13『反省会』
魔術大会初日、その全日程が終了した。
準々決勝以上の試合は明日に持ち越しで、生徒たちはホテルに帰還。前日と同じ流れでホテルの大部屋を貸し切り、反省会兼ミーティングだ。
「今日はよく頑張ってくれた。惜しくも負けてしまった生徒も、勝ち上がった生徒も、反省会の後は充分に休憩を取ってほしい」
前日、昨年二位の屈辱を晴らそうと呼びかけたのと同じ教師が、前に出て述べたセリフだ。
気遣いが垣間見える言葉だったが、後ろで美里がにらみを利かせていたことから、言わされているのではないかという疑惑を持ったのは言わないでおいておく。
計三試合、初日をなんとか勝ち抜いてきた響たちだが、その表情はあまり明るいものとは言えなかった。原因は視線の先、穂香にある。
反省会が開始されて、昨日と同じ場所に陣取った四人のうち三人は――つまり当事者以外は、責めるような視線を穂香に向けている。
というよりも、響はどう接すればいいのか分からない様子。瑠璃は面白いものを見るような目で、陽介は案じるような視線だった。
「――ひとまず、今日はお疲れ様。すべての試合を勝利で終えることができたのは僥倖だと思う。素直に嬉しいよ。ただ、これで終わったわけじゃない。明日に向けて、自分の何が至らなかったのかを……」
「はっきりと面と向かって言えばいいじゃない。アタシが役立たずだったって」
「里見さん……」
会議の主導権を握った上で、穏便に話進めようとしていた陽介だが、不機嫌そのものな穂香の声音にセリフを止めた。
見れば、穂花の表情も声音そのままで、うちに何らかの感情が渦巻いているのが見て取れる。
本日の試合は、初の公式団体戦ということもあり、それぞれが完璧な役回りを演じられたわけではない。
小さいミスは全員にあったし、即座に修正できるほど、複数人で戦うことに慣れていたわけでもない。注意しこそすれ、疎ましいと思うことはなかった。
だが、その中にあっても穂香の振る舞いには看過できないものがあった。命令違反である。
響が示した咄嗟の撤退や、回避の指示。サポートの要請など、無視されたのは数回。
もっとも、響ではなく陽介の指示は聞くあたり、”落ちこぼれ”に対して何か含むところがあるのは明白だ。
硬直する陽介は、いったん響を顧みて不安そうな顔つきをするが、響がかぶりを振ると嘆息して穂香に向き直った。
「里見さん、確かに君の今日の行いは決して褒められたものではない。勝手に行動をされては、勝てるものも勝てなくなってしまうかもしれないんだ」
「…………」
「ただ、僕は判断ミスは誰にでもあることだと、そう思う。僕個人にしてみても最善を尽くせている気は、なかなかしないのだから。だから、今日の調子が悪かったからといって自分を卑下することはない。――今日のことを踏まえて気を付けてくれないのならば、さすがに思うところはあるが」
沈黙する穂香。反省しているのかいないのかさえも判断が難しい。ただ、悪いとは思っているようで、
「……悪かったわね。足を引っ張って。そんなつもりはなかったんだけど」
軽い挙動ではあるが頭を下げる意思はあった。
それに多少、内心での憤りが消化された響は、疑問を解決しようと口を開く。
「ねえ、どうしてそんなに俺の言うことは頑なに受け入れようとしないの?」
「……なんで、そんなことをあんたに言わなきゃいけないの」
「なんでって……俺が何かしたのかなって思って」
「何かしたもなにも、初日にバスの中で言ったでしょう? アタシはあんたを認めないって。――卑怯な手ばかり使うあんたを認めないって」
「…………」
沈黙する響に、瞠目した陽介の視線が突き刺さる。瑠璃は、なるほどと得心が言った様子だった。
――確かにそれは、すでに面と向かって言い放たれていることだった。
だが、だからといってそれを、響だけではなく他人にも迷惑をかけることになる団体戦で主張してくるとは思ってなかった。せいぜい個人的に無視されるか、敬遠される程度だと思っていたのだ。
だが、実際にそこにあったのは、隼人ほどではないにせよ、明確な敵意だった。
「でもでもー、卑怯だなんだって言いますけど、要は勝てばいいじゃないですか」
そんな穂香に苦言を呈したのは瑠璃だ。普段通りの軽いノリで、しかし奥底に眠る信念を感じさせる声音が続く。
「例えば、今殺されそうってなってて、そこから助かる手段が一つだけあったとします。それが卑怯な方法でも、すがるしかないでしょう? 死んじゃったら何も面白いことなんてないんですから」
「そんなのは極論でしょう? 死ぬか死なないかなんてことが早々あるはずがないじゃない」
「ないなんてことはないですよ。そんなの、割と日常にありふれてるものです」
普段とは違う、真剣な声音だった。本当に瑠璃の口から出た声なのかと、咄嗟に疑ってしまうような。
そこに眉をひそめるが、追及する時間は与えられない。すぐに表情からも声音からも険を消した瑠璃は、穂香に向き直り、
「じゃあ、ホノカさんが言う正々堂々ってどういうことですか」
「そんなの決まってるじゃない。お互いに尊重して、お互いに真正面から全力を出して戦うのが……」
「なんですかそれ。そんな戦い方をして、負けて、それでどうにかなるんですか?」
「だから、それは極論だって……! アタシはこういう試合で、こそこそ隠れて戦ったりするのはおかしいって言ってるの!」
らちが明かないとばかりに声を荒げる穂香。対する瑠璃はたじろがず、真正面から見据えて揺るがない。
「私もこそこそ隠れて戦ってここまで来てるんですけどねー。大体そんなの、自己満足なだけじゃないですか」
「……っ!」
「ちょっ、待った待った! そこまでにして!」
穂香が息を詰まらせたのに不穏な空気を感じ取って、響は咄嗟に二人の言い合いを制止した。
まだ団体戦は残っている。そんな段階でする話ではないし、そもそも場所が場所だ。声を荒げたあたりから、周囲の視線が集まっている。
大事にならないようにと必死になる響だが、穂香と瑠璃にとっては嬉しい申し出ではないようだ。
「なんですか。わた……ヒビキさんのために言ってるんですよ」
「今、”私”って言いかけたよね」
思い切りにらみつけて来た穂香とは違い、瑠璃は幾分マイルドな対応、しかし、セリフの冒頭に自身の欲望が透けて見える気がする。
女子二人に睨まれて困惑する響、咄嗟に陽介に目をやり、苦笑いで答える美丈夫は咳ばらいを一つ。
「とにかく、里見さんが響をないがしろにする理由は理解できたよ。確かに、卑怯と言われて仕方のないものがあるとは思うけど、僕はそれだけで卑下するモノでもないと思う」
「…………」
「力が他よりも劣るからこそ、知恵を回して他者に並ぼうと努力した、少なくともその姿勢は褒められるべきものであるはずだ」
「それでも、たどり着いた方法を、私は認めないわ。今日の戦い方にしたって、隠れてばっかりで、真正面から戦ったためしはなかった」
「それは、そうだね。僕が口を出すことではないな。友人を否定されて思うところがないわけではないが、ある程度は弁えよう。その上で言わせてもらうけれど、これは団体戦だよ。そうだよね、響」
「え? あ、ああ」
突然話を振られて、響は狼狽しながらも首を縦に振って肯定の意。
「そりゃ、先生たちが勝手に決めたチーム分けではあるけど、それでもチームなんだし。勝ちたいと思ってるなら、ある程度は俺の話も聞いてくれないと……」
なんとか柔和な表現を選んで言葉にする。
穂香は相変わらず不機嫌そうな様子だ。納得してくれているとは思えない。だが、
「善処はするわ」
不機嫌、納得したとはとても言えない雰囲気ではあったけれど。
ひとまず、そういうことで理解はしてくれた。
次は金曜です。




