12『第三者視点』
昼を過ぎたころには、本日行う予定だった一年生の試合はすべて終了している。ここからは二年生の試合だ。
奏は、回ってきた自分の出番にもかかわらず、心ここにあらずといった様子だった。
響が臨んだ団体戦。本日行われたのは三戦。そのいずれでも勝利を掴んだのにはなにも不満はない。
そもそも、響のチームには陽介という、破格の男がいる。必勝とまでは言わないが、負ける画が浮かばないと思う程度には過大戦力なのだ。
だから奏の不安は別にある。――チームワークだ。
響、瑠璃、陽介の三人に関して言えば、粗く行き当たりばったりな面がありつつも上手く回っている。多少の想定外ではブレない程度に盤石だ。
問題は、四人目。里見穂香にある。
どういうわけか彼女は、戦闘が佳境になるにつけて悪い判断を下すことが多い。そうしてピンチになるたび、同じ前衛である響がフォローしているのだが、一向に改める気配がない。
一度など、一歩間違えればチームが敗北する可能性だってあった。
「何とかしてあげたいけど……」
自分ならば、話し合いで決着は付けられなくても、脅しは可能だ。強引に、強制的に穂香の判断ミスを改めさせることも不可能ではないだろう。
だが、
「キュルゥ」
「分かってるってば」
使い魔の忠言を耳にして、奏は不満げに唇を尖らせた。
そうなのだ。これはあくまで響たちの問題で、奏が口を出すのは筋違い。一学年上の奏が割って入ったところで、解決はしても成長はしない。
教師を目指す者として、それは愚行だと理解している。とはいえ、もどかしいという思いも消え去らないのだから厄介なものだが。
「あの、佐倉さん、そろそろ始まるから……」
「え? ああ、ごめんなさい」
不意に声をかけられて顔を上げると、今回の団体戦でチームメイトとなった男子がいる。物思いにふけっていたが、ここはすでにフィールドの中央、舞台の上だ。
余分な思考は切り捨てて、目の前の相手を蹴散らすことだけを考えなければならない。
「――まあ、私が積極的に何かするわけじゃないけどね」
二年にして学園最強という称号を持つ奏は、すでに並の魔術師ですら歯が立たない実力を有している。学生四人を同時に相手取る程度、朝飯前だ。
だからこそ、団体戦の場では積極的に動けないのだ。奏が一人でなんとかしては、それは団体戦でもなんでもなくなってしまうから。
「キュルッ」
「分かってるって。キュルリンは頑張ってね」
「キュルーッ」
「なにその動き。可愛い……」
中空をくるくると回る使い魔に、思わず頬が緩む奏。
奏が積極的に参加しない代わりに、その使い魔は全力で参戦することとなっている。これで負ける心配はないだろう。もっとも、もしそんな場面になってしまったら、奏も重い腰を上げなければならないのだが。
『それでは、試合――開始っ!』
いつの間にか選手の紹介を終えたらしいアナウンスが試合の開始を告げる。
「キュルッ」
「はい、いってらっしゃい」
最後にもう一度振り返ってから、キュルリンは宙を滑空して味方の支援をするべく飛んで行った。
- - -
――えげつないものを見た……。
「鬼灯さん、魔術大会って、こんなに一方的なものでしたっけ……」
目前で繰り広げられる光景を目にして、壮馬は顔を引きつらせて隣の先達に声をかけた。
「知らねぇけど。じっくり見たこたぁねぇし。俺の時代にはそもそもなかったしな。オメーも出たことあんだろうから、俺よりゃ詳しいはずだろ」
「いやいやいや。俺は一年の時にスカウト受けて、そのまま中退して局入りでしたから、一回しか出たことないんですよ。その時の俺だってあれほどじゃなかったですもん」
眼前、一人も欠かすことなく敵を追い詰めているのは奏が率いる東京学園の生徒たちだ。
といっても、奏自身は何をするわけでもなく、試合の様子を睥睨している。代わりに使い魔が前線に出張っているのだが、その働きたるや大したものだった。
「聞いた限りじゃ、奏ちゃん以外のチームメイト、軒並み序列低いですよね」
五〇〇人もの中から選ばれた三〇人に入っている生徒に対して、序列が低いというのもおかしな話だが、魔術大会出場資格を得る条件の最低序列が三二位。
奏以外の三人は、下から三人という何とも大雑把かつ、何か悪意があるのではないかと疑いたくなる布陣だ。
対する名古屋学園は、序列一位こそいないものの、最低序列は一二位。最高序列は三位とバランスの取れたメンバーだった。
少なくとも、東京学園のメンバーで、奏以外の三人よりも基礎能力は高く、壮馬の目から見ても将来が有望だと思える程度の実力は有している。
普通に考えれば、名古屋学園が圧倒する。その力関係が、ただ一匹。使い魔の存在一つでまったく別のものになっていた。
味方の一人がピンチに陥れば背後から障壁を張って攻撃を防ぎ、防御を突破できなければ愛らしい口から放つ咆哮で吹き飛ばす。攻撃が当たらなければ蔦を生成して動きを止める。
獅子奮迅 (カーバンクルだけど)とはまさにこのこと。
基本的に、術者の能力を超えた力を持つ使い魔というのは存在しない。どうしたって、主人の方が格が上になる。
だが、奏の使い魔ともなれば、主人ほどの実力がないにしても何の問題もない。率直に言って、先までの一年生の中で群を抜いていた倉橋という少年にも見劣りしない――もしかしたら、優っていた。
「本当に、今戦ったら俺負けるんじゃないかな……。無茶苦茶でしょ」
「お前も無茶苦茶だろ」
「鬼灯さんも大概無茶苦茶ですから」
大魔術師同士で互いの実力を揶揄しながら、しかし視線はフィールドから動かない。
名古屋学園の生徒がまた一人場外に追いやられ、残りの生徒はたった一人。たとえ奏の使い魔の介入がなかったとしても、三対一のこの状況ではどうしたって勝ち目はない。
「まあ、そうだよなぁ」
残った一人が両手を上げるのが見えた。この状況では正しい判断だ。むしろ、三人になった時点で降参していても早くはなかった。
奏の試合は、何の危なげもなく奏の勝利で幕を閉じた。
次は水曜日です。




