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哨戒艇102号

 ええと、この話は艦魂ものです。黒鉄大和先生に触発されて書きました。ただ他の作品との兼ね合いもあるので、更新は月1,2回となります。


 なお当作品は、大日本帝国海軍に存在した鹵獲駆逐艦改造哨戒艇102号という艇の存在を下敷きにした完全なフィクションです。10年以上前に書いた作品なので粗も多いのですが、史実をもとにした読み物として楽しんでいただければ幸いです(2018年7月追記)

 江田島にある海軍兵学校を卒業したばかりの新米少尉、長野満がその艦に乗り込む事になったのは昭和18年6月のことであった。


 彼は卒業後しばらく内地で地上勤務を行っていたが、激化する連合国との戦争と、それに伴う人員の損耗は新米士官でも遊ばせている余裕はなかった。


 2月のガダルカナル島撤退や、4月の山本五十六連合艦隊司令長官の戦死と言う様に、戦局はますます厳しくなり、まもなく学徒動員も行われようとしている時期だった。そして彼にも、前線に出るよう辞令が下った。


「海軍少尉長野満 6月18日付を持って哨戒艇102号乗り組みを命ず」


 辞令に書かれていたその艦名を見て、彼は首を捻った。


「102号・・・・ずいぶん番号が大きいな」


 彼の知る限り、哨戒艇の番号は38号等のように2ケタ台の艇ばかりであった。それなのに、いきなり100以上の番号に飛んでいる。


 仲間や上官に聞いても、そんな船知らないという答えしか返ってこなかった。彼の心の中に、段々と乗る艇に対する不安が高まっていった。もちろん、不安だから乗れませんなどというのは、厳格な縦社会の軍の中で通用するはずが無い。


 不安はあったが、軍人として命令には従わなければいけない。


 命令書によると、その艇は今、日本が占領している旧蘭領東インドのスラバヤにいるとのこと。艇はスラバヤを拠点に活動する予定なので、彼は現地に赴いて着任することとなった。そのため、彼は直ちにスラバヤに向かった。


 時間が無いので、船ではなく飛行機での移動となった。急な駆け込みではあったが、なんとか岩国の飛行場から南方へ向かう輸送機を捕まえて出発した。ただし直通便はなく、最初は那覇までである。そこから次は台湾へ。さらにフィリピンとその後数回飛行機を乗り継ぎ、彼がスラバヤについたのは、配属ギリギリの6月18日だった。


 現地に到着するやいなや、彼は車を拾い飛行場から急いで軍港へ向かった。


 スラバヤ軍港に着くと、彼は早速乗艦する哨戒艇へと向かう。


 この時期、主戦場は遥かかなたの南太平洋と北太平洋であった。そのため、スラバヤ港に大型艦艇の姿は無い。つい2年前まで、オランダ艦隊の巡洋艦や駆逐艦が停泊していた港には、今は旭日旗をはためかせた日本海軍の小艦艇ばかりが停泊している。そのせいで、どれがお目当ての哨戒艇102号か全くわからない。


「参ったな」


 仕方がないので、彼は近くにいた兵を捕まえて、102号の所在地を聞くことにした。


「すまない。哨戒艇102号はどの船かな?」


 すると、兵士は指差した。


「102号ですか?あれです。あそこに泊まっているやつですよ」


 兵士が指差す先に、駆逐艦ほどの大きさの艦が一隻桟橋に停泊していた。


「ありがとう」


 彼は兵に対し礼を言うと。その艦に向かって歩き始めた。しかし、近づくに連れて、その哨戒艇がおかしな艇であるのに気付いた。


「こいつは一体?」


 大きさは駆逐艦ほどであるが、それは別にいい。日本海軍の哨戒艇は通常旧式駆逐艦の流用であるからだ。彼が驚いたのはシルエットである。


 艦の概観には、自ずとその建造した国の特徴が出てくる。大層な外観を持つアメリカの籠マスト。優美な日本のパゴダマスト。要塞のような艦橋のドイツ艦などがある。


 しかし、目の前の艦は彼が今まで見てきたどの日本艦艇とも違うシルエットであった。大型の1本を含めた3本の煙突、中央部が高くなっている独特の船体のライン。どれをとっても日本艦離れしている。ただ、どこかで見たような気がするのも事実だった。


 艇に対する不安がますます増す中、彼は艇に乗り込んだ。乗り込むと、早速着任の挨拶である。


 水兵によって艦橋に案内され、そこで幹部と対面した。幸い、この時は艦長以下全ての幹部が艦橋に揃っていた。


「申告!帝国海軍少尉長野満。本日付で哨戒艇102号配属となります。よろしくお願いします」


 すると、少佐の階級章をつけた40代ぐらいの士官が敬礼し返す。


「ご苦労!!私が艇長の福井武夫少佐だ。ようこそ哨戒艇102号に」


 その後、他の幹部達と挨拶が交わす。それが終わると、彼は福井艦長に疑問をぶつけた。


「ところで艇長。この船は一体何者でありますか?哨戒艇102号など聞いたことありませんが。それに、艦影も日本の物でない気がしますが?」


 すると、福井少佐は笑いながら答える。


「そりゃそうだ。この艦はおととい工廠から引き渡されたばかりなのだから。そして、この艦が日本艦らしくなくて当たり前だ。この艦はアメリカ製だ。厳密には元アメリカ海軍駆逐艦「スチュワート」だ」


 その答えに、長野は驚く。


「え!?では捕獲艦なのですか?この艇は?」


「そうだ。元は米アジア艦隊所属の平甲板型駆逐艦でな、去年ジャワ沖海戦で損傷し、ここで修理を受けていたが結局修理が間に合わず、破壊の上放置された。そして我が軍がここスラバヤを占領した際、ドッグの中で横倒しになっていた所を捕獲した。で、ついこの間まで修理と改装を行っていたのだ」


 その説明を受けて、今までの疑問が氷解していく気がした。


 平甲板型駆逐艦とは、第一次大戦中米国が実に256隻という大量建造をした4本煙突が特徴の駆逐艦である。そのほとんどは竣工してすぐに大戦が終了したために、五大湖でモスボール保存されていた。そのため、建造から30年近く経った今でも多くの艦が残っている。第二次大戦が始まり、英国に50隻近くを譲渡したにも関わらず、100隻近い数が未だ米国で運用されている。


 福井少佐は説明を続けた。


「ただしな、そのまま使っては敵味方から米国艦艇と間違われてしまうのでな、識別の意味を含めて、改装で煙突は第一煙突と第二煙突を結合させている。また、武装もアメリカ時代の物は破壊されて使えなくなっていたので、こちらで調達可能な物に切り替えている」


(102号は主砲を竣工時はオランダ製の高射砲を搭載し、その後日本製の8cm高角砲に積み替えている)


「まあそう言うふねだ。旧式の分捕り品で悪いが、任務に励んでくれたまえ。確か君の専門は航海術だったな、なら取り敢えず、君には当分航海士見習いをやってもらおう」


「は、謹んで命令を拝受します」


 長野は敬礼した。こうして、着任の挨拶は終了した。


「こちらです少尉」


 任務は明日からと言うことで、拝島という一等兵に案内され彼は士官室へと向かった。通常兵はハンモック。下士官は3,4人で一部屋であるが、士官は1,2人で一部屋を割り当てられる。


 彼は幸運にも一人部屋だった。部屋に荷物を置き、上着を脱ぐと早速ベッドに横たわる。


「疲れた」


 飛行機による長旅であったので相当疲れていた。仕事は明日からで良いと言われたので、とりあえず今日はしっかり休んでおこうと思っていた。


 彼はそのまま眠りに就いた。


「少尉。長野少尉」


 誰かに声を掛けられていた。目を開けると、先ほど自分を部屋まで案内してくれた拝島一等兵の顔があった。


「夕食の時間ですよ」


「ああ、すまない。もうそんな時間か。すぐに行く」


 急いで上着を着て、部屋の外へと出る。


 扉を開け、彼は廊下へと出たが、そこで彼の目に信じられない物が飛び込んできた。廊下の突き当たりに、金髪でワンピース姿の少女が見えたのだ。


 ごしごしと目をこすってみる。それを見て、拝島一等兵が声を掛けてきた。


「少尉、どうしました?」


「いや、そこ・・・・」


 正直に言おうとしたが、言ったところで信じてもらえないと思った。帝国海軍の艦艇内に西洋人の少女が乗っているはずが無い。あまりに馬鹿げている。言ったところで狂人扱いされるのが落ちだ。


「いや、なんでもない」


 結局、この時は幻覚だと自分に言い聞かせた。


 そして夕食後、彼は空いた時間を使って艦内旅行を行っていた。艦内旅行とは、軍艦内を見て回る事だ。


 駆逐艦は全長が120m程しかない。しかし、その中はさすがにメカだけあって色々とごちゃごちゃしている。慣れないと迷路だ。そして、あいにくと軍艦乗艦経験が殆どない彼は迷子となった。


「やっちまった」


 今どこにいるのか全くわからない。


「しょうがない。取り敢えず甲板に出てみるか」


 上へ行くラッタルを伝っていけば絶対に最上甲板に出られる筈である。彼がそう考え、歩き出した時であった。


「私が案内してあげようか?」


 その声に、長野の体は硬直した。なぜなら、声が明らかに済んだ高い声だったからだ。すなわち、女の声である。女が海軍の艦艇に乗っているなどあり得ない。


 彼は恐る恐る顔を声のしたほうへと向けた。すると、そこには先ほど幻覚と思った少女が笑いながら立っていた。


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