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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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18『団体戦決勝①』

 アナウンスと同時に動いたのはほぼ全員。昨日みせたものと同じ陣形を取った永沢たちに、響と穂香は牽制を実行する。


「――火よ(ignis)!」


 叫ぶ穂香とタイミングを合わせ、響もタロットを投擲。弧を描く紋章が、密集陣形で前後衛に分かれる京都学園の生徒たちに迫る。

 だが、


土よ(solum)


 詠唱。

 京都チームは岩盾を用意し、次々と降る魔術の嵐を防いでいく。

 響だけでなく、穂花すらも加わった弾幕は、威力という点で普段のはるか上だ。

 それでも、高位序列者は見事に防いでみせる。


「まあ、それはそうだけどさ」


 もともとの火力の差は歴然だ。陽介がずば抜けているだけで、穂香の火力とてこの場では平均以下。響と瑠璃に至っては平均に遠く及ばないのだから。


 響たちの攻撃を防ぎながら、一塊になったままジリジリと距離を詰めてくる京都チーム。

 それは、陽介を有するこちらに対し、明らかに不利な陣形だ。ただの一撃でまとめて処理されかねない危険を常にはらんでいる。


 それでもその陣形を崩さないのは、陽介の炎さえ充分防ぐことができるという判断ゆえか。

 ひどくシンプルな分断対策。それは単純に過ぎ、単純すぎるがゆえに崩しにくい。一箇所に固まることにより、その魔術力を狭い部分に集中することができるのだ。


「今やっ!」


 響と穂花の牽制が途切れたのを見計らい、猿顔の少年――永沢の号令で一斉放火が始まる。狙いは響。この場でもっとも序列の低い者を最初に狙う判断は、どこと戦っても同じもので、だからこそ響も対処可能だ。

 火、土、金、木、水。五元素の魔術が次々と降り注ぎ、響を葬ろうと殺到してくる。その魔術一つとっても、当たれば打撲程度で済まない威力。


 食らえば即リタイア。魔術の弾幕なら何度も対処したことのある響も、眉をひそめるほどの密度だが、


「――水よ(aqua)!」


 石畳に水をぶちまけ、その上を滑ることで初速を確保。そのまま疾走した響は、石畳を強く蹴って全力で弾幕から逃れることだけに意識を割く。


 背後では、魔術が石畳を穿つ音がする。

 弾幕は逃げる響を追ってくる。舞台を破壊しかねない攻撃の嵐は、全速力を出す響の脇をかすめることもしばしばで、とてもではないがこれ以上持ちそうにない。

 だが、これ以上持たす必要はない。


「――っ! 後ろや!」


 響を追い詰める数秒間。決して長くはなく、なんの対策もしていなければ対応できていない空白は、事前に打ち合わせをしておいたこちら側にとっては格好の瞬間。

 切羽詰ったように叫んだ永沢に反応し、京都のチームの弾幕が止む。背後から瑠璃の幻影(phantom)に隠れて迫っていた爆炎が露わになり、永沢たちを焼き尽くさんと突き進む。


 分断するための一撃は、速度は大したものではない。だが、防御が間に合うほどのタイミングでもないはずだ。

 これで目的は果たされると考えた瞬間、永沢の声が耳を打った。


「防御や!」


「は――?」


 響の口から間抜けな声が漏れるが、京都チームに動揺はない。返答をする間も惜しいと無言で反転。正面に土壁を屹立させて、突き進む業火に叩きつけた。

 学生としても破格な炎も、全国レベルの猛者が複数人集まれば防げないことはない。分厚く高い土壁は陽介の火炎の威力に打ち震えながらも、火の粉の一つも後ろには通さず受け止めてみせた。


 目論見が外れた。


 絶好のタイミングだと思ったが、甘かった。

 だが、この程度は日常茶飯事。むしろ、陽介の炎に対処するため、全員が体を反転させた今は好機だ。

 ちょうど響には背中を向ける形となっており、その姿は間違いなく隙だらけ。

 ホルダーからタロット抜いた響は、背後から奇襲の構えを取るが、


「……!」


 一丸となって陽介の炎を防いでいるように見えた彼らは、しかし一人だけが仲間と背中合わせになり響を警戒している。

 この場でもっとも危険と判断されるであろう陽介を差し置いて、この場でもっとも警戒に値しない響に一人を割くという判断に、響は瞠目してたたらを踏んだ。

 その隙に飛んできた火球を、咄嗟に跳んで躱して、走り出す響はいつもの軌道に入った。


 ――確かに背後に人を置いた状態で、それを警戒せずに他の危機に対処するなど悪手だ。


 しかしこの状況下、陽介の魔術を目にしてその判断ができることに戦慄を禁じ得ない。否、特に呼びかけもない状態であの行動だ。事前に予測していたとしか思えない。


 予想外に適切な対応に舌を巻きつつも、響は努めて平静に。四人で張った弾幕に比べれば、一人による弾幕などやりようはいくらでもある。

 視界の端に、少しずつ威力を落としていく陽介の炎を収めながら、地面を蹴って体を前へと押し出し、岩砲弾をやり過ごすと仲間のいる場所まで。

 陽介が放った炎がピタリとやんだあたりでようやく合流することができた。だが、陽介の首は支えを失ったように前後に動き――、

 次の瞬間には水をかけられていた。


「また?」


「またですね」


「――すまない。気は張ってていたんだが、威力の方もどうしてかいつも通りとはいかなくてね」


 謝罪しつつ、飛来してくる敵魔術に対して半透明の防壁を展開する陽介。さすがの強度で、決して低くない威力の魔術たちをすべて防ぎきるが、その表情には若干の疲れがうかがえる。

 案じる気持ちはあれど今はそうも言っていられない。防御を完全に任せてしまいながらにはなってしまうが、済ますことを済まさなければ。


「とりあえず、陽介の状況を確認しよう。威力が低いって?」


「そのままの意味だよ、響。先の火魔術も全開とはいかなかった。今の防壁も、本調子ではない」


「俺にはそう見えなかったけど……」


 今も先ほども、響の目にはこれといって陽介の魔術に普段に劣る部分を見いだせない。だが響の言に陽介は首を振り、


「それでも、本調子でないのは確かだ。体調管理を怠った僕のミスだ、すまない。眠気の方も、こうして魔術を行使する中で気づいたことがある、いいだろうか」


「なに?」


「どうやら僕が感じているのは純粋な眠気というより、気怠さであるような気がしてね。なんと言っていいか……魔力をかなり使った後といった感じがする」


「は?」


 陽介の魔力量は、一年生どころか学生の中でも破格だ。午前に二試合行ったとはいえ、怠さを感じるほど魔力を消費することなど考えられなかった。

 首をひねるのは響だけではなく、瑠璃も穂香も同じことだった。経験したこともない事態に、どうすればいいのか分からなくなっている。


「とりあえず、このまま戦い続けるのに問題は?」


「ない、とは言い切れない。すまないが、みんなには負担をかけることになる」


「それは構わない。一応、できるだけ気は張ってもらって……次のプランに――」


 違和感を感じた。

 奏と訓練をしている際によく感じるものとはまた違った、”何かがおかしいぞ”という感覚。自分が目にしているものに確実性を見いだせないような、そんな感覚。

 その正体を探ろうとし、それが瑠璃が潜んでいる際に感じるものであると気づく。


「っ! 伏せろ!」


 咄嗟に判断し声を張り上げた響に従えたのは二人だけ。陽介と瑠璃だ。

 穂香はいくら大人しくなったといっても未だ響に反感を持っている。判断が一瞬遅れたとしてもなんの不思議もない。

 だが今回は、その一瞬が命運を分けた。


「――火よ(ignis)


 響たちが集まる中心に(、、、)出現した永沢が言霊を紡ぐ。

 周囲一八〇度に向かって放射された炎が、かがんだ響の頭上を通過し、空気を焼いた。


 そして――弾け飛ばされる穂香の姿が視界に入った。

次は月曜です。

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