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義堂極彩見聞録 「直せ」
近頃、街の医者に不可思議な者が訪ねてくるそうだ。
日が落ちて、戸に鍵を締めようとすると現れるらしい。
「直してくれ。直してくれ」と、なにか丸い大きな物が包んである風呂敷を引っさげて、言うらしい。
みな気味悪がって「うちでは治せん、よそへ行け」という。
そうすると素直に頭を下げて去っていく。大事そうに風呂敷を抱えて。
――風呂敷の中身はいったいなんだ
見送る医者の胸中はそればかりだった。
いったいあの男は何を直せというのか?
あるとき、好奇心に負けた医者が「その包みの中はなんだ?」と尋ねた。
男はにたあと笑って、包みを解いてみせた。
風呂敷の中には、苦悶の表情を浮かべる女の首が収められていたそうな。
義堂極彩見聞録より、「直せ」でした。
語り部は私、白浜浮世がお送りしました。
それでは、さようなら。