万円
プラチナインゴット (100g35万円相当)x10本 2000万円
* * *
「まあまあね」
紫鉄血はない胸を張る。
売上は金属が大半を占めるが、ポラロイドカメラやゲームガールの利益率も侮れないな。ただしフィルムや電池のことを一切話してないあたりが紫鉄血クオリティだ。
「え? 金貨360枚って3600万円? え? まじ?」
庶民であるオッサンは金貨を眺めて呆然としている。紫鉄血はオッサンに所持を促す。
「受け取りなさい」
「え? 3600万円を俺が?」
「私に持たせるつもり?」
「え? えと……畏まりました」
オッサンは敬礼すると、笑顔で金貨を懐に仕舞っていく。もはや完全にただの従者だ。
オッサンが仕舞い終わるのを確認すると紫鉄血は次の目的地を告げる。
「次は冒険者ギルドに行くわよ」
紫鉄血は誇らしげな表情で風を切って前へと進む。




