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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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21『個人戦への道』

 二日目も終わり、就寝までのつかの間の自由時間だ。

 トランプをして時間を潰しているルームメイトを尻目に、響は明日の個人戦。その序章であるバトルロワイヤルの戦略を練っていた。


 ひと学年につき三二人、五つの学園を合わせると一六〇人に上る生徒たちを八〇人ずつに分け、それぞれを舞台の上で無差別に争わせる。ルールは団体戦と同じで、身に着けたゼッケンの色が変わるか、舞台上から転落すれば敗退となる。

 そうして最終的に八人になるまで時間の制限なく行われ、残った生徒が本戦に進む資格を得るのだ。


 これは、すべての試合を馬鹿正直に行えば、とても五日間の期間に収まり切らないからという理由あっての事だろうが、響としてもそれ以外の生徒にとっても初体験の形式だ。どう立ち回るかを考えた上で、本番では臨機応変な対応が必要となってくる。


「少なくとも、目の前の相手の事だけ考えてるようじゃ必敗だな……。陽介ならともかく、だけど」


 先ほど部屋に顔を見せに来た友人を思い、響は呟く。

 魔力切れにより、本日の日程が終了するまで休養を取っていた美丈夫の血色はだいぶ良くなり、突然眠りこけるような珍事はなりを潜めていた。

 さすがに膨大な魔力のすべてが回復したわけではないようだったが、今夜しっかりと休めば、明日には遜色なく闘うことができるだろう。もっとも、バトルロワイヤルの関係上、明日の時点では敵となるわけだが。


「まあ、組み分けは別だったわけだけど」


 事前に発表された組み分けでは、響は陽介とも瑠璃とも、穂香とも分かれていた。代わりに、京都学園の永沢の名前があったのが唯一の気がかりだろうか。


 軽くわき道にそれた思考を頭を振って追い出し、もう一度戦略の見直しへ。できる限りの時間を使って考えなければ。

 そうして、そろそろ就寝時刻になるという段になって響の携帯が鳴った。

 デフォルトのままの着信音に、こちらに背を向けトランプに興じていたルームメイトたちが、非難の視線を投げかけてきて居心地が悪い。


 立ち上がった響は、仕方なく立ち上がると、部屋の扉を開けて廊下へ。それから誰が確認してきたのかも確認せずに電話に出た。相手が誰かは見ずとも分かっている。


「奏さん、昨日もそうでしたけど、電話かけてくるならもう少し早い時間にしてくださいよ……」


『ごめんね。でもしょうがないの。二年生のミーティングって、なぜか一番最後なんだもの』


 つい先ほどまで、明日のバトルロワイヤルの対策を建てていたのだろうか。謝る奏の声には若干の疲れが滲んでいた。


「奏さんに対策なんていらないでしょうに」


『私じゃなくて、他の人がね。どうすればいいのかって聞いてきたりするのよ。……いつもは話しかけてくれないのに……』


「…………」


『キュル……』


 あまり知りたくなかった師の学園生活事情を知ってしまった。キュルリンも、電話の向こうで呆れている。

 とはいえ、奏は肌の白さや髪の色も相まって冷たい印象がある。直接話でもしない限りその印象がぬぐいさられることはないだろう。あれだけの実力を併せ持っていることを考えれば、恐れ多くて話しかけにくいというのも納得だった。


 いらない暴露をした奏は、若干引いた響の様子に気付くことはなく、そのままの調子で話を続ける。


『でもさ、私に聞かれたってどうしようもないじゃない? 確かに先生になろうって思ってるけど、そんな一人一人ぴったりの作戦なんて無理があるもの。響くんじゃないんだし」


「俺の評価が無駄に高い気がするんですけど……。いや、そうじゃなくて。どうして電話してきたんですか?」


 まあまあの速度で脱線していきそうな話の流れを察した響は、強引に軌道修正。直接聞くという形で、目的を完遂させようとする。


『ああ、そうそう。今日の怪我は大丈夫なのかなって思って。結構しっかり攻撃受けてたから』


「それなら大丈夫ですよ。たぶん、見た目ほどひどい当たり方してないと思います。柳川先生がすぐに治してくれました」


『そう、よかった……』


「まあ、明日に後遺症が残ったりしたら、大変なことですもんね。俺としてもよかったです。また奏さんの足を引っ張ることにならなくて」


 かつて、自身の慢心によって、危うく奏の夢が叶わなくなりかけたことを思い出す。

 条件の二つ目――魔術大会における個人戦でベスト4に入れ――によって窮地を救われる形にはなったが、それでも、もしかしたらあの時点で果たすことができたかもしれない条件を、響が踏みにじったことに変わりはない。

 それは悪しき記憶だが、同時に忘れてはならないものだとも思う。二度と、あんな無様をさらさないためにも。


「だから、明日からの個人戦は絶対に勝たなくちゃいけませんもんね」


『…………』


 まだまだ足りないところだらけで、常日頃から準備を怠るわけにはいかないけれど、それでも”落ちこぼれ”の響を、全国の猛者と渡り合えるほどにまでのし上げてくれたのが奏だ。

 その師の夢が、自分の勝敗にかかっている。ならば、響は全身全霊で勝利を掴まなければならない。それが恩返しと、贖罪になる。


 静かな響の決意。それを聞いた奏は、電話口で黙りこくる。表情の見えない中でそんなことをされれば不安を感じるのも当然で、響は不安げに眉をひそめると、


「奏さん……?」


『ううん、ごめんなさい。響くんが私のために頑張ってくれると思うと、嬉しかったから』


「……気恥ずかしいこと言わないでくださいよ」


『キュル』


 同意するキュルリンの声がまぎれた。それに奏は苦笑し、


『でも、本当よ? 師匠として、弟子に全部任せるのはどうかと思うけど……』


「今さらですよ。俺は気にしてないですし」


『私が気にするの。それに、師匠だったら弟子に無理させるのもどうかと思うし。本当は無理しないでって言わなきゃなんだろうけど、今回ばかりは言えないから』


「それも気にしませんよ。むしろ、無理しないといけないんだったら俺は無理します」


 それは偽らざる本心だ。必要とあらば、炎をくぐる程度の覚悟は持ち合わせている。


「それに、俺が勝って得をするのは奏さんだけじゃないですよ。魔術大会なんですから、勝てば魔獣対策局にも目を付けられるかもしれないじゃないですか」


『ふふっ。そうね』


「はい、そうです」


 悪戯っぽく言って、響が、奏のせいで苦労しているという方向に流れていきそうな会話を軌道修正。

 自分のせいだと背負い込んでしまいがちなのは奏の悪い癖だ。そんなところも嫌いではないが。


 小さく笑い合う響と奏。そうしてひとしきり口元をほころばせたあと、時計を確認すれば就寝時間を迎えている。

 名残惜しい気もするが、そろそろ部屋に戻らなければならない。


「じゃあ、俺は明日に備えて寝ますね。おやすみなさい」


『あ、うん。お休み』


『キュルーッ』


 別れの挨拶をし、通話を切ろうと耳から携帯を離す。寸前、


『あ、ちょっと待って。言い忘れてた! ちゃんと、夜更かししないで寝るのよ?』


「分かってますって」


『それから、緊張して眠れなくても横になっておくこと』


「あの、奏さん。これいつものパターン……」


『それからそれから……』


 せっかくいい感じに電話を切れそうだったのに。

 勢いづいてしまった師を止めることは響にはできない。電話の向こうで止めようと声を上げるキュルリンの努力も虚しく、注意事項を羅列し始める奏。

 確かに、明日からの個人戦に命運がかかっているとはいえ、心配しすぎな奏の喋りは、その後、話し声を聞いて教師がやってくるまで続いた。

次は日曜日です。

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