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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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14『団体戦二回戦』

 ――魔術大会二日目。


 昨日と同じように、魔術で作られた石造りの舞台に立ち、響たちは相手チームを見やる。


 福岡学園の生徒だ。男女の比率はちょうど半々で、それぞれ序列は七位、八位、一五位、一八位ということだった。同じ学園ではないので一概に序列だけを指標とできるわけではないが、どの生徒も陽介を除いた響チームの誰より順位が上だ。ここまで勝ち残ってきたことを考えても、油断していい相手ではない。


「七位の人だけど、一貫して後衛で指示を飛ばしてる。さっきも言ったけど、叩けば指揮系統を失う代わりに、一人の判断で動ける分統率が取れてるんだ。うちは個人で動く側面が強いから、そこは注意していこう」


 全体の指示は陽介がやる、ということにはなっているが、彼自身の性格と戦略に不慣れなこともあって、指揮系統としてはあまり機能していない。

 手っ取り早く響が指示を飛ばせればいいものの、前線に出る響は脱落する可能性が高く、加えて穂香の件もあって、指示役を名乗り出ることができなかった。


 ここまで残れたおかげで団体戦は板についてきたものの、チームとしてどうなのだろうという不安からきた響の発言に瑠璃は笑って、


「じゃあ、私が後ろに回り込んで不意打ちで仕留めましょうか?」


「昨日、あれだけ使った魔術だから、対策されてるんじゃないかな。それに瑠璃なしで戦線を支えるのは……できなくはないか。陽介がいるし」


「高評価はありがたいが、昨日で散々チーム戦というものを理解させられた。単純に力でどうにかなる舞台でないこともね。任せてほしいと宣言できるほど、身の程知らずではないつもりだ」


「ヨースケさんの場合は逆身の程知らずですから」


 謙遜する陽介に、瑠璃がいつも通りのツッコみ。しかし、一方で陽介の言うことも間違いではない。

 事実、昨日は二人を相手に陽介が攻撃を受けるという場面があったのだ。幸い脱落はしなかったものの、彼を失えば、響たちが数と質で勝る相手に勝利できる望みはかなり薄い。


「だからやっぱり、言っておいた作戦が一番だと思う」


「別に、今回は卑怯じゃないし、構わないわ。でも、本当に大丈夫なの?」


 宣言する響に、横合いから待ったが入る。響の意見に真っ向から対立しようとするのは一人しかいない。穂香だ。


「あんたなんかより、アタシの方が安全だと思うけど?」


「確実って言えないのはそうだけど、それは誰が行っても同じだよ。だったら消去法しかない。陽介はそっちから外せないし、瑠璃も魔術が割れてる今は危ない。あとは俺か里見さんだけど……ここだけは消去法じゃなくて、俺の私情も入ってる」


「私情?」


「昨日の試合で思ったけど、俺の戦い方は異質なんだ。そのせいで団体戦では立ち回りがどうしてもうまくいかない。みんなの戦い方と合わせてみても、やっぱりかみ合いにくいんだ」


 響の戦い方は、基本的に一対一。真正面から戦うことを徹底的に避ける戦闘法は、団体戦という土俵では実行が難しい。

 そして戦い方が違う分、他のメンバーとの連携が期待できない。だからこその判断だった。


「そういうことだから、納得してほしい」


「……フンっ」


 鼻を鳴らして、不機嫌そうに顔を逸らす穂香。肯定と受け取るにはいささか無理があるが、否定というわけでもない。

 昨日、善処すると宣言したことを意識しているのだろう。響が仕切っていても、多少なら文句があっても言い出せない、ということだろうか。

作戦概要を話した昨日の時点で切り出さず、今この場で疑問を呈してみたのがせめてもの抵抗。反対はしないが、賛成ではないという意思がありありと見て取れた。

 だが、積極的に反対しないのであれば問題はないのだと受け取っておこう。


 そうして、試合前の簡単な確認を済ませた頃、アナウンスは選手の序列を読み上げ終えている。


『それでは試合――開始っ!』


 戦闘の火ぶたが切られた。



 * * *



 福岡学園の序列一八位――清永はあまり気乗りがしていなかった。

 東京魔術学園。その序列一位が化け物だという話はかねがね聞かされていたが、まさかあれほどとは思っていなかった。

 昨日の試合を観戦して、彼我の戦力差が分からないほど実力不足ではないし、だからこそ自身のチームのトップですら敵わない相手を前に、尻込み以外の何ができる。


 だが、自分ひとりのわがままで棄権ができるような舞台でないのは事実。結果、気乗りしないままに舞台に上がり、七位の指示通りにフォーメーションを組んだ。

 七位を後衛に、清永を含めた他三人が前に出る構えだ。

 前衛で相手を抑え込んで確実に戦力を削っていく戦法。一人を取り囲んで、数の利で速攻で攻め落とすのだ。


 単純な戦法だが、高位序列者でも複数人を相手にするのは困難なこの状況。三人で同時に狙われれば、どうすることもできずに脱落というパターンもなくはない。というより、昨日実際に起きた。

 倉橋という化け物に通用するかは未知数だが、三つの勝利を重ねた実績を信じるしかない。


 左翼を任された清永は、相手の前衛――地味な男子生徒を視界にとらえ、それを最初に仕留めよという七位の命令を聞いた。素直に従って魔力を練り始め、


「陽介、頼んだ」


「了解したよ」


 敵陣からそんな話し声が聞こえた。

 手をかざす倉橋の狙いは真ん中から少し左にズレた地点。清永の右側だ。

 中央とも、左翼とも判断しかねる、中途半端な狙いである。いや、昨日見た火魔術なら、中央と左翼を同時に焼却せしめる程度の範囲で展開できるのかもしれない。

 そう考えた瞬間、清永の背筋をひやりと冷たいものが走った。危機感だ。


「――火よ(ignis)


 暴力的な魔力のうねりが、炎という形を与えられて爆発する。

 昨日見た壁で押す平面制圧ではなく、細く長い、蛇のような火炎が走った。

 細いと言っても、さすがは事前に危険人物としてマークされていた倉橋の魔術。炎の向こう側の状況までは把握しかねるが、それでも充分な回避行動をとったはずの清永の肌をひりつかせる火力だ。

仮に食らっていたらと思うと恐怖しかしない。


 だが、食らわなければどうということはない。すぐさま反撃しようとし、消えずに残る炎に戦慄した。

敵はこの向こう。まさか突破できるはずもない。戦闘を再開するにはこれを迂回しなければならず――そこで気づく。


 ――走った火炎によって、自分がチームメイトと綺麗に分断されてしまっていることに。


「くそっ!」


 吐き捨てるように呟き、すぐさま走り出す。

 分断された。今の自分は一人きり。チームの中で最低序列の自分がそんな状況にいるなど――、


「――そこを叩かれるのは当たり前、だよね」


 どこか申し訳なさそうな色を含んだ声に、清永は臨戦態勢で振り向き、そして本戦二度目の瞠目をした。


 そこにいたのは、参加資格を持つ者の中で最低序列の少年。事前のミーティングでも名前の挙がらなかった魔術師見習いだった。

次は日曜です。

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