ぎゅうスキ!(11) 『迷宮都市』到着
修正しました。2016/10/18
パワポで作った適当な画像追加しました。2016/10/18
修正作業中にも関わらすブクマ付けてくれた方、ありがとうございます。
そこは乾いた匂いが似合いそうな街だった。
レンガ造りの家が立ち並び、その屋根は赤い細かい木の部品で組まれているようだった。道には石が敷き詰められており、たくさんの人が行き交っていた。大通りは広く道幅は7メートルくらいだろうか、その両端には様々な店が並んでおり、町が賑わっていることが良く分かる。街を貫くように架橋がかかっており、そこには線路が引かれていた。
街の中央にある駅に黒い人工の牛が停まる。
駅の職員だろうか、紺色の服を着た人達がタラップを技牛車の扉の前に運んでいる。少し偉そうな髭を蓄えた中年の男が駅のホームで牛に向かって立っている。
扉が開く。何かがタラップを降りてきた。
「長い旅ご苦労様でした。ようこそ迷宮都市ソドムへ。当街には2つのダンジョンがありまして、『闇の洞窟』は規模こそ小さくなってしまいましたが、まだまだ「ニャーン」」
偉そうな髭は、気分よく説明していたが、獣の鳴き声を聞くと姿勢を維持したまま固まった。
タラップを降りてきたのは猫だった。猫は偉そうな髭を一瞥すると去っていった。
ペタペタ…
次にタラップを降りてきたのはペンギンだった。ペンギンも髭を一瞥すると去っていった。
この場にいる皆が扉を凝視していた。
「プギー」
次にタラップを降りてきたのは豚だった。豚は髭のズボンをくわえようとしていたが、髭に追い払われていた。
「ふー。やっと着いたかー」
伸びをしながら降りてきたのは、黒と灰色の迷彩服を着た男だった。足にはコンバットブーツ、膝と肘には金属製のパッド、両腿にはホルスター、黒い厚手のタクティカルベストを来ており、その背にはSWOTと白い文字で書かれていた。頭部にはゴーグルが付いた黒いヘルメットをかぶっており、その顔から我らがオッサンだとわかった。右手には刺身包丁を持っている。
髭も職員も「ひいっ」と軽い悲鳴をあげながら道を開ける。
コンコンコンコン…
無言で降りてきたのは、紫鉄血だった。オッサンと同じ格好をしているが、黒いグローブを身につけ、ヘルメットはかぶっていなかった。髪をポニーテールに束ねており、うなじがセクシーだった。右手にはクロスボウ、左手には棘のついた金属バッドのようなものを持っている。
カツカツ…
金髪少年は漫画を読みながら降りてきた。金髪少年もおそろいのSWOTだった。黒いグローブは身につけており、黒いマスクが鼻と口を覆っていた。背中には刃の部分だけで1メートル50cmはあろうかという大きさの斬馬刀を背負っていた。
オッサンは髭に問う。
「すみませーん。ギルドの場所、教えてもらえませんかー?」
髭は腰が引けながら、恐る恐る街の一角を指差した。
「ありがとうございます。では。」
オッサンはそう言いながら、紫鉄血の元に小走りで報告しにいった。
三人は歩いて行く。
道行く人は道を譲り、三人を凝視していた。
◇◇◇
視界一杯に広がるレンガの暖かな色彩。大通りの建物全てがレンガで積み上げられて造られていた。茶色いレンガも一つ一つ色が違い、たまにある真っ白なレンガと描く模様は巨大な絵画のようだ。立ち並ぶ街路樹と家に絡みついている蔦のようなものが暖色系の街並みに緑のコントラストを与えている。
通りには多くの人々がいた。目的を持って足早に行動する人もいれば、フラフラと色々なものを見ながら歩いている人、立ち止まって時間を気にしている人。様々だ。
道の両端の建物は店であることが多いのだろうか看板が並んでいる。大きめのやや色がついたガラスを通して建物の内部を知ることができるようだ。
「ここに入りましょう」
紫鉄血は緑の食パンの画が書かれている看板の店の前でそう言った。
店内は12畳くらいのスペースに所狭しと棚にガラスケースが置かれていて、そこには色々なパンが入っていた。他にも飲み物なども扱っているようだ。
「食パン,コッペパン,パゲット1個10円…って安いな」
「『パンデル』『パンデル』『パンデル』『パンデル』…」
値札を見てオッサンが驚いている。しかし値札には良くわからない文字が書かれていた。禿から説明があった万能翻訳の効果なのかもしれない。遠くからスキルを連呼する声が聞こえる。
「焼きそばパン180円、カレーパン220円…こちらはちょっと高いけど普通だな」
「『パンデル』『パンデル』『パンデル』『パンデル』…」
今度の値札も変な文字で書かれている。連呼する声は止まる気配がない。
「ん?失礼な事を言うな。国で定められた価格だぞ…って何だお前ら!」
「『パンデル』『パンデル』『パンデル』…よっしゃー!バームクーヘンゲットだぜー!」
店長なのだろうかごついオッサンが顔を出す。遠くで歓喜の声があがる。
「…ごめんなさい。外から来たのよ」
紫鉄血は腕を組んだ姿勢で説明する。
「この街は内陸部だぞ。それに何だその格好………まあいいか」
パン屋のオッサンは少し訝しげにしながらも話を続ける。我らがオッサンは物欲しそうに商品を見ていた。金髪少年は懐から漫画を取り出した。
「この国では緑の看板はスキルで生産している店を表しているんだ。スキルによる生産品は国が値段を管理する。この国では『パンデル』のスキル持ちが3割くらいいるからちょっと特殊なんだ。国から補助金が出るんでこの値段でもやっていける」
「『パンデル』『パンデル』『パンデル』『パンデル』…」
パンデル連呼が再開した。
「『スシデル』の寿司屋や『ピザデル』のピザ屋も似たようなもんだぞ。まあ狙ったものは出せないから苦労はするがな」
「飯以外では『ケンデル』の武器屋や『タテデル』の防具屋も昔はあったが今は軍属になってるな」
「『パンデル』『パンデル』…よっしゃー!ショソン・オ・ポムゲットだぜー!」
顔に似合わず店長の説明はとても丁寧だ。遠くから再び歓喜の声が聞こえる。
「まあ何だ。ゆっくり見てってくれ」
役に立つオッサンはそう言うとカウンターへ戻っていく。役に立たないオッサンはパンを見てまわっている。金髪少年は同じ漫画を読み直していた。気になるシーンがあったのだろうか。
「小麦の価格で戦争の時期を予測するのは不可能ね…」
「武器も現在『牛の穴』で揃えられるのは日本での取扱ができるものだけだし…」
紫鉄血は独り言を言いながら思案する。
真面目に考えている紫鉄血の横で、役に立たないオッサンは寂しそうな瞳でじっとカレーパンを見つめていた。




