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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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11『初・団体戦』

 開始と同時に、舞台上の人間の全員が動いた。

 まず札幌学園の生徒たち。男子生徒二人の腕が揃って跳ね上がると、形成された魔術が放たれる。

 どちらも土元素。顔ほどの大きさを持つ岩砲弾が、与えられた指向性そのままに風を斬って突き進む。その威力、当たれば間違いなく骨が折れる。


 対して響に防御手段はない。であれば回避しかないのだが、これは個人戦ではない。


「陽介」


「分かっているとも」


 短いやりとりで意思を確認した陽陽介が響と穂香の背後から魔術を展開。その眼前に半透明の防壁を築き上げた。

 響の訓練に付き合った見返りとして、奏が特別に教えた魔術である。

 (wall)。本来は幻影(phantom)の習得をした後に二年で習う魔術のはずだが、陽介はその卓越したセンスで、幻影(phantom)を経ることなく、この領域に到達していた。


 生成された壁の防御力は、序列一位の名に恥じない一級もの。高位序列者といえども一年生程度の魔術で突破できるものではない。

 衝突した岩砲弾たちは、決して頑丈そうには見えない壁の前に砕け散り、魔力の粒子になって霧散した。


 瞠目するのは京都学園の生徒たちだ。まだ自分たちの知らない魔術を使われ、得体のしれないモノの出現に戸惑っている。

 だが、それでいつまでも立ち止まっているような柔な神経の持ち主たちでもない。


 驚くのも一瞬、次の瞬間には短く指示を飛ばし合い、それぞれの行動を開始している。

 男子二人が引き続き攻撃を放ち続け、女子二人はそのそばにぴったりとくっついて何もしない。

 響はあまりにも無防備な姿に眉をひそめ、それからどういうことか思い至って納得した。つまり、あの女子二人は防御担当なのだ。

 完全に役割を二分割することで混乱をなくす。自分のすべきことをすればいいので、団体戦慣れしていない一年生が、よく使用する形だという。


 とはいえ、ああして一方向に固まっているのは悪手だと思うが。


 降り注ぐ魔術の雨のすべてを、陽介は見事に防ぎきってみせている。これだけを受けて、(wall)の表面には傷一つつかない辺りさすがというべきか。

 ともあれ、攻撃しなければ始まらないのも事実だが。


「響、動かないのかい?」


「いや、今はどう動いたかが丸見えになるなと思って」


 (wall)の性質上、防壁は常に半透明になってしまう。利点は、防御しつつも相手の動向に目を光らせることができるという一点に限るのだが、反面、こちらが何かをしようとする場合、相手もそれが確認できてしまうのだ。

 そして打ち込まれている現状、首でも出そうものなら集中狙いされてしまう。防ぎきっていながら、その実封殺されているようにも見えるのだ。


「ということで、瑠璃」


「分かってますよー。ほいっ」


 戦闘中とは思えない軽いノリで、息をするように幻影(phantom)を発動させる瑠璃。これで防壁の側方から顔を出しても、相手に勘付かれずに済む。


 相変わらず、防壁に向かって意味のない攻撃をし続ける敵チーム。否、その場に縫い付けるのあ目的なのかもしれないが、それだけではぬるい。

 防壁から顔を出し、響は迎撃の魔術を叩き込む。

 構築速度は目の前で繰り広げられてるものに数段劣り、威力にしても嫌になるほど低い。速度も遅ければ、いくら姿を隠して不意を突こうと、数十メートルの距離が防御の時間を与えてしまう。


 男子生徒のすぐ近くに控えた女子生徒が飛来する火球に気付き、すぐさま岩の盾を作り出すと、それを弾いた。

 無駄のない、とまでは言えないが、大した訓練時間も取れなかっただろうに、なかなかの反応だ。


 続けて攻撃を放ち、響なりに弾幕らしきものを作るが、それもすべて防がれてしまった。


「いやー、それはさすがに無理じゃないですか?」


「それを確かめてみたんだよ。攻撃力が足りない。――っと」


 魔術の飛来する方向から割り出したのか、女子生徒に耳打ちされた男子生徒が間髪入れずに響のいる場所へと攻撃の方向を変更。すぐ横をかすめて行った岩砲弾にひやりとし、咄嗟に防壁へと体を隠した。


 普通は何もないところから攻撃が来ればもう少し動揺するなりするものだと思うのだが、さすがは魔術大会といったところか。一筋縄ではいかない。

 では、


「里見さん、君の攻撃だとどうなるのか確かめてみたいんだけど」


 響で足りないのであれば、もう一人。前衛に配置している穂香の力を借りる以外にない。

 だが、響の呼びかけに彼女は冷たい視線を投げかけると、


「は? どういうこと」


「だから、俺と同じように攻撃してほしいんだ」


「それって、隠れてこそこそ不意打ちしろってこと? アタシに? 冗談じゃないわ。そんな卑怯な真似、できるはずがない」


「…………」


 明確な反対意見。それも戦闘中に。

 押し黙る響に、穂香は「それに――」と続けた。


「なんでアンタが指示出してるのよって、昨日も言ったわ」


「む……」


 それは確かにそうだ。響自身も無意識で、陽介も瑠璃もあっさりと受け入れてしまうものだから気づけなかった。

 失念していた事実に苦虫をかみつぶしたような表情になる響。反論できず、だからこの場も陽介が苦言を呈した。


「里見さん、君の憤りの理由はよく分かった。だが、今は試合中だ。ひとまず脇に置いておくことはできないだろうか?」


「アタシに、卑怯な真似をしろっていうの? それはいくら倉橋でもお断りよ」


「いや、そういうことではなく、だね……」


 頬をかきつつ、陽介もどう言えばいいのか分からない様子だ。何とも微妙な空気。そんな中、気圧され、何も言えない男二人に代わって、言葉を引き継いだのは瑠璃だった。


「要は、今は響さんの言うことに従ってほしいってことですよ」


「そんなの、卑怯なことしろって言ってるのと変わらない」


「変わらなくはないですよ。ね、ヒビキさん。何とかできません?」


「……あ、ああ。分かった」


 強引に話を進め、響にパスする瑠璃。

 卑怯なことが嫌なら、それをさせないような策を考えろと、そういうことだろう。難易度が跳ねあがったが善処する以外に道はない。


 依然、札幌の生徒たちは攻撃を続けている。このまま動かないわけにもいかないが、防壁を解いた途端格好の的だ。

 であれば、打って出るしかない。できれば相手方の処理能力をもっと確かめてからが理想だったが、仕方ないだろう。


「俺は左から、里見さんは右からそれぞれ同時に飛び出して向こうに突進だ。近づけば、岩盾じゃ防ぎきれなくなる。これなら問題ないよね?」


「……ええ、まあ」


 本当ならば、幻影で姿を隠していきたかったが、それは穂香が承知しないだろう。なんとか魔術の嵐をかいくぐり、向こうまで到達するしかない。

 考えるだに馬鹿正直な作戦。だが、団体戦に限って言えばまだ勝算はある。


「そういうわけだから、援護はよろしく、陽介、瑠璃」


「任せてほしい。与えられた仕事はきっちりやるさ」


「えーっと、ルリさんは何すればいいんですか?」


「臨機応変にその場その場で考えて」


「うわっ、なんて雑な指示……」


 文句を言いつつ、ため息一つで瑠璃は納得してくれた。穂香を見てしまった後だからか、渋々といった様子にもありがたみを感じてしまうから不思議だ。

 ともあれ、方針が決まったらあとは早い。


「それじゃ、カウントダウンするから……」


 ――ゼロの合図で行こう。そう続くはずだった響の言葉は、途中で止まった。


 穂香は響の話など聞かず、チーム全体に方針が行き渡ったと見るや、即座に防壁から飛び出している。


「ちょ――っ」


 なんという独断専行。それでは集中砲火を浴びるだけだ。

 予想通り、敵チームに同様の空気が走ったのも一瞬、すぐさま姿を現した愚かな突入者に向かって視線が集まる。そして、攻撃。

 防壁に向いていた岩砲弾が軌道を変え、穂香へ向かって殺到した。


 動く的には当てにくく、響とは違い岩盾という防御手段を持つ穂香は、直撃するモノだけに焦点を合わせて防いで見せるが、二対一の現状防ぎきることはできまい。

 事実、次第に追い詰められていく穂香は攻撃には転じられず、防御すらも削られていくのみで、


「くそ……!」


 毒づいたときには、体が動き出していた。一応は響の建てた作戦。それで怪我をされるなど、夢見が悪いにもほどがある。

 防壁から外へ出た響は、同時にタロットを投擲、水元素の放水に札幌の生徒たちがたたらを踏んでいるうちに、数十メートルの距離を駆け抜けた響は、穂香の手を取ると、


「まだ合図してないだろ!」


「……っ、なによ、アタシに指図しないで!」


 力任せに引っ張って、敵チームまで一〇メートル程度という、団体戦としては近すぎる距離から撤退しようとする。

 だが、苛立ちを含んだ声は響を拒絶し、掴まれた手を振り払った。


「なっ……」


 またもセリフに詰まる響の横で、穂香は歩みを止めない。

 走り抜けるには短い距離を踏破しようとし――響の放水での混乱など些末なこと。すっかり立ち直った札幌チームに捕捉された。

 躱すのにも防ぐのにも距離が近すぎる。響きですらそう思う状況。日頃からその訓練をしていない少女が、無傷でたどり着くことなどできない。


 岩砲弾が放たれる。穂香は止まらない。体の前に展開した岩盾だけを頼りに、そのまま突っ切ろうとする。

 そんなもの、せいぜい体の中心を守ることしかできないのに。魔術の弾幕など、防ぎきれるわけがない。

 直撃、直撃。縦に亀裂が入り、続く三撃目で砕け散る。とどめの四撃目は、すぐそこに迫ってきていて、


「る、ぁぁあっ!」


 跳びかかる響が、穂香の矮躯を抱えて転げまわった。

 岩砲弾が脳天をかすめて、摩擦で生まれた熱に、禿げたのではないかという錯覚を味わいつつ、がむしゃらに跳びかかりつつも、最低限の受け身は忘れない。

 石畳に身体をぶつけつつ、大した打ち身もなくやり過ごした響に、穂香は腕の中で殺意すらこもっていそうな視線を投げかけていた。


「なにすんの。死にたいの?」


「ごめん。だけどそっちこそ、なにがしたいんだ」


 にらみ合う二人。だが、現状はそんなことをしている場合ではない。

 すぐそこには敵影が四つもある。躱したとはいえ、これでは再度の回避は不可能だ。


 それは札幌チームもよく理解している。防御に回していた女生徒すら二人に向かって掌を向け、仕留めようと呪文を詠唱し――


「――火よ(ignis)


 それより数瞬はやく完成した大質量の魔術が、情け容赦なく吹き荒れた。

 東京魔術学園一学年序列一位。その称号だけにとどまらないほどのけた外れの魔術は、反則の一言に尽きた。

 炎の濁流。そんな表現すら相応しい一撃が札幌チームに迫り、寸前で察知した四人はすぐさま回避行動をとろうとするが、


「――!?」


 響が先に放った水元素。その残滓が残した水たまりが足を絡めとって挙動を遅らせる。

 大理石に似た、魔術で編まれた石畳は、水に濡れるとひどく滑りやすい。


 そして、その遅れた挙動では、大質量の火炎を躱す猶予など残されていなかった。

次は月曜です。

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