25『響の晩餐①』
明けましておめでとうございます!
本当は昨日の更新だったんですけど、新年初めての投稿にしたくて時間をずらしました。
決して忘れてたとかそういうわけではありません。
ホントだよ。サクラソウ、ウソ、ツカナイ。
魔術大会の三日目は、無事――と言うには憚れるものの、本戦への参加資格を得る形で終了した。
怪我の方も、美里による治療でほぼ完治。少なくとも、明日の試合に影響はないだろうということだった。
そうしてホテルに戻った響は、部屋に帰るなり反省と対策を練り始めていた。
本日の試合の記憶を総動員し、これまでの映像の分析結果と照らし合わせ、さらに今日負けかけたあの瞬間に侵してしまったミスを列挙していく。
最たるものは、永沢の囮作戦だろう。幻影によって、全くの別人を永沢だと誤認させたあの戦略を、欠片も予想していなかったのが大きい。
バトルロワイヤルは、言ってしまえば何でもありの側面がある。一対一の戦いと考えると、敗北必至だと事前に肝に銘じたはずなのに、協力者を作るという発想は響の中にはなかった。
非難されそうな行動だが、事実、効果はてきめんだったのだ。ルール上問題のある行為でもない。この部分、倫理観が欠けているというべきか、それとも着眼点が違うとするべきか。
そんな戦法を取った永沢は、やはり警戒するに値する。あるいは陽介さえも超えるレベルでの警戒だ。
響のようなからめ手。それも、より勝利だけを追求した戦法は、無節操に見えながら効果的だ。これとどう相対するかが、響の問題である。
いっそ、この際各魔術機関へのアピールという側面を捨て、響もまた勝利の実を追い求める方向にシフトするべきだろうか。
奏の将来がかかっているのだ。ある程度以上のリスクを冒すこともまた必要だ。
むしろ、奏の将来と引き換えにするものが、今年の魔術大会における響の活躍だけであるならば、それは決して割に合わない交換ではない。
響程度が多少の不利益を被る。それだけで奏での願いが叶えられるのであれば、喜んで身を投じられる。
そう響が腹を決めかけた時だ。傍らに置いておいた携帯が、バイブ音を発した。
胡乱気に目を細めて手に取り、画面を確認すれば奏からの電話だった。
「もしもし……?」
『あ、響くん? 今って暇?』
「いや、暇ではないですけど……」
絶賛、対策中である。むしろ若干忙しい身ながら、師から直々に電話があるとすればそちらを優先してしまうのは弟子心。
「なにか用ですか?」
『えっとね、無理にとは言わないんだけど、今日の夕飯は一緒に食べられないかなと思って』
「夕飯、ですか」
魔術大会に参加する生徒たちの食事は、原則として学園が用意する場所で学園が用意したものを取ることになっている。
だが、京都に来ていながら、魔術大会という目的のために観光が許されない生徒たちに配慮しての事か。中日である本日の夕飯は、生徒が各自で好きな場所で取ることを許可されているのだ。
奏が言うのはその事だろうが、時計を見ればまだ午後五時を回ったあたり。
「今って、ちょっと早くないですか?」
『うん、忙しいみたいだから仕方ないみたいだけど』
「……? 誰がですか?」
主語の抜けているどころか、何か根本的な部分の説明が抜けている奏の言葉に、響は端的に聞き返す。
電話の向こうでハッと気づく空気があって、直後、奏は照れたような声を漏らした。
『ごめんなさい、説明が抜けてたわね。えっと、ソーサンからご飯のお誘いがあって、響くんも一緒にどうかって……』
「行きます」
即答だった。
* * *
ホテルのロビーで奏と合流し、案内されるままにやってきたのは近くにある繁華街だった。
昼と夜との境目――逢魔が時の暗さに対抗するように街灯が照り付けられ、店の看板には照明が当てられいる。夜の静けさに真っ向から反抗するような、そんな気概の感じられる賑やかな街である。
周囲を見回せば、響たちの他にも、同学園の生徒らしき人影が見える辺り、夕飯は自由といってもほとんどの生徒はこの付近で済ますつもりのようだ。
指定された場所で待つ響と奏は、人の流れの邪魔にならないように端に寄り、食事に誘った張本人の到着を待っていた。
「遅いですね……」
約束の時間になっても来る気配のない大魔術師に響はそうこぼす。もちろん、大魔術師という役柄が多忙を極めていることは理解しているが。
「ソーサンは、ちょっと時間にルーズなところがあるから……」
「五分くらい遅れてくるのは当たり前だったし」と付け足す奏は呆れ顔だ。遅刻に大魔術師云々は関係ないらしい。
使い魔がいれば同調しそうな仕草だが、残念ながらこの往来の中では件の紺色のカーバンクルは実体化を禁じられている。
「見られたら騒ぎになっちゃうかもしれないでしょ」というのが、奏の論だ。
そうして師弟揃って待つこと五分。奏の言っていた通り、本当にきっかりと五分経ってから、その声は聞こえてきた。
「悪い悪い! 待たせた?」
見れば、人ごみの中にあっても目立つ白いスーツが小走りで駆けよってくる。周囲から奇異の視線を受けながら、全く意に介さない様子の大魔術師は、軽く息を切らしながら到着した。
そんな壮馬に奏は肩をすくめて、
「五分だけね。相変わらずだね、ソーサン」
「手厳しいな奏ちゃん。いやね、俺だって時間通りどころか、一〇分前につくようにと思ってたんだよ。でも鬼灯さんが、先に報告書を書けっていうからさ……」
「それはそうでしょ……」
実情は知らないが、一応遅れは五分だけ。食事前に終わらせておくのにも不自然ではない仕事量だったというのがうかがえて、響も奏の意見に賛同だ。
呆れ顔の奏の言葉に、壮馬は裏切られたように表情を変えて、
「仕事したくないんだよ!」
「大魔術師の言葉とは思えないよ、ソーサン……」
あまりに情けなさすぎる姿に、響は視線を逸らした。何か一つの分野にのめり込んだものは変人が多いと聞くが、それは魔術界にも当てはまるのかのしれない。
そんな茶番じみたやり取りがありつつも、合流した三人は壮馬の案内のもと飲食店へ。路地裏を抜け、それから細かい道を数度曲がれば、そのお好み焼き屋につく。
店内はさほど広くない。テーブル席が二つに、座敷が二つ分。カウンターから全席が見渡せるが、そのすべてが埋まっていることもない。
一見して、そこまで景気のいい店とは思えなかったが、
「美味いんだよ、ここ。俺が学生で、魔術大会に出た時に見つけてさ。分かりにくいとこにあるから、そんなに混まないし。せっかくの京都だし、なんかそれっぽいもの食べないとね。大阪は隣だし、ここも一応本場でしょ」
響の表情を見ての事か、店にフォローを入れた壮馬は、慣れた様子で座敷まで行き、続いて上がった響と奏にメニューを手渡した。
「今日は俺のおごりだ。二人とも、個人戦本戦に進んだ祝いってことで。まあ、奏ちゃんは当たり前かもしれないけど」
「ありがと、ソーサン。でも当たり前じゃないから。バトルロワイヤルは、うっかりしたら負けちゃうんだもの」
確かに、あちこちから飛来する流れ弾は、常に注意していなければ食らってしまうだろう。
その点、奏は相当危ういものだ。響は怪我の治療中だったので見られなかったが、陽介に聞いたら何度か転びそうになっていたという。転んだところで、奏が負ける画が想像できないのがまた怖いところでもあるのだが。
奏のセリフに苦笑する壮馬は肩をすくめ、
「まあ、そういうわけだから。何でも好きなものを好きなだけ頼んでいいよ。ここ、自分たちで焼かなくていいからさ。焼いたやつを持ってきてくれる」
人の好い快活な笑みで気遣いを見せる様子は、大魔術師とは到底思えない。むしろ、そこまで響たちと歳も変わらない青年だということを嫌でも感じさせてくれる。
端的に言ってしまえば、実力差や立場の違いなど関係なく、ただいいお兄さんという印象を抱いてしまう、といったところか。
とはいえ、そんないいお兄さんに甘えきるような無節操さは、この年になるまで持ち合わせているものでもない。
何でも好きなものを好きなだけと言われてしまうと、かえって遠慮してしまうのは日本人の気質だろうか。
メニューを開いて、二番目に安いものを探し出すとそれを一つだけ頼む。と、
「響くん、それじゃ少ないんじゃない? 成長期の男の子なんだからもっと食べないと」
「え、いや、俺は別にこれでも……」
「ダメ。ちゃんと食べなさい」
「奏さんは俺の母親ですか」
相変わらずの過保護に響はツッコみを入れる。
確かに普段と比べれば少ないが、足りないわけでもない。迷惑をかけるわけにもいかないというのが響の判断だった。だが、
「なんだなんだ、遠慮してるのか? 高一ならもっと食うだろ。育ちざかりなんだから。今回の仕事で特別手当も出るし、俺の財布事情は心配しなくてもいいよ。ほら」
壮馬までも奏と一緒になって響にもっと食えと迫る。たじろぐ響は「いや、でも……」と曖昧な返事をするが、二対一の空気には敵わない。
差し出されたメニューを受け取り、観念して本当に好きなだけ頼むことにした。追加で三品ほど。
「――ごめん、なめてた。そりゃあんだけ走り回ってたら体力使うよな……」
まさか炭水化物をこの量取るとは思っていなかったのか、響の前に運ばれてきたお好み焼きの厚さを見て、壮馬が顔を引きつらせる。
バトルロワイヤルでの続けざまの持久走に、怪我の治療。つい先ほどまでは頭も酷使していた。これで腹が減らないほうが不思議というもので、満腹になろうと思えばそれくらいはいく。
それでなくとも、奏のプランで筋肉量が増えてからは新陳代謝の活性化によるものか、以前よりも食欲旺盛になっているのだ。
さすがにやりすぎたかと心配になるが、壮馬は笑って、
「いや、大丈夫だよ。予想外だっただけだから。公務員の給料なめんな」
「ソーサン、この前薄給がどうとか言ってなかったっけ?」
「ちょっと多めの食事もできないほど切羽詰ってもないよ!?」
量にしてみれば多くとも、金額にすればせいぜいが三〇〇〇円といったところ。薄給薄給と嘆くにしても、これで根を上げるようでは生活もできない。というか根を上げているようでは、それは給料というより小遣いだ。
奏のトンチンカンな発言にツッコミを入れる壮馬。
ともあれ、料理はお好み焼き一択で、アルコールを手に取ることができるのは壮馬だけだったが。
宴は始まった。
次は月曜日です。




