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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
2章『落ちこぼれ魔術師の序列決定戦』
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4『対策内容』

更新まだー、更新まだー、更新まだー、更新きたー。

 学園最強の称号を二年生でありながら欲しいままにする響の師。その敵意に触れながら、しかし怒り狂って理性を捨てた隼人はひるみこそすれ引き上げない。

 真正面から視線とぶつかって、反抗的な態度をあらわにする。


「ああ? なんでアンタが止めるんだよ、おい。関係ねぇだろうがよ。これは俺と”落ちこぼれ”の問題で、アンタには何の関係も、止める権利もねぇんだよ!」


「だから、なに?」


「関わんじゃねぇ。どっか行ってろ。せいぜい玉座にふんぞり返って、寝首をかかれろよ」


「玉座? 学園最強とかのことを言ってるなら、筋違いよ。それに、関わらないっていうのも無理」


「あ?」


 強い視線に、隼人はたじろぎ眉をひそめた。

 それに奏は肩をすくめて、


「だって、ここは訓練場でもないのよ? こんなところで魔術を放つなんて、停学にされても文句は言えないわ」


「だとしても、あんたが関わってくることじゃねぇだろうが」


「善良な一生徒として、見過ごせるわけもないでしょう?」


 正論を述べる奏に、隼人の忍耐は削れていく。眉尻をぴくぴくと動かすも、学園最強相手に攻撃を仕掛けるという愚だけは必死にこらえているようだ。


 そうして言い争う二人を視界に収めながら、響はただ傍観することしかできない。何かを言おうとしても、何を言えばいいのか分からない。

 軽い混乱に陥った響に頓着せず、二人のやり取りは進む。


「はっ! 知るかよ。善良だろうが何だろうが、俺のやることに口出ししてんじゃねぇ。学園最強だか何だか知らねえけどな、図に乗ってんじゃねぇぞ」


「…………」


 隼人の身勝手な理屈に、一瞬奏が沈黙する。さすがに手に負えないとでも思ったのか、奏は息をつくと、さらに声のトーンを落とし、単純な方法に打って出た。


「分からない? ――今ならまだ見逃してあげるって言ってるの」


「――っ!」


 空中に展開された魔術陣。光を放ち、芳醇な魔力に満ちるそれから、鉄製の針が生成された。太さは指二本分ほど。長さは二〇センチを下るまい。射出されれば、人の命もあっさりと摘み取る代物だ。

 それが、狙い違わず隼人の首者とに切っ先を向ける形でにらみを利かせた。


 さすがの隼人も息を飲み言葉を失う。もちろん、そのまま首に突き立てるような凶行はしないだろう。だが、それでも本気かと疑うほど、凛とした空気を発する奏は美しくも、危うかった。

 理性を失ってもなお感じ取れる危機の気配は、本能が忌避して当然のもの。隼人は額から汗を垂らして、歯ぎしりをし、しかし行動には打って出ない。


 ここで反抗すればどうなるかなど、獣でも理解できる。

 隼人は射殺さんばかりの視線を奏に向け、大きく深呼吸を繰り返し、


「くそっ!」


 吐き捨てるように言って、地面を蹴りつけると小走りでこの場を去っていった。

 尻尾を巻いて逃げるというにはいささか以上に往生際の悪かった逃亡。奏と相対し反抗できる胆力に称賛を送るべきか、危機に対して逃亡の選択が遅いことを指摘するべきか。


「ふう、慣れないことすると、疲れるわね……」


 そうして、隼人の背中が見えなくなくなると、奏は肩の力を抜いたように嘆息する。瞬間、連絡路を支配していた圧力が消失した。なかなかどうして、恐れ入ったものである。


 それから奏では振り返り、硬直したまま動かない響に手を差し伸べた。


「ほら、そんなところにいつまでもへたり込んでないの。怪我はないでしょ?」


「……は、はい」


「もう、騒がしいと思って来てみたら、あんなことになってるんだもの。びっくりしちゃった」


「はい……」


「どういうことかはなんとなく分かるけどね。どうせあの子が、また菖蒲くんに突っかかったんでしょ。懲りないわね」


「そう、ですね」


「……えっと、ねえ菖蒲くん。どうしてさっきから恐縮してるの?」


 歯切れ悪く相槌を打つ響に、困り顔で奏が疑問を呈する。

 それを受けた響はバツが悪そうに視線をそらし


「あの、この前は助けてくれなかったのに、どうして今回は助けてくれたんだろうって思って……」


 思い出されるのは一ヶ月半前。第三訓練場でいたぶられる響を見かけながら、奏はすぐに助けず美里を呼びに走った。

 薄情な行動ではあるが、互いの関係を極秘としていた当時の、合理的かつ理性的な判断であったことは間違いない。

 響としても、仕方のない判断だったと納得しているし、それ以上に隼人への怒りが強くて気に留めもしなかった。


 現在は、互いの関係を秘密とする必要性は薄くなったものの、それでも秘匿しておいた方が都合がいいのは確かだ。

 前回のように切羽詰まった段階でもなかったのだし、見つけた時点で誰かを呼びに行くという判断も、出来なくはなかったろう。序列決定戦中で教師を見つけるのが普段より難しいとしても、だ。


 沸き起こった疑問をぶつけた響に、奏は視線を宙に彷徨わせる。


「え、えーっと……」


 呟き、それから縋るように肩のキュルリンへを見つめ、


「キュイッ」


「なんで目逸らすの!?」


「キュルルッ」


「確かに黙ってた方が怖いからって、喋らないでとは言ったけど、今は違うわよ!」


「キュイッ」


「キュルリンっ!」


 面を食らって狼狽する奏だが、使い魔は慈悲を見せない。ツーンと、奏とは反対の方向を見たまま動かない。

 奏は困った顔のまま、決まり悪そうに頬をかいて、


「ほ、ほら。やっぱり、師匠だからっ。師匠が弟子を守るのは当たり前でしょ? だから、ね」


「キュルゥ」


「質問の答えになってない? なってない……かも」


「キュル」


「キュルリンは余計なこと言ってからかわないの」


「あの……」


 放っておけば永遠に脱線していそうなやり取りに、待ったをかけた。

 キュルリンは奏に向かって咎める態度。観念した主は小さく深呼吸して申し訳なさそうに、


「その、えっとね、前のことは私も本当に後悔してたっていうか……。やっぱりすぐに助けるべきだったなって思ってて。だから……」


「…………」


「ね?」


「ねって言われても……」


 つまりは、前のことがあったから助ける方向しか見ていなかったと、そういうことだろう。別におかしなところはないが、奏は何故か不安げだ。


「そこのとこ、どういうこと?」


「キュルッ。キュルーッ」


「ごめん、やっぱり分からないや……」


「キュルッ!?」


 先ほどの堂々と凛とした立ち姿は何処へやら。落ち着きなさそうにソワソワしている奏に代わって、彼女の使い魔に問いかけるも、やはり意思の疎通は叶わない。


 そうして理由が分からず、一人で勝手に唸っていると、奏はバツが悪そうに、


「菖蒲くん、怒ってない?」


「はい? いや、助けてもらったのにどうして怒るんですか」


「その……前は助けなかったのに、今回は助けたから……」


「えっと……」


 つまりは、そこが心配だったからこその態度らしい。


「怒りませんよ。むしろ感謝してますから。助けてくれてありがとうございます。また保健室の世話になるところでした」


「そ、そう……」


 実際、相手はあの隼人だ。加減をする能はなく、相対するのが響であれば、嬉々として攻撃を加えただろう。理性をほっぽった状態であればなおさらだ。

 その原因の少なくない部分を響が担ってしまったという部分は、不覚と言うしかないが。


 感謝する響に、奏はホッと肩の力を抜く。緊張を解いて、不安げな表情を引っ込めていつもの表情。


「よかったぁ……。嫌われちゃったかと思った……」


「いや、嫌いませんよ。大袈裟ですって」


 むしろ、嫌えという方が難しいのだが。

 あからさまに安堵する奏。しかし、次の瞬間にはその表情を改め、「でも――」と呟いた。


「あんなことがあったら、普通に生活する分にも心配よね」


「まあ、はい」


 隼人のことだ。襲撃が昨日でなかったのは休んでいたからであって、来ていれば迷わず響に突っかかっていただろう。今回大丈夫だったからといって、次がないということはない。


「うーん、ずっと私が付いてられれば安心なんだけど……」


 真剣に悩む奏に、響は恐縮して、


「いえ、今度からタロットもすぐに使えるように準備しておきますよ。だから大丈夫です」


「ううん。それだと菖蒲くん、問題起こしたことになっちゃう。序列決定戦に出られなくなるかもしれないわ」

 

「それは……」


 問題を起こせばペナルティ。これは当然だ。

 唇に指を当てて思案する奏。宙をさまよう視線が、いつの間にか肩から離れ浮いていたカーバンクルをとらえた。


「――キュルリンを護衛につけましょうか」


「はい?」


「キュル?」


 二人(一人と一匹)から間の抜けた声が出た。

 揃って発言した張本人をまじまじと見つめる。


「うん、そうね。やっぱりそれがいいわ。キュルリン、可愛いだけじゃなくて強いもの」


「いや、あの先輩……。それはさすがに……」


 響もさすがに尻込みする。

 だが奏は、


「大丈夫。私って魔力も結構強いみたいだから。キュルリンとの距離が離れて増える消費魔力なんて大した問題じゃないもの」


「そういう問題じゃないんですけど」


 魔術師は、実体化していようと霊体化していようと、常に使い魔に魔力を供給している。それは二者の間にある距離に比例して大きくなるのだが、響が問題にしているのはそこではない。

 単純に常識の問題だ。過保護だというのもそうだし、そもそも使い魔を借り受けるような形になってしまうのが響を尻込みさせる。


 しかし奏は特に気にしていない。焦る響を不思議そうに見つめるのみ。さらに使い魔までもが、


「キュルゥ……」


「あれ、キュルリンも賛成?」


 なんと言ったのかまでは分からないが、肯定の意があることだけは理解できた。

 前脚で器用に腕を組むようにして頷くカーバンクルは人間じみていて。


「キュルリン可愛い……」


「それは確かにそうですけどね?」


 愛らしいのは認めるが、今はそこではない。


 だが、この時点ですでに二対一。多数決では勝ち目がなく、相手が師である時点で立場も弱い。

 しかも反対する理由が、気が引けるといった類のもの。説得など望むべくもなかった。


 ――次の日から、響にはキュルリンがボディーガードにつくようになった。

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