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艦魂

「私が案内してあげようか?」


 満に少女が声を掛ける。満は呆然としながら彼女を見つめていた。


 首周りがセーラーのワンピースを着込み、歳は20歳前後ぐらい、整った顔立ちに長くサラサラな金髪。満が見る所、充分美女と言えるだろう。


 だが、ここは帝国海軍の艦艇の上である。女性が乗っているはずがない。しかも、金髪と言う事は最低でも東洋人ではない。


 満の思考はフル回転で目の前の少女が何者であるか考え始めた。


(どう考えても女、しかも西洋人が帝国海軍の船に乗っているはずはない。けど、俺の目には少女が映っている。とすると・・・)


 彼はある結論に達した。


「幻覚だな。長い飛行機の旅の疲れが出たんだ。早く部屋に帰って寝よう。」


 そう言うと、彼はその少女を無視して廊下を歩き始めた。すると、慌てて少女は彼を追う。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!勝手に私を幻覚にするんじゃないわよ!!」


 しかし、その声に満は耳を傾けない。


「聞こえない。聞こえない。これは幻聴だ。」


「幻聴じゃないって!!」


「聞こえない、聞こえない、聞こえない。」


 ひたすらそう呟く満。そして、業を煮やした少女はある手段に打って出た。


「もう・・・待ちなさいって言ってるでしょ!!」


 次の瞬間、満の頭に凄まじい衝撃が走った。


「痛あ!!!!!」


 一瞬、脳天がかち割れるような気がした。


 衝撃が残る頭を押さえながら、彼は後ろを振り向いた。その視線の先に入ったのは、先ほどの少女がバットを持って立腹している姿だった。


「人の話ぐらいちゃんと聞きなさいよ!」


 幻覚と思っていたが、この痛みは本物であった。さすがにこれは幻覚ではすまされない。


「つう・・・この痛みは本物だ。お前は一体何者だ!?・・まさか間諜か!?」


 間諜とはスパイの事だ。彼にしてみればそれ以外には考えられない。しかし少女は不快そうな表情を変えずに言い返す。


「こんな可愛いスパイがこの艇に進入できるはずないでしょ。」


 可愛いかはともかく、確かにスパイがそう簡単に艦艇の中に進入することが出来るのは考えにくい事だ。


「じゃなんだ!?まさか元はアメリカの駆逐艦だからアメリカ人の自縛霊か!?」


 すると、その少女は呆れたような表情をして溜息をついた。


「女の自縛霊がなんで駆逐艦に住み着くのよ?」


 確かに、アメリカには女の軍人がいるらしいとは聞いているが、その女性たちが前線に出ている話は聞いた事がない。


「じゃあなんなんだ?」


「あなた海軍士官でしょ。艦魂って言葉聞いた事ないの?」


 その単語に、満は聞き覚えがあった。


「艦魂って、船に宿る魂のあれか?」


 古来から船員が語り継ぐ話の中に、船には魂が宿るとされているという物がある。それはあらゆる船に存在し、そしてその姿は軍艦や客船は女性、漁船は男性と言われている。


 軍艦や客船の呼称を彼女と呼ぶのもこれに由来していると言う物もいる。満も兵学校時代にこの話を教官から聞き、様々な軍艦の艦魂がどのような女性化を同級生で話し合ったものだ。


 少女がこのような単語を出してきた。そうなれば、答えは自ずと決まってくる。


(まさか?) 


「まさかお前がこの哨戒艇102号の艦魂とか言うんじゃないよな?」


 そして、少女の答えは案の定と言うべき物だった。


「そうよ。」


(やっぱり。)


 と思いながらも、そう簡単に信じられる筈がなかった。


「そんなこと信じられるかよ。」


 満にとって、あくまで艦魂の話は船員たちの間の迷信だと思っていた。この科学が発達している時代にそんな物があってたまるかと思っていた。


「どうやって潜り込んだかしらないが、取り敢えず侵入者だろ」


 少女はやれやれといった表情になる。


「あなた結構堅物ね。まあ直ぐにわかるわよ」


 丁度そこへ、一人の下士官が通り掛った。


「おや少尉、こんな所で何をしているんですか?」


「いや、こいつと話をしてたんだ」


 しかし、その言葉にその下士官はキョトンとした顔をした。


「こいつって、そこには誰もおりませんが」


「え!?」


「少尉、少しお疲れなんじゃないですか?早く部屋でお休みになった方が良いですよ」


 そう言って下士官は言ってしまった。


「ね、あんた以外には私は見えていないわけよ」


 この様な状況に置かれては、満も信じざる得なかった。


「じゃあ、お前は本当にこの艇の艦魂?」


「そう。ようやく信じてもらえたわね」


 少女は苦笑いしながら言った。一方の満は、驚きの表情となった。


「本当に存在していたんだ」


「さ、部屋に帰りたいんでしょ。案内するわ」


 そして少女は数分で彼を部屋の前まで案内した。途中数人の人間とすれ違ったが、誰一人彼女には気付かなかった。


「はい。ここよ」


 部屋のプレートを見ると、確かにそこは満の部屋だった。最初は半信半疑だったが、今や目の前の少女に対して疑問ばかりが湧いてくる。


「それじゃあまた」


 部屋の前から立ち去ろうとした少女の腕を満はつかんだ。


「ちょっと待て!!」


「何よ!?」


「聞きたい事がある。あとで部屋に入ってくれないか?」


 少女は少し考え込んだ。そして。


「いいわよ」


 月一回とか言っておきながら、意外と反響があったので、速いペースで更新することにしました。ほかの小説は遅れますがよろしくお願いします。

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