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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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23『バトルロワイヤル②』

 背後から飛来する鉄球を、咄嗟に編んだ鉄柱を片手で掴み、二の腕サイズのそれを振り回すことで叩き落とす。

 鈍い衝撃と振動が腕に伝わり、肘が軋むのが分かったが大したことではない。石畳を駆ける響は、腰をひねる動きでもって手に持った鉄柱を投擲。魔術に比べればさしたる威力もないが、それでも当たれば強打そのもの。

 当然、散開する生徒の陰に隠れつつ、攻撃を仕掛けてくる永沢は回避の一手だ。


 そうして半歩ずれたことで、隠れ蓑となっていた選手の影から永沢の身体が響にもはっきりと見えようになる。回避地点を予測して、あらかじめそこに配置されていたタロットに目をむく永沢の姿が。

 射出されるのはお返しの鉄球が二発。ほぼ同時の攻撃は、一方を対処しようとすれば、もう一方の対処が不可能になる、二段構えの攻撃だ。


 それに永沢の判断は一瞬だ。即座に手をかざし、刹那で紡いだ魔術が発動される。――岩盾だ。


 魔術陣から出現した堅牢な盾は、京都学園序列一位の称号に恥じない強度。才能を感じさせる魔術行使は、ギリギリのタイミングで迫る鉄球と永沢との間に割り込んだ。

 金属音が鳴り響き、石盾の表面を鉄球が軽くえぐるも、”落ちこぼれ”の魔術程度で突破できる生易しいものではない。案の定、弾かれた鉄球は石畳に落下して小さくバウンドすると魔力の粒子になって霧散した。


 そうして永沢が一息つく瞬間、響の目的は達成されている。

 足に込めた力をそのまま爆発させ、地面を蹴り出して勢いよく体を射出させる。彼我の距離を全力で詰める疾走はしかし、


「くっ!」


 飛んできた流れ弾に阻まれて一歩及ばない。


 眼前に迫った火球にたたらを踏み、速度の落ちた隙を認めた永沢は、間合いが不利になりつつあることをいち早く察知すると、すぐさま幻影(phantom)で身を隠して響を巻いてしまう。


「惜しい……」


 流れ弾さえなければ。そんな思いが響の胸中に沸き起こるが、そもそも現在はバトルロワイヤル中。不特定多数から狙われるのは何もおかしなことなどなく、失敗の責任は響にこそある。

 戦闘に意識を割くあまり、視野が狭くなっていたことを恥じるとともに、そうしなければ渡り合うことのできない永沢という魔術師見習いの実力の高さに舌を巻く。より正確に言えば、用心深さだろうか。


 それは危ない橋を決して渡らない堅実な戦い方からも推察できる。もっとも、隠れて距離を取り、死角から狙撃を敢行する戦法は、穂香に言わせれば卑怯なのだろうが。

 事実、響もやられていい気はしない。ありていに言えば、うざったかった。


「まあ、俺も似たようなことするし、人の事なんか言えないんだけど」


 響はこうまであからさまに姿を隠すことはしないが、似たようなものだろう。早い話、二人の違いは、「どこまでするか」でしかない。

 そしてその基準は、何を目的としているかによって変わってくる。


 永沢が最も重きを置いているのが、この戦いの勝利であることは疑う余地がない。

 だが響は、勝利を至上目標とした戦い方をしながらも、才能を売り込む場という魔術大会の特性を無視できない。そも、普通は無視できるものでもないのだが。

 その差が、致命的な結果を生まないことを祈りつつ、傍らに着弾した魔術に思考にはまりかけていた意識を浮上させた。


 気を張っているはずだったが、永沢というこれまでにない戦い方をする生徒の出現により、調子が狂わされていたらしい。深呼吸をし気持ちを落ち着けると、姿を隠した永沢の捜索を続行した。


 これまでに数度、永沢との邂逅を果たしたことから、ある程度の狙いは把握できるようになった。毎回姿を隠したうえで攻撃を開始する永沢。それは、どの場面においても響の死角を的確に突いてきていた。

 その対処難度の高い攻撃に響がこれまで仕留められなかったのは、単にどこからくるかも知れない敵に対する、過剰なまでの警戒心の結果だった。

 死角は突かれても、意識の外から迫った攻撃ではなかった。それだけだ。


 運がよかったとも取れるが、結果得られた攻撃パターンの癖は貴重な情報だ。

 止まっていた脚を動かし、稀に襲い掛かる流れ弾の脅威から身を躱しつつ、五感をフルに活用して、死角から飛来するであろうわずかな攻撃の兆候も逃さない。が、


「……!」


 今度は死角ではなく、真正面から突き進んできた木の槍を、響はターンすることで危なげなく回避する。

 過剰なまでの死角を突いた攻撃は、あるいは牽制の役割もはらんでいるのではないかと警戒した成果だ。

 だが、永沢の方も、これまで死角からの攻撃のことごとくを回避せしめた響を侮るようなことはしていなかった。


 間をおかずに張られた弾幕が響を襲い、ハチの巣に使用と迫って来る。だが、


「ワンパターン」


 の一言で、それも回避してみせる。

 これまでも、戦端が開かれれば永沢は多少の工夫こそすれ弾幕で対処してきた。何度も見せられれば嫌でも効率のいい回避法が見つかるというものだ。

 ステップとターン、それにダッシュを組み合わせた挙動で、次々飛来する魔術をやり過ごした響は、次こそはと距離を詰めるプランを開始する。


 普通に走ったのでは距離を詰める前に身を隠されてしまう。牽制は必須だと判断して、響はホルダーから取り出したタロットを、乱れ撃ち。速度だけを重視した攻撃は、手に取るタロットに描かれた術式に注意を払う余裕もないほどだが、これが牽制である以上、何の魔術が発動するかは二の次だ。


 連打されたタロットは、上向きに弧を描いて永沢の頭上から殺到する。

 そうして、上方から迫るタロットの対処に躍起になれば、足元がお留守になる。


 蔓草、水たまり、もしくは土煙。

 姿を隠す永沢を補足する手段を頭に思い浮かべ、そのすべてを実行し確実に捕獲することを決定。


 放水で永沢の周囲に水をまき散らし、土元素で空中に粉塵を巻き起こす。不可視の存在を知覚する方法。これで幻影(phantom)を使われようと、再びの逃亡を許すことはない。


 あとは駄目押しとばかりに、響はすっかりタロットの対処を終え、新たに展開されていた水元素と土元素にたたらを踏む猿顔へと足を踏み出す。同時、そもそも逃亡をさせまいと、木元素で蔦を形成。

 蛇のように地を這って進む蔦が、土元素を強引に吹き飛ばしたばかりの永沢へと到達し、その足を絡めとり、永沢を転倒させ――。


「――は?」


 蔦は確かに永沢の足を掴んだ。掴み、引っ張られる勢いをそのまま伝えて、転倒させることに成功した。

 だが次の瞬間、捕まえたはずの永沢の影は霧散し、代わりにここ数日で数度顔を見かけた男子生徒がそこにいる。強者と響が認識していた人物ではあるが、脅威度という面では永沢よりも劣る生徒。猿顔とは似ても似つかない顔を目にし、響の思考が止まる。


 だが、それもほんの刹那のこと。響の頭はすぐに結論へと到達する。

 つまり、永沢は短時間で囮を作り出したのだ、その囮に幻影(phantom)をかけ、周囲に永沢に見えるようにさせれば、響がおびき寄せられる。響は偽物の相手をさせられていた。

 ――では、本物はいったいどこに?


 考えるまでもない。嵌められたのだ。今の響は奴の掌の上で踊らされた、哀れな道化でしかない。

 そこまで直感した直後、付近に感じた熱の気配を感じ、危機に反応した体がまっすぐ走るルートを強引に変更。直角に横っ飛び、炎の奔流から安全圏に避難しようとするが、一歩遅い。


 推進力を得た炎が、飛びずさる速さに倍する速度で迫る。ゼッケンを一撃で変色させるだけの力を持つ火炎が、響の身体の半分をとらえ、そのまま後方へと吹き飛ばしていた。

次は木曜です。

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