表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロワとカラス城の魔女  作者: thruu
研修生お断り
12/35

12.

 私が泣き終わるまで、魔女は何も言わなかった。きっと、呆れているのだろう。


 自分の気持ちを全部さらけ出すと、思い残す事はもうなかった。後悔はとんでもない量で襲いくるけれど、今更どうしようもないのだ。


 カラス城の前で火事をおこした事も、魔法使いになりたいのは人を呪う為だという事も。


「私、帰ります」


 鼻声でやっとそれだけ言うと立ち上がる。


「今でも、その思いは変わらないわけ?」


 魔女は突然にそう聞く。私は自分の心を探ってみる。今でも、仕返しをしてやりたいのか。


「正直、分かりません。でも、魔法を覚えることが怖いです」


 それは、誰かの命を奪う事のできるものだと知っているから。


「魔法を覚えたら、私、誰かを傷つけるんじゃないかって」


 今の私にとって、一番信用できないのは自分自身だった。無意識のうちに、考え方が変わってしまったら?命を命と思えなくなったら?


 投げかけても投げかけても、言葉は心の闇に落ちて行くだけだった。


 いつからあったのかソファーの近くには小さなテーブルがあり、そこにはランプが置いてあった。オレンジ色の暖かい光がぼんやりと一定の距離を照らしている。


 魔女は私の手を取ると、オレンジ色の光が届く場所まで何歩か移動した。私が少し困惑していると、魔女の手にはタオルがあった。


 光に照らされたタオルは、ほんのりオレンジ色。魔女はタオルで私の真っ黒な手を拭いた。


 暖かくて、どこかから花の香りがして心が緩む。けれど、私の手の汚れはどうせ落ちないのだ。昨日宿屋で、手の皮が剥けるほど洗ったけれど落ちはしなかったもの。


 魔女が片方の手を拭き終わり、もう片方の手を拭き始めた。見ると汚れは綺麗になくなっていた。驚いて声を出す時には、両手とも綺麗に汚れが落ちていた。


「魔法?」


 まるで、初めて魔法を見たような気がした。今まで授業で何度となく見せられてきたのに。不思議な気持ちで自分の両手を見入る。


「さあね」


 魔女はタオルをたたむと、石の床を響かせながら歩いていく。


「魔法というのはね、人が作り出す希望そのものよ。荷物、奥の部屋に運びなさい」


 感情が見えない魔女の言葉に驚いた。最後の言葉は聞き間違いだろうか。


 いや、確かに言ったはずだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ