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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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3『昼ご飯』

 京都、と聞いて真っ先に想像する街並みと、目の前を過ぎていく街並みの間にはいくらか乖離があった。


 新幹線からバスに乗り換えて数分。東京とさして変わらない風景に、響はいくらか期待を裏切られた気分だ。

 確かに、赤に黄色の文字が有名な某ハンバーガーショップは茶色く、その他、東京でも見られた派手な色の店は総じて地味な見た目になっている。しかしそれを除けば、都会と何ら変わらぬ光景だ。


 もっとも、一応中学までは一般の公立中学校に通っていた身である。修学旅行で京都には一度足を運んでいるし、その街並みが文化保存などで保護されつつも確実に時代の流れに流されて行っていることは知っていた。

 だとしても、実際に目にすると多少の落胆は拭い去れない。


「まあ、観光はできないけどね……」


 相変わらず拒絶の色を放つ、隣の席のクラスメイトに聞こえないように呟いた。

 年も変わる間近のこの季節に京都まで来たのは、なにも観光名所を回るなどと言う目的ではない。魔術大会のためである。

 市街を回る余裕は存在せず、つまるところ開催される場所がどこであろうと大した違いはない。風情など何のその、といったところか。


 そうしてバスが向かうこと数十分。前方に巨大なホテルが見えてきた。



 * * *



 バスから降りると、教師の指示に従って荷物を持ち、部屋班ごとにまとまってホテルに足を踏み入れた。


 ホテルの内装は、巨大な外観に負けず劣らず広々としている。ひと学年から三二人しか来ていないとはいえ、全学年と教師を合わせると一〇〇人を超える団体が泊まるには、この広さが必要だったということだろうか。

 そう考えていたが、教師の説明によると、魔術大会に出場する、他四つの学園も同じホテルに泊まっているということだった。つまり、ホテル全体が魔術大会のために貸し切られているようなものなのだろう。


「ふう」


 部屋に荷物を置いて一息つく。

 見れば、ルームメイトも似たような様子で、長時間の新幹線とバスによる疲労を感じているようだった。

 無理もあるまい。一般的な学生よりもはるかに体力のある響ですら多少の疲労を感じているのだから。

 ルームメイトと同じように、ベッドにダイブしてダラダラとしたい欲求はあるが、残念ながら部屋割りもクラス単位で行われている。言ってしまえばアウェーで、”落ちこぼれ”にとってはあまり優しくない環境だ。


 今はしばしの休憩時間。各自、配布された弁当を食べるようにとお達しがあったのだが、この空間で食事をする気にはなれない。アウェーの影響で確実に胃もたれする。この後の予定を考えれば遠慮したいところだ。

 この後の予定――明日大会が行われるアリーナの見分と、魔術大会に備えた最終訓練だ。


 その二つを控えて、体調が優れないのは困る。

 少しでも心が休まる場所をと部屋を出、


「――響?」


 かけられた声の方に顔を向けると、長距離移動の疲れを一切感じさせない黒髪の美丈夫が目に入った。


「あれ、陽介」


「やあ。ちょうど今、誘いに行こうとしていたところなんだ。一緒に昼食でもと思ってね。行き違わなくてよかった」


 手に響と同じ弁当を下げた陽介は、柔和に微笑みそう言った。

 なんというタイムリー。ただ、ひとつ気になることがある。


「でもいいの? 部屋の人たちと一緒に食べなくて」


 陽介人当たりの良さと実力を鑑みると、クラスの中でも中心にいるというのは想像に難くない。そちらをおろそかにしてもいいのだろうか。

 そんな懸念が生んだ問いだったが、陽介は響が今出てきた部屋の方に視線を向け、


「響こそ、大丈夫なのかい? 誘いに来た僕が言うことではないかもしれないが」


「俺は大丈夫だよ」


 部屋の空気を思い出す。

 ルームメイトは四人。誰もが疲れた様子だったが、なんとなく”落ちこぼれ”相手に距離を測りかねている空気がした。少なくとも居心地はよくなかった。


 頷く響に、陽介は肩をすくめて、


「それならよかった。僕も部屋で昼食を取らないことに問題はない。恥ずかしい話ではあるが――」


「ヨースケさん、私以外にそんなに友達いませんもんねー」


「ぅわっ!?」


「……瑠璃、一応ここは男子棟で、女子は禁制だったと記憶しているが……」


 突然の登場に驚き、軽く飛び上がる響とは対照的に、陽介は平然としたものだ。整った容姿に苦笑を浮かべて瑠璃の出現に苦言を呈す。


 驚きから立ち直った響は、今の瑠璃の発言内容に聞き逃せないものを感じて聞き返した。


「陽介に友達が少ない?」


「はい。いやー、なんでですかねぇ。やっぱり実力者になると話しかけづらかったりするんですかね。ルリさんが話しかけるまでは結構一人でいることが多かったですもん」


「努力を怠るクラスメイトが多かったからね。僕から積極的に友人を作ろうとは、どうしても思えなかったんだ。自分まで研鑽を忌避するようになるのではないかと、半ば恐れていたのもある」


「よく分からないこと考えてますね。自分は自分、他人は他人でしょうに。もしくは面白い事がすべてでしょうに」


「君のその価値観については口を出さないよ。否定する気はないからね。それはそうと瑠璃、ここは女子禁制。ということは当然、見張りの教師がいたはずだが」


「ほら、ルリさんですしっ。先生の監視とか、ないも同然ですよ」


「何故だろう、それで納得してしまうと負けな気がしてならない」


 幻影(phantom)。瑠璃の得意魔術であるそれは、もはや魔術師のレベルすら越えている。奏ですら容易には見破れない技量は大したものだが、使われる用途は御覧の通り、大したことのないものであることが多い。

 ただ驚かせたいからという理由で魔術を発動させることもあるほどだ。理由はこれまた大したことのないもので、


「だって面白そうじゃないですか」


「そう言うと思ったよ」


 あっけらかんと笑う瑠璃に、陽介は嘆息。響も同じ思いだ。

 二人の呆れた視線を受けたからか、瑠璃はムッと頬を膨らませ、それから手に持った荷物を肩の高さまで上げて示した。


「冗談ですよ、冗談。いえ、まるっきり完全に冗談ってわけじゃないんですが、理由の半分くらいです。ここに来た理由はヨースケさんと同じですから」


 つまり理由の半分は面白そうだからなのか。

 そこに目をつむって見れば、瑠璃の手にも弁当が提げられている。


「お二人とも、どうです? 一緒にお昼ご飯でも」


 面を食らう陽介と響。まさか教師の目をかいくぐるために魔術まで使って男子棟に来た理由が、「一緒に昼食を食べよう」と誘うことだとは思わなかった。


「ああ、僕はまったく構わないよ。響も、いいだろう?」


 陽介が瑠璃にうなずき、それから響のも確認しようと視線を投げかけてくる。

 高頻度で一塊になっている三人組だ。断る理由もつもりもどこにもない。むしろ、


「ありがたいくらいだよ」


 今さら一人での食事が苦になることはないが、それでも友人と取る食事は心が休まる。

 つくづくありがたい友人たちだと、響は胸の内で思った。

次は土曜です。

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