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戦争の結末

 昭和20年7月28日。この日は帝国海軍にとって悪夢の1日となった。3月19日につづく大規模な米軍による空襲が呉軍港と、近海に在泊する艦艇に対して行われたのである。その結果は悲惨以外の何ものでもなかった。


 既に帝国海軍の主力艦艇は燃料も無く、最低限の乗員を残して海上砲台になっていた。それでも戦艦「榛名」、「伊勢」、「日向」、空母「天城」、「葛城」などそれなりの数の艦艇が残されていた。そして米軍にはそれら艦艇を黙って見過ごすほど慣用ではなかった。


 この日機動部隊から来襲した航空機によって、これら艦艇のほとんどが目標となった。もちろん、攻撃される艦艇側も残った乗員の手によって対空戦闘が行われ、主砲、高角砲、機銃、噴進砲など全ての武器を空に向かって撃った。


 この熾烈な対空砲火によって、米軍機にも損害は出た。しかし、すでに本土決戦に備えて戦闘機隊が出撃することはなく、前回のように味方戦闘機が来てくれることは無かった。上空掩護も無く、動けない状況にある軍艦に米軍の攻撃を防ぐ手立てはもはやなかったのだ。


 米軍機は艦艇めがけて機銃、ロケット弾、爆弾を次々と撃ちこんでいった。そしてそれらが撃ちこまれるたびに艦艇からの対空砲火は弱まり、火災が発生し、艦体が傷つけられていった。


 傷ついた艦艇は乗員がいないために浸水を防ぐ事も出来ず、次々と沈んでいった。幸いなことに瀬戸内海はかつて日本軍が攻撃した真珠湾同様水深が浅いために、艦全てが水没するという事は無く、殆どの艦艇は大破着底するか、横転するかした。


 こうした状態であれば、クレーン船などを用いさえすれば引き上げ復旧させる事ができる。しかし、既に日本には引き上げるだけの労力も、艦艇を修理する資材も、そして時間の余裕もなかった。


 この空襲によって在泊艦艇のことごとくが撃沈破された。そんな中で、日本最古参の空母である「鳳翔」と、哨戒艇102号は無傷であった。


 だが、そうした残された艦艇の運命も間もなく決しようとしていた。


 8月6日。その日も哨戒艇102号航海長の長野中尉は艦尾甲板で軍艦旗掲揚を行う朝礼を、他の主だった乗員達とともに行っていた。


 軍艦旗が掲揚されてしばらくした8時15分、突然広島の方向が明るくなった。そして数秒後にはズドーン!!という凄まじい轟音が鳴り響いてきた。


「うお!」


「なんだ!!」


 乗員たちは突然の事に驚いた。全員が音と光がした方向、広島のある方向に目を向けると、それまで快晴だった青空に、不気味なキノコ雲が立ち上っていた。


「あれは広島の方角だぞ!!」


「空襲か!?事故か!?」


 乗員達が口々に言い始めたのを、艦長の福井少佐が抑える。


「待て!憶測で物を言うものではないぞ!!とにかく全員別命あるまで通常どおりの仕事をしろ!!」


 この一言で、乗員達は冷静さを取り戻し、それぞれの持ち場へと戻っていった。


 その後、夕方になってポツポツと情報が入ってきた。


「広島が空襲されたらしい。」


「市内は壊滅したと聞いたぞ。」


「陸戦隊が救援のために出動した。」


 情報の多くは憶測の範囲を出ていなかったために、長野を含めて乗員の多くには何がおきているのか良くわからなかった。わかることは、広島に何か起きたらしいということだけであった。


 翌日、ようやく朝礼で福井艦長の口から真実が話された。


「諸君、鎮守府司令から連絡が入った。昨日の朝広島市内に米軍の新型爆弾が投下され、広島は壊滅した。」


 その言葉に、一人の士官が質問した。


「壊滅とはどういうことでしょうか?」


「文字通りの壊滅だ。情報に寄れば市中心部は火災と爆風で焼け野原となり、市内に展開していた陸軍部隊もそのほとんどが全滅したらしい。現在呉から派遣された陸戦隊と宇品の陸軍船舶部隊が救援活動を行っているが、負傷者は数万規模であると思われ、もしかしたら我々も救援活動に参加するかもしれない。だから諸君らはその時に備えておいてくれ。」


 福井少佐の話に、聞いていた乗員達は呆然としてしまった。


「新型爆弾とは何でしょうか?」


 別の乗員が手を上げた。


「俺にもわからん。ただ聞いたところでは、たった一発で街が吹き飛んだらしい。」


 朝礼はそこで終わったが、乗員の同様は激しかった。街を吹き飛ばせる爆弾をアメリカが持ったと言うことは、もはや日本にはどうしようもないということを全員がわかっていたからだ。


「満?」


 甲板をとぼとぼと歩いていた満に、スチュワートが声を掛けてきた。


「ああ、スチュワート。」


「艦長の言っていた話、本当かしら?」


 彼女にも先ほどの話はやはり衝撃だったらしい。


「多分ね。艦長が嘘を言う理由なんて全く無いんだからね。」


「・・・戦争、一体どうなるのかしら?」


 彼女が言いにくそうに言ってきた。日本ではその質問はタブーだからである。例え答えられても、日本の勝利以外の答えを言えるはずがない。


 だが、満にはそんな虚構の答えを言うだけの気力はもはやなかった。


「戦争はもう終わりだ。本土決戦なんかもう出来ない。米軍が新型爆弾を10発本土に落とせばそれで終わりさ・・・いくら頭の固いお偉いさんでもそれくらいわかるはずだ。恐らく、日本はもうすぐ負ける。」


 彼はそう断言した。

 

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