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ぎゅうスキ! TWIST  作者: 神戸 ビーフマン
囚われの牛
10/29

ぎゅうスキ!(10) 怒りの鉄血

修正しました。2016/10/17

パワポで作った適当な画像修正しました。2016/10/29

 巨大な人工の黒い牛がいた。


 牛は西を向いており、その足は8つのタイヤとなっていた。牛の側面には50cm四方の大きな窓がいくつも並んでおり、窓ガラスを通して見える牛の中には向かい合う席が並んでいた。窓ガラスの上には「技牛車S420アサギリ特急」と書かれた金属板が陽光を反射している。


 巨大な牛の下は少し低くなっており線路が引かれていた。プラットフォームのようだ。頭上にはガラス張りの天井。ガラスを通して見える空はとても青く本日は快晴であることが伺える。足元は白く輝くツルツルの石。気合いを入れて磨いてあるのか反射して通行人のパンツが見えそうになっている。巨大な牛の手前にはタラップが3つ置かれており、その先は牛に取り付けられている扉に繋がっていた。 


 巨大な牛の前には紫鉄血、金髪少年、我らがオッサンが並んでいる。

 それと向い合う形で禿とメイド一号。その後ろには槍を持った重装備の兵士が10人立っていた。



 禿が嬉しそうに話しだす。


 「いやー。まかさまさか、魔国を調査しに行きたいと仰るとは思いませんでした」


 紫鉄血が腕を組んだまま冷たい目で応える。


 「…戦の前に、この目で見に行くだけよ…」


 少し場の空気が冷たくなった気がした。金髪少年は後ろの牛が気になるのか、窓に近づき車内をキョロキョロ見ている。オッサンも少し気になるのだろうか「まずいよ。今はまずいよ」と言いながらも、ちらちらと牛の方を見ていた。



 「はいはいはい。そういうことであれば全力で支援しますよ。この国最大のスキルの結晶、技牛車で安全快適な旅を約束しましょう」

 「それはどうも」


 禿は満面の笑みで、対象的に紫鉄血は機嫌が悪そうだった。金髪少年は先頭のタラップを登ろうとしていた。オッサンは羨ましそうにチラチラと金髪少年を見ている。



 「この技牛車はおよそ時速30kmで走ります。ここ技国首都デスパレスから迷宮都市ソドムへはほぼ半日、そこから1日かけて前線都市ゴモラに到着します」

 「…迷宮都市にはダンジョンがあるのよね?」


 機嫌の良い禿と不機嫌な紫鉄血の会話が進む。金髪少年は技牛車の顔の部分にあるガラスから車内を覗き込んで驚きの表情を浮かべていた。オッサンはそれを見て、紫鉄血の顔色を伺いながら少しずつ少しずつ金髪少年の方へ移動していた。


 「はい。『闇の洞窟』と『鏡の迷宮』ですね。『闇の洞窟』はゴブリン、ハイゴブリンが数多く出ると聞いています。ダンジョン全体が暗闇に閉ざされているため不意打ちで亡くなる冒険者が多いとか。『鏡の迷宮』は迷宮全体が一枚の鏡からできていると聞きます。何故か入り口の広場から先に進むことができないので現在は探索する者はいないと思います」

 「『闇の洞窟』と『鏡の迷宮』…」


 禿は身振り手振りを加えて説明する。紫鉄血は顎に手を当て、考えを巡らせているようだった。オッサンは技牛車の顔の部分を覗き込み「まじかー!」と驚きの声をあげており、金髪はその隣で爆笑していた。


 紫鉄血は金髪少年とオッサンの方へ歩いていき、2人をひっぱたいた。その後は戻ってきて何事もなかったかのように話を続ける。



 「『闇の洞窟』と『鏡の迷宮』…」


 紫鉄血は先程と同じことを思案顔で言う。どうやらリテイクが入ったようだ。


 「え、ええ。先日も言いましたが、ダンジョンをクリアするとコモンスキルを得ることができます。『パンデル』一つでも旅の安定はかなりのものになりますよ」


 禿は少し腰が引けながらも慎重に言葉を告げた。目の前の生き物が恐ろしい存在であることを思い出したかのようだ。オッサンは頬を抑えながら紫鉄血の横に立っている。その目には涙がうっすらと見られる。金髪少年はオッサンの隣でムスッとした顔で漫画を読んでいた。その頬は少し赤かった。




◇◇◇


 窓から見えるのは森と草原。木々は地球のそれらと遜色がないように思える。


 向かい合う革張りのソファー。窓際で向いあって座っているのはオッサンと金髪少年。頬が赤いコンビだ。金髪少年は漫画を読んでいる。その本の背表紙には”東京ぐぐーる”と書かれていた。RE:になってからは登場人物を把握できないことで有名だ。

 金髪少年の隣には紫鉄血。何やら思案しながらブツブツ独り言を言っている。



 出発から30分ほどが経過した頃、景色に飽きたオッサンが紫鉄血に話しかけた。


 「なんでアカイさんはお留守番なの?」

 「…赤井は人質よ。ご執心みたい」


 無表情で応える紫鉄血。


 「人質!?」

 「赤井が城に残るから私達は外出が許されたのよ」



 紫鉄血は苦い顔をしてため息をつく。


 「…と言っても、赤井が隷属するまででしょうね。」


 紫鉄血は憎々しげな瞳で奥歯にギリギリと力を入れている。


 「…ゲームみたいなものなのよ。向こうはこちらを数で取り押さえれば良いのだけど、こちらは自殺で一矢報いることだけはできる。」


 「自殺って…」


 オッサンは事情を把握できていないようだ。紫鉄血はその様子を見るとソファーに深く座り直す。


 「初めから負け試合なのよ…強行突破も考えたけど、こちらの最大戦力と同じくらいのが少なく見積もって4人。私やあなたより強い兵士が1000人以上。逃走経路もわからない現状で取るべき手ではないわ…」

 「ちなみにあのまま皆で残っても、隙きをつかれて隷属させられるだけよ。四面楚歌の状態で警戒し続けるのはとても消耗するわ。早めに行動を取る必要性があった…」


 「…でもね。脱出を謀って赤井が致命的な怪我を負ったり、自暴自棄で自殺をしたりされたら向こうも困るの。だから提案してきた。それが今回の3人の外出よ」


 「こちらのメリットは赤井が隷属するまでの自由行動。赤井が隷属する前にこちらを捕らえようとしてきたら『クリエル』で自殺の指示を出せる」

 「向こうのメリットは赤井が一人で城にいること。眠っている間にでも指輪をつければ比較的安全に隷属できるわ。赤井に刃を向ける相手が本人だけになるのも大きいわ」



 「だけど赤井さんは…」


 オッサンの疑問に紫鉄血は苦悶の表情を浮かべる。




 「…そういえば、技牛車は『迷宮都市』止まりよ。そこから先はおそらく動かないわ」


 「え?」


 話題を変える紫鉄血。見事に喰い付いて驚くオッサン。


 「あの陰険メガネが私達を自由にするわけがないでしょ。大方、『迷宮都市』のダンジョンで私達の戦力分析を行い捕らえるため指標にするのが目的なのよ。理由もなしに逃亡が容易になる『前線都市』に行くはずがないわ。」


 「でも、それだと宰相が妨害してきたってアカイさんに連絡できるんじゃない?」


 紫鉄血はため息をつく。


 「陰険メガネのせいだってわかるようにするわけないでしょ。…例えば事故よ。偶然、技牛車の事故が起きるの。そうすれば私たちは『迷宮都市』で立ち往生。赤井が隷属するのを待って捕縛部隊が襲い掛かってくるという流れでしょうね。」


 「まじかー」



 「これから行く『迷宮都市』のギルドでは全てが敵と思いなさい。陰険メガネが捕縛予定の私達の戦力増強を許すはずがないわ。寄ってくる9割は敵よ。」


 オッサンは沈黙する。その顔は引きつっている。



 「さっきの説明の4人の強敵も来るんじゃ…」


 「…3人はないと思う。3人のうち2人は同じ部隊で上下関係があるから作戦をともにするはずよ、多分。その2人は赤井のそばに付くと思う。わざわざ見せてきたくらいだしね。残り1人は宰相よ。『迷宮都市』にわざわざ来ないでしょ。」


 「宰相!ビッチの?」


 オッサンの叫び声に漫画を読んでいた金髪少年が反応した。ちなみにビッチかどうかはわからない。そんなことを言ったのはオッサンだけだ。


 「あいつはかなり強い。纏ってる空気が違う。あいつとエクスっていう優男は、陽子と2人がかりで互角というところだ。」


 金髪少年がそう言うと場が静かになった。


 ガタンゴトンと技牛車が揺れる音がする。




 「大丈夫、まだ赤井を助ける方法はいくつかあるの…かなり望みは薄いけどね」


 紫鉄血は拳を握りしめる。


 「こちらの戦力は増強させてやるし、あちらはボロボロにしてやる。戦力分析はさせてやらないしスキルはいただく。赤井が隷属する前に包囲を突破してやるし、赤井救出の準備もそれまで進めてやる。雌ギツネに絶対に吠え面かかせてやる」


 紫鉄血は燃えていた。敵に回してはいけないタイプの人間のようだ。



 「『牛の穴』で準備を整えます。それと、敵を一網打尽にして脱出する方法を教えるわ」



 「今回の件…あなたが全てのキーよ」



 紫鉄血はオッサンにそう言った。

挿絵(By みてみん)


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