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船魂たちの言葉

「ところでさ、スチュワート。」


 満は本題に話を移した。


「うん?何よ?」


「実は聞きたい事があるんだけど。」


 満が真剣な眼差しで聞いてきたために、スチュワートは何事かと思った。


「な、何よ。そんな真剣な表情して。何が聞きたいのよ?答えられる範囲でなら答えてあげるわよ。」


「実はさ・・・今回護衛する船や一緒に護衛任務につく船の船魂たちが、一体どういうことを言っているのか聞きたいんだけど?」


 すると、スチュワートがキョトンとした顔をした。


「え?そんなことを聞きたいの?」


 何を言われるのか身構えていたのに、意外な質問に拍子抜けしてしまったのだ。


「なんだよ?その表情は?」


「だって、すごく真剣な表情で聞いてきたから、もっとすごいことを聞かれるかと思ったじゃない。」


 別の船魂や艦魂の言っている事など、スチュワートにしてみれば普通に話し合う中で知れて、しかも愚痴の様な物である。そんなこと知って何が面白いのだろうと思ったのだ。


「まあお前にとっちゃすごくないかもしれないけど、お前以外の艦魂が見えない俺には気になる事なんだよ。」


「ふーん・・・まあいいわ、じゃあ教えてあげる。」


 スチュワートは一隻一隻がどういうことを話していたか喋り始めた。ちなみに、今回護衛するのはいずれも戦時標準船の中で小型に分類される1000t未満のタンカーだ。俗に海上トラックと呼ばれる船だ。


 戦時標準船とは、戦時など時間、資材、予算などを削減する目的で大量建造可能なように設計を簡略化し、短期間で多数が建造される船のことだ。アメリカのリバティー船は特に有名であるが、日本でもこの種の船はもちろん造られていた。


 ただし、日本の場合アメリカと違って工業技術が大幅に劣っており、しかも熟練工不足も祟って腹痛船といわれる欠落船が随分と多かった。


 故障は日常茶飯事で、中には甲板に水を流したら下の階に雨漏りが起きたという話もある。


 その船を都合4隻守る。この種の船は現在主に産油地から石油を精製所や、貯蓄所に運ぶ近距離輸送を行っていた。まさか1年後には、この船で本土まで直接石油や物資を運ぶ必要が出てくると予想できた人間は、この時点ではいなかった。


「まず、「雛菊丸」の船魂、みんな縮めてヒナって呼んでいるけど、彼女はまずエンジンに欠落があるせいか知らないけど、今日は体調が悪そうだったわ。だから、挨拶以外に会話らしい会話はしてないわね。」


「それは随分と気の毒な船魂だな。」


 満も腹痛船の噂は聞いていたが、今まではあくまで他人事だった。しかし、いざ側にそういう存在があると実感が湧いてくる物だ。


「次に「泉丸」の船魂ね。彼女は凄く明るいキャラね。早く海に出たい出たいって言っていたから。笑顔が良く似合う可愛い娘よ。」


「ふーん。その笑顔が見れないのは残念だな。」


「次に「凪丸」ね。彼女はすごく気が強くて負けず嫌いだったわね。護衛なんかいらないって豪語していたわ。まあ、いざ話し出すと意外にデレデレしていたけど。」


(ツンデレ!?)


 危うく口に出しそうになったその言葉を、満は飲み込んだ。時代が合わないからだ。


「へえ、船魂にもひねくれ者がいるんだ。」


「で、最後の「疾風丸」の船魂は、確か海軍への文句を言っていたわね。」


 海軍という単語に満は反応した。


「文句って?」


「ええとね、確か、海軍は派手な艦隊決戦や海戦のことしか頭にないんだ。私たちを守る気なんて毛頭ないんだ。私たちがいくら沈んでも気にもかけない。私たちが運んだ油で戦っているくせに。て言ってたわねって、どうしたの満?」


 満は表情をしかめて黙り込んでいた。


 彼を始めとして、多くの海軍軍人は艦隊決戦、つまり敵との正面決戦こそ戦争の趨勢を決める物と信じていた。だから、後方での警備任務や船団護衛などというのは女子供の仕事と考える節があった。


 しかし、よくよく考えてみれば、海軍が決戦を行うためには艦隊を動かすための石油や、戦いで消費する砲弾などが絶対に必要である。そしてそれら物資を運ぶのが彼女ら商船の役目であった。彼女らあってこそ、海軍は動けるのだ。


 彼女らが無事に任務を遂行できなければ、自分たち海軍は動く事も戦う事も出来ない。だが、軍人は官尊民卑の塊である。彼女らがいくら沈もうが気にもとめない。それどころか、彼女らを一種の奴隷に様に考えている人間もいた。


 しかし、もし彼女らが沈む事があるということは、味方の防衛権に潜水艦の進入を許してしまっている海軍にこそ責任があるはずである。攻めを負う事はあっても、彼女らを批判することなど出来ないはずだ。


 そして満も今までその考えを持っていたのだから、恥じずにはいられない。


「ふ・・・俺ってバカだな。」


 自嘲気味に出たセリフがこれだった。


「はあ?」


 訳わからなさそうに彼を見るスチュワート。


「今までずっと船団護衛なんて大した仕事じゃないと思ってたけど、そうだよな。彼女らがいるから俺たちが戦えるんだよな。全然気付かなかったぜ。悪い事をしてきたもんだ。明日からの護衛任務、一隻も沈めない思いで、戦わないとな。」


 その言葉に、スチュワートはクスッと笑った。


「なんだよ?」


 真剣に喋ったのに笑われたので、満は不快であった。


「あなた随分変わってるなって思って。普通の軍人だったらそうは思わないんじゃない。まあ、もしかしたらそれがあなたらしさかもね。・・・あ、あと一緒に護衛する「柏丸」の船魂は、よろしくお願いしますだって。期待してくれているみたいよ。」


「そうか・・・その期待にそわなくちゃな。」


 満はしみじみそう思ったのであった。


 今回の商船の名前は一定の基準でつけています。

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