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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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19『団体戦決勝②』

 変色したゼッケンは、今の攻撃がそれだけの威力を持っていたことを示していた。

 その威力の直撃を食らった穂香は、勢いそのままに吹っ飛び、全身で着地。鈍い音を立てて落下した彼女は、五メートル離れた地点で腹部を抑えて痛みに悶えている。


 ゼッケンが変色すれば自分の力で退場するか、無理そうであれば係員がなんとかすることになっている。あの分では後者になるだろう。

 そんな悠長な思考が流れたのは一瞬。意識はすでに、突如として目の前に出現した猿顔の少年――永沢に支配される。


「あれま、今ので二人は仕留めるはずやったんやけどなァ」


 敵陣のど真ん中にいるにもかかわらず、漏らした声は驚くほど落ち着いていて、同時に危機感を抱いていないようだった。

 もちろん、それに取り合うつもりはない。


「し――ッ!」


 敵陣からの攻撃を、奇襲を受けながらも防いだ陽介を尻目に、響は素早く腰のタロットを抜き放つ。

 一直線に飛んだそれは、永沢の眼前で魔術陣を展開するが、


「ずっと思っとるけど、それってどうやっとんねん」


 気を引き締めたのが傍目にも分かり、序列一位に恥じない速度で魔術を展開。石畳から屹立した土壁がタロットを弾いた。

 響はその構築速度に目をむきながらも、かがんでいた身を起こして行動を開始している。地面を蹴って土壁の側面に回り込み一撃を狙うも、


「は?」


 そこに先まで存在した永沢の影は認められなかった。


「ヒビキさん、幻影(phantom)です!」


 叫んだ瑠璃の言葉でハッと気づく。

 今まで、響たち以外に戦闘で幻影(phantom)を見たことがなかったが、悟られずに敵陣に侵入する手腕。一瞬で姿をくらます素早さ。その両方に説明を付けるのはそれしかない。


 であるならば、


土よ(solum)!」


 全方位、永沢がいそうな場所に向かって砂埃をばら撒く。

 幻影(phantom)は存在そのものを隠す魔術ではない。純粋に映像を映すだけであるならば、こういった手段で不可視を可視にすることは可能だ。

 響の生成量では全く足りないが、それでも範囲を絞ればなんとか形にはなる。


 案の定、走り去っていく人のシルエットが浮かび上がり、


金よ(metal)!」


 即座に練った魔力を魔術として放出。鉄球が飛び、不可視の侵入者に直撃した。


「ぐふ……っ!?」


 息を漏らして横倒しになる永沢。倒れた拍子に魔術が解け、苦痛に顔をゆがめる様子が露わになった。

 追撃のチャンス。一人を脱落させられた今、多少無理をしてでも仕留めておきたいところだが、


「くっ!」


 残り三人の魔術が、原因不明の睡魔によって集中が乱れた陽介の防御を突破して降り注いできた。

 陽介に向かって真直線に飛来してきた鉄球を、地面を蹴って、長身を脇に抱えて転がりやり過ごす。逃げた先に放たれた火球は咄嗟の放水で相殺し、その時には瑠璃の幻影(phantom)がヘルプに入っている。


 微妙にずれた位置に陽介を抱える響の像を映し出すことで、違和感を感じさせずに攻撃の的を外す。

 その間に響は意識をも朦朧とさせる陽介に放水。濡れ鼠になった陽介は、しかし先までよりも意識の覚醒度合いが薄い。

 おぼろげに口を開いて謝罪を口にしようとする陽介を押しとどめ、未だ瑠璃によって作られた響たちの幻影を攻撃し続ける敵チームを指差す。

 頭がまともに働いていなくとも言いたいことは理解できたようで、陽介は小さく頷き掌をかざすと言霊を紡ぐ。


火よ(ignis)


 獄炎の奔流がほとばしり、濁流となって京都学園の生徒たちに押し寄せる。

 見せられているのとは別の方角から来た脅威に、彼らは瞠目しこそすれ動揺はしない。知覚した熱と音を追って視線を動かし、三人一組で土壁を展開――見事に炎を防いで見せた。


 そうして、極大の威力に彼らがたたらを踏んでいるわずかな時間で打ち合わせを済ます。


「すまない、何度も。だが何度か意識を飛ばしかけたことで確信できたことがある。僕が先ほどから感じている倦怠感と睡魔の原因は、魔力不足だ……」


「でもそれは――」


 確かに、今展開した魔術は破格でありこそすれ、普段の陽介と比べれば一つレベルが落ちることは一目で分かった。だが、その原因が魔力不足によるものだとまでは思えない。先も考えた通り、陽介の魔力はそう簡単に使いきれるものではないのだから。


「だが、事実だ。久方ぶりの感覚だが。この倦怠感と眠気は、初めて魔術を使った頃――加減を知らず、無際限に魔力を放出していた記憶と重なる」


 平たく言って、エネルギーそのものである魔力だ。それが体外へと、急速に放出されれば何かしらの不具合が体に起こることは想像に難くない。

 響とて、がむしゃらに元素の生成を鍛錬していたころはよく味わった感覚だ。

 エネルギー不足ゆえ、何をしていても唐突に襲ってくる倦怠感は厄介そのもの。戦闘中に意識が遠のくことからも、なるほど的を射た正論ではあるのも事実。考えにくいからと言って絶対にありえないと断言できない手前、否定するのもはばかられる。


 だが、


「それが分かったところでって感じでですけどねー。私たちのを分け与えられるわけでもないですし」


「……それでも方針を立てるには充分だろう? 響」


「まあ、短期決戦が余儀なくされただけだけどね」


 陽介を欠いた状態での戦闘など負け戦にもほどがある。穂香が退場してしまったことも相当な痛手だが、陽介を失うことと比すればまだ許容範囲。今のうちにケリをつけなければ。


 倒れていた永沢はすでに敵陣に戻っている。響の鉄球はゼッケンに命中していたはずだが、初日でも確認した通り一撃で撃退せしむるには足りない。一撃必殺を狙うのであれば、雷撃(tonitrui)でなければ。


「つまり、打ち合わせ通り。水元素の生成に集中して、陽介は防御も兼任。大丈夫?」


「なんとか、やってみせよう」


 話はまとまった。陽介が放った炎はすでに役目を終え、魔力の粒子に還元されている。仕切り直しだ。


 響たちと相対し、先までと同じ陣形を取った彼らは、再び一点狙いの構え。

 次の標的となったのは瑠璃だ。五元素の弾幕が降り注ぎ、非力な少女を葬ろうと殺到する。瑠璃はなすすべもなく弾幕をその身に受け――体を通過した魔術が、石畳にぶち当たって破砕音を上げた。


 幻影(phantom)によって誤った位置を視認されていたことに遅れて気づいた京都チーム。瑠璃の幻影(phantom)の精度は永沢を凌いで余りある。咄嗟に看破できないのも当然のことだ。

 そうして生まれた隙に滑り込ませるのは水元素だ。可能な限り多くを生成し、攻撃するというよりもばら撒くイメージで放水する。


 それによって、響たちがどこにいるのか、正しい位置を把握した彼らは迷わない。


「そこやっ!」


 鉄球の痛みからは完全に回復した永沢の指示のもと、一切の容赦を加えることなく弾幕を張り響たちの行動を阻害する。

 水元素を放つ響たち。弾幕で応戦し、確実に一人をしとめようと行動する永沢たち。瑠璃の幻影(phantom)で認識を阻害しつつ、危険なものについては陽介の防壁でなんとか防いだ。

 そうしてほどよい具合に水たまりが広がれば、そこは格好の狩場となる。


 降り注いでくる脅威の嵐を躱し、陽介が展開する防御壁の中へ。眼前で防がれて魔力の粒子へと変わっていくその魔術たちを視界に入れながら、魔力を練る響は次の瞬間、巻き添えを生まないように陽介と瑠璃から距離を取る。


 途端に標的を瑠璃から変更した永沢たちは、もう何度目になるのか容赦のない攻撃を放ってくるが――もう遅い。


「――雷撃(tonitrui)!」


 紙一重のタイミング。弾幕が響をとらえる寸前に放たれた一撃必殺の雷光は、足場にたまった水元素に命中し、知覚不可な速度でもってその中を突き進む。

 そして刹那のタイムラグも許さず、雷撃は勝負を決めるだけの力をもって到達する……はずだった。


「え――?」


 間抜けな声を上げる響の視界に映るのは単純な回避法だ。至極真っ当な行動で、なるほどそこまで頭をひねらなければ思いつかないようなものではない。


 ――土元素の生成で、水たまりの上に新たな足場を作る。


 媒介とする水との接触がなくなれば、雷撃(tonitrui)が通るはずもない。

 ただそれだけの事。だが、ほんの数瞬前まで攻撃をしていたにもかかわらず、ここぞというタイミングを計ることができたのが解せない。それは本当に、知っていたとしか思えない行動で。


 次の瞬間、眼前まで迫っていた弾幕への防御手段を持たない響は、嵐に飲まれた。

次は水曜です。

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