第一章 世界は残虐非道な魔王によって支配されているという伝説
私の名はアルベルト。魔王宮の皆からはアルト、という愛称で呼ばれている、誠に光栄ながら誠実に魔王様のお世話をさせていただいている者だ。
このお仕事は、魔王宮付属魔王宮補助院第八部でも最高位の名誉を与えられた者のみが務める事ができる、最重要任務であって......
「アルト、何馬鹿みたいにカッコつけてんのよ」
「はぁ~、ちょっと邪魔すんなよ魔王さまよぉ~」
「はあっ!?あんたがいつも馬鹿みたいな事やってるから、わたしも変な人間だって思われちゃうんでしょ!もう一回最初からやり直せよ自己紹介!」
ったく、いちいち細かい事でうるさいんだよなウチの魔王さまは。
まあいい。俺だってこんな真面目キャラはお断りだ。
俺の名はアルンベルトゥラウントィランベラス。魔王宮の皆からはアルト、と名前が馬鹿みたいに長いので略されている、週5で魔王様の暇潰し(お世話)に付き合って差し上げている者だ。
このお仕事は、ハローワークで「テキトーに紹介してください、給料良けりゃなんでもいいんで」って言ったら与えられた仕事である。ちなみに時給1200円。
「大分雑くなったなオイ!」
「しゃーないじゃん、事実なんだし、嘘を吐くのはよくないんだぜ、レイリー」
ちなみに、こちらの若干14歳の巨乳女子中学生が我らが魔王様、レイリーである。ていうか、なんでこんなちっちゃい未成年が魔王やってんの?って話になるが、そこは世襲だから仕方がない。
「レイリー、ていうか何やってんの?また学校サボり?」
「な、何よ!魔王が学校サボっちゃダメなの?」
「ダメだって魔王さん、この前も言ったろ、保護者には子供を勉学に勤しませる義務があるんだから、学校行かないと先代魔王のおっさんが困るんだよって」
「き、聞いたけど......、そうだけど......」
まあ早い話、レイリーは不登校なのである。
勿論、魔王だから中学校に通わなくて良い、なんてふざけたルールはない。
これについてはお母様とおっさんも困っているようで、彼女の不登校を治すのが、今の俺の最重要任務なのだ。
任務完了の暁にはボーナスが出るので頑張らなくてはならない。
「ていうか、また新しいゲーム機買ったのか?この前新しいの買ったばっかじゃなかったっけ」
「ああ、これね」
俺がテーブルの上に置かれた箱を指差して言うと、少女は先週発売になった忍拳堂の3DEATHを取り出して、
「もう、予約するために朝から並んだんだのよ?ここまでの道のりは長かったわ......」
「......」
「ど、どうしたのよアルト?」
「もしかして、学校休んで並びに行きやがったのか?」
ビクゥッ!!しまったー!!な表情をするレイリー。
ったく、このアホ魔王は......。
「残念ながら没収となりまーす」
「ぎゃあああああ、止めてアルト!さもなくば窃盗罪で訴えるわよ!」
「黙れ、盗っても使わなきゃ窃盗罪にならなかったりするんだぞ」
ぎゃあぎゃあと女の子にあるまじき奇声を上げる魔王さま。
ったく、そんなんだから学校で仲間はずれにされるんだろうが。
ていうか......、
「レイリー、おまえお小遣い大丈夫なのか?この前もなんだっけ......、そうそうPLAY STATION POISONOUSとか言うの買ってなかったか?」
「うっ......」
まさかコイツ......!
俺はダッシュで部屋の奥に移動し、おっさんの下着が入っている棚の引き出しを開け、ていうか引っ張りだして、その奥にあるはずの物を探す。
しかし案の定。
「おまえ、おっさんのヘソクリ取ったな?」
「な、なによ!ヘソクリなんて置いてる方が悪いんでしょ!大体、娘の部屋の棚の引き出しに自分の下着を収納しているあのセクハラ野郎はどうなのよ!!」
「あーあー、確かにおっさん(先代魔王)の性癖は異常だとは思うけど、ていうか何で結婚できたの?ていうか何で今まで捕まってないの?ってレベルではあるんだけどな」
「ほーら、否定できないじゃないの。悪いのはお父様なの!この世の悪い事は大体お父様のせいなのよっ!」
「いちおう先代魔王だからね、あのおっさんは」
本当に、世の中は変わってしまった。数年前までは魔王が全てを征服し、管理下に置いていたというのに。
全てはあのおっさんが悪いのだ。
あのおっさんのせいで、専制君主制は終わってしまった!
「まあ、そんな事はどうでもいい。今はおまえの話だレイリー」
「何よぉ、わたしには払えないわよっ!」
「いや別にいいぞ、おっさんのヘソクリなんかじゃんじゃん使っちゃって!」
「ええっ、じゃあなんで怒ってるのよ......」
「決まってるだろ!俺に半額寄こせ!!」
と、俺がレイリーに運命共同体になるのを申し込んだ時だった。
バッコォォォォォォォォォン!!
と、部屋のドアが開け放たれた。
そこにいたのは。
「お、お母様!ど、どうなさいましたか」
「いえ、少々不穏な会話を小耳に挟んだモノで。何かありましたか?」
眼鏡を掛けて何故かいつもスーツを着ている、いかにもエリートです!!って感じのこの方こそが、レイリーのお母様であり、先代魔王の妻を務める勇士である。
あの変態のおっさんと結婚するとはどういう神経をしているんだ、なんて周りからはボヤかれているが、魔王家としては跡取りをつくってくれた感謝をしなければならない存在である。
まあ、過去に色々あったとか、なかったとか。
ともかく、何が言いたいかというとだ!
この人めっちゃ怖い!!
怠惰な生活をして獄務サボってた閻魔様の噂を聴いて、マジで地獄で閻魔様に泣くまで怒鳴り散らした、なんて逸話すらあるレベルだ。
もうどっちが先代魔王かわからないくらいである。
「もし、もしもの話ですが、」
「は、はい!」
「もし他人の貯金を使うなどという愚行をすれば......どうなるかわかっていますわね?」
「は、はい!誰かの大事なお貯金を無断で使うなど言語道断です!!そんなヤツ死ねばいいんです!!」
「よろしい......」
言うと、先代魔王は部屋から出て行った。
......。
「や、やっぱり怖いなあの人!!」
「アルト、あなた運命共同体って言ったわよね......」
「え、その話って有効化されてんの?」
こ、コイツ俺を巻き込みやがった!!
このままではまるで源頼朝に追われる義経のような逃亡生活が始まってしまう!!
ったく、この物語は逃亡劇とかそんな真面目腐ったもんじゃないんだからな!!
「ていうか、レイリー、毎回のようにあやふやにすんの止めろ」
「へっ......何が?」
「へ、じゃねえよ。俺はあの魔王クラスの怪物からおまえの不登校治せって言われてんだよ!!もし治らなかった暁にはどうなることか......。死ぬかもしれないこっちの身にもなってくれ」
よっぽどお母様が効いたのか、レイリーは少し考えるような表情をし、
「わかったわ。とりあえず明日は学校行ってあげる」
「ありがとうございます!!」
あれ、なんで俺が礼言ってんだ?
まあいいか。
「っと、そろそろ時間だ。明日はちゃんと行けよ、学校」
「わかってるわよ......」
「マジで行ってよ!?俺の命懸かってんだから!」
「わかってるって言ってんでしょ、うるさいわね!」
念のために釘を刺しておいてから、部屋を出るのだった。
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えーと、おっさんの部屋はどこだっけな......。
今日は珍しくあのおっさんに呼び出されているのだが、あの怪物(お母様)がおっさんの部屋を事あるごとに地下へ地下へと移しているので、場所がわかったもんじゃないのだ。一応ここは魔王宮。迷えばそのまま飢え死ぬくらいの広さはあるのだ。
「ったくー、マジでどこまで潜っちゃったんだよ、あのおっさん」
後でさっきの事について慰謝料を払ってもらおう、などと考えていた時である。
「よぉ、随分と久しぶりだな......アルト」
こ、この声はっ!!
「ふっ......おまえこそ久しぶりだな.....大天使ウリエル!!」
魔王宮にいてはならないはずの存在が、そこにいた。