ゲーム説明と顔合わせ
仁視点
さて、三時になってから早々に俺はドアを開けて、大広間らしき場所に向かって進んだ。どうやらここに集められたのは俺を含めて10人らしい。このゲームは人数がなるべく多い方が盛り上がるはずなのだが、今回は少な目なんだろうかと思うほど少なかった。まぁ初めから多すぎても面白くないのだろう。運営側も考えてるなぁ…………と感じた。
このゲームの話し合いに使われるのであろう円卓には老若男女、様々な人が座っていた。そして、円卓の上にモニターがあり、そこからさっき人狼ゲームを説明していたボーカロイドっぽい声が聞こえた。さっきは音声だけだったが、今回は顔が大きく移っている。彼女は黒い髪をメロンのような黄緑でメビウスの輪のようになっている楽譜がいくつもあるという柄のシュシュでポニーテールにしていて、瞳の色は透明にも感じる銀色の顔だった。
『全員揃ったところで、一応自己紹介しておきましょう。私、進行役と説明役を勤めさせていただく終音フィナと申します~。どもども~。』
明らかにこのゲームには合いそうではない明るい声でフィナはそう言った。
『え~、あなた方には~、これからゲームをして貰いたいと思いま~す!!イェーイ!!』
かなりやかましい。正直言ってさっさと説明してくれよと叫びたくなる。
『まず、ここに集められたのは、様々な事情がある人達ですね!!だからこうやって私情も込めちゃって思いっきり楽しんで貰いたいのですよ~。賞金もありますしね!!』
すると、サラリーマンらしい男が叫んでいた。それなりに若く、20代後半~30前半あたりだろうか。左手の薬指には結婚指輪と思われる指輪がつけてあった。
「賞金とかいらないから早く家に帰らせろ!!こんな茶番に付き合っている暇は無いんだ!!早くしないと女房と子供が心配するじゃないか!!大体なんだったんだあの黒服の男達は!!」
どうやら彼は自分から来たわけではないらしい。連れてこられた…………。いや、流石にあのサイトをクリックする奴らはそれほど多くないだろう。恐らく別のルートも用意されているはずだ。
『あ、嫌われ者の人ですね!そんなに早く帰りたいなら黙って説明を聞いておいてくださいよぉ~。ほら私ってお喋りだから度々文句言われると話脱線しちゃうから!!だから静かにしていてください。そうしないと周りの人に殴られて差し歯抜けますよ。』
「な、なんで俺が差し歯をしていると知ってるんだ?」
『いんや~食事の事もありますし色々とカルテとかの情報は入手させてもらっていま~す。もっとも、ぱっと見ぐらいですけどね。』
どうやら運営側には姿を多少偽っている事はバレていそうだと思う。しかし、それはあまり関係のないことだ。俺は負ける気は無い。
「とゆーか速くゲームの説明をしなさいよ!!賞金速く欲しいのよ!!そして、あの女からアタシの旦那を取り戻すのよ!!!!」
このオバサンは茶色に染められた髪で、正直言って会社に一人はいそうな後輩イビリのお局様のような雰囲気を出している。こんな人とは将来関わりたくない。掲示板で言われるキチママと同類っぽいからだ。絶対に他の参加者の賞金を恐喝しそうな雰囲気だ。
『ったく…………そんなに説明聞きたいなら静かにしてくださいよぉ………。そこまで叫ばれると鼓膜破れてボーカロイドと司会としての業務が出来なくなっちゃいますよぉ……』
とりあえず度々中断される説明にうんざりしてきた。一人目はまだ仕方ない。訳も分からず連れてこられたのだから。しかし、さっきの奴は完全に私欲の発言だ。どうせなら別の事を話してくれというか、あの司会の言うとおり俺の鼓膜まで痛むので静かにして貰いたいほどだ。
『はぁ…………とりあえず、このゲームの名前は人狼人鬼と言ってバトルロイヤルだけど団体戦でもある推理ゲームですね。じゃあ世界観をまずは話しましょうか。これがあった方がちょっとは危機感持ってもらえるかもしれませんしね。』
そう言って映し出されたのは紙芝居だった。いや、懐かしいな…………最後に見たのは何年前だろう。
『あなた方のいるのはとある温泉が有名な村で、旅行やら観光やらで来ていたのです。あ、人がいたり大きな旅館がある設定なのでそこら辺は想像に任せますね………。で、その村の近くには人狼の里という場所がありました。里の人狼は草食の個体が多かったのですが、肉食の人狼は里から出て、人間の集まる館へ旅行客としてやってくるのです。』
ここまでなら普通の人狼ゲームだ。この後にどんなアレンジが加わるのだろうか?俺はかなり気になった。
『その旅館には、不思議なことに人形が意志を持つこともあり、昔閉じこめられていた鬼までいました。鬼はようやく封印を解いて、人を喰らおうと人の姿に化けました。しかし、人形などの対策として前々から秘密裏に呼ばれていた陰陽師もいます。この中で生き残るのは誰になるのか、という話になります。まぁ、大体これは後付けなのであまり関係ないですね。それじゃあルールについて説明しまーす。』
ようやくルールについての説明が始まるのか………他の奴らが騒がなければもう少し早かったんだけどな………。
『まぁ世界観と部屋でしてあげた説明で大体予想は付くだろうけど、一応説明しておくよ。このゲームは大まかにいうと三つのチームに分かれている。人間と人狼と人鬼の風にね。そして、その三チームによって勝利というか、ゲームの終了条件が変わってくるわけですよ。』
人狼の他に人鬼というまた別の意味を持つ役が増えるのか………と、俺は考えていた。人狼ゲームの場合、基本的に人狼は殺す側、人間側は追いつめる側だと思う。そのために誰を守るか、誰を殺すか…………団体戦であり、個人戦でもあるという理由はここから来ていると思う。しかし、中には絶対分かってない奴がいるよな………と思う。このゲームに参加するはずの無いような印象の小学生と、金金五月蠅いあのオバサンは、あまり理解していなさそうだ。他の奴らはそこそこからかなり深く考えていると思われる。
『役の説明の前にやっちゃうから疑問点出てくるかもしれませんけど後から理解できますからね~。それじゃあ発表でーす!!』
そして、画面に映っていたフィナの顔が後ろに行くと思うと今度はフィナの全身が映った。さっきまではカメラに顔を貼り付けていたが、今はカメラから離れたという構図の入れ替わりである。フィナは中のカッターは普通に白で、ブレザーの色は灰色でスカートは黒と白のチェックという服装だった。ちなみに足の方は水色と黒の縞ニーソで靴は女子高生らしい革靴だった。それを見てニートとオタクとデブを組み合わせたような男が「マリアたんにも着せたい衣装ですなwww」と笑っていた。脂汗を拭かないところを見ていると汚いと感じてしまう。まぁ直接触れ合う訳ではないから気にしないことにしたけれども、嫌悪の対象にはなる。なるべく協力関係を結ばないような役に回りたいものだ。
『とりあえず、今回のゲームには、村人二人、狩人一人、占い師一人、霊術師一人、陰陽師一人、狼人形二人、人狼一人、人鬼一人の計十人でのゲームとなっております。なお、このゲームでの役はこのゲームの説明が終了した後、自室に戻って貰うとそこに役のイラストが書かれたカードを置いております。それを見て今回の役を自覚し、夕食時に探りあっちゃってくださいねー。ちなみに、カードを紛失しても役の変更や失格にはなりません。』
人鬼とさっき出てきた陰陽師と狼人形の役の説明は集中して聞いておかなければいけなさそうだ。それに、今回のゲームには色々な事が掛かっているからなぁ………。俺はただスリルを求めてやって来ただけなんだけど。
『まずは投票以外には特に力もない、無力で怯えることが多い村人!!この役は特になんの特殊能力も無いことが多いですね。まぁ、このゲームには職業変更として村人の中に一人だけ探偵にジョブチェンジできる人を入れています。探偵にジョブチェンジする方法は簡単です!部屋にテンガロンハットを置いておきます。その中にジョブチェンジのための機械が入っておりますので、慌てて探さないでくださいよ~。勝利条件は人狼と人鬼を全て殺害する。敗北条件は処刑されるか人狼か人鬼に殺害されるの二つですね。』
「え~っと、ジョブチェンジは狩人なんかにもあるのか?」
いかにも実家は農家ですという肌黒い男がフィナに質問していた。フィナは少し困った顔をしてから頷いた。
『え~っと、私はあなた達に二足の草鞋を履かせるわけにはいきません。なので、村人のみがジョブチェンジできる仕様になっております。』
つまり、村人には村人なりに何かしらの武器を持つものもいるわけだ。俺としては別に必要ないと感じてしまうが、それでもこのゲームには「命」を賭ける。それを思えば武器は多い方が良いだろう。しかし、俺はそんな武器を与える運営側の意図が分からなかった。多分、それ相応のリスクもあるのだろう。
『じゃあ、探偵についても説明しましょうか………。探偵は人狼ゲームでは珍しい完全に型破りな役です。探偵は追放者を選ぶ投票の前に名指しで誰かを選択する事ができます。そして、その選んだ人が人狼または人鬼だったとき、即追放する事ができます。しかし間違ってしまうと探偵が人殺しをしかけたという理由で探偵が追放されて投票タイムも終了します。推理力がかなり高ければ良いですけど、間違えるとその名指しした人が確実に人間であるという情報しか出てきませんからね………。ハイリスクハイリターンな役が探偵です』
つまり、自分の意見を強引にごり押しできる役に変化できるという村人のアレンジか………。俺としては使えなさそうな単純な奴とかには渡って欲しくないと考えてしまう。人数が多いときにはならない方が良いだろうし。俺はそう考えながら他の役職に耳を澄ませた。………が、ここでもまた他の奴らは叫ぶ。進行の邪魔だが仕方ないのだろか、金目当てに来た奴は絶対に叫ぶよなぁ………。
「そんな事よりも賞金!!賞金はいくらになるよのよ!!役によって変わるならアタシは高い奴になりたいわ!!」
オバサンが金切り声でキーキー叫んだ。猿かあんたは?と言いたいところだが下手に刺激しない方がいいので放っておく。勿論許されるのならばすぐにでも殴りに行くのだけれど。
「五月蠅いぞ!!静かにしろ!!俺は速く家に帰りたいんだ!!おとなしく話を聞いておけ!!」
オバサンとサラリーマンが口喧嘩になりその喧嘩に入っていないメンバーは耳を塞いでいた。オバサンのヒステリーになった人が出すようなキンキン声とサラリーマンの出すただただ威圧を求めようとした結果出ているような怒鳴り声は耳が痛くなる。それにまだ役の説明が全部終わっていないのにも関わらず口喧嘩はヒートアップしている。
「なによ!!アタシは賞金目当てで来てるのよ!!それでなんでアタシが払うのか分からない慰謝料とか払って運命の人と幸せに暮らすのよ!!その邪魔はしないで欲しいのよ!!」
「俺だって心配してるであろう女房と子供の元に帰りたいんだ!!余計な事を言わずに静かにしてくれないか!!進行が一向に進まないじゃないか!」
サラリーマンの言うことも尤もだがそれ以前に静かにして欲しい。俺は速く帰りたいわけでも賞金が欲しいわけでもない。とりあえずゲームを速く初めて貰いたい。その一心だ。
「と・に・か・く・さっさと賞金について言いなさいよこのアバズレ女ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
オバサンはこちらの耳が黒板を引っかいたときの十倍酷い声を上げた。周りの人達も耳を塞いでいる。段々と吐き気がしてくるような声を出せるオバサンはある意味優秀かもしれないが今はいらないことだ。そして、そんないらないことをしたそのオバサンにフィナは笑顔ではない静かな笑い顔をしながら言うのだ。俺は関係ないしサラリーマンは帰りたがっているし………。
『……………あの~、アナタ分かってます?こちとら進行を速くするためにはどんな手段でもやろうと思えばできるんですよ?アナタを殺すことだって可能です。もっとも今から新しい参加者を連れてくるのは面倒なので殺しはしませんけど、周りの迷惑も考えてくださいね。今後守れなかったら賞金どころか邪魔だからって理由で吊されますよ?アナタには声を出したいという希望にお答えして殺す時は悲鳴が出るような殺しかたにするのもこちら次第なんですよ?立場をわきまえてください。それと私はまだ処女です。売女のように罵らないでくださいよ。あ~もう他の八人も進行のグダグダ感にイライラしてますけど原因アナタだって気付いてます?』
フィナの顔にイラツキマークが四つ浮かんでいた。あのオバサンがここに来るまでにどんな事があったのかは知らないが、ここでは全員立場は同じのゲームの参加者だ。経緯とかホントどうでもいいほどのゲームが始まるのにシラケさせないで欲しい。それが分かったのかオバサンは一応静かになった。まぁ、俺としては嬉しいことだが。さっきから耳鳴りが酷い。もうあの声は聞きたくないと考えてしまう。まぁ誰だって何回も聞きたい声じゃないだろう。
『じゃ、仕切り直して次に狩人の説明でも………』
「ちょっと!!アタシの質問に答えて無いじゃない!!賞金はどうなのよ!!賞金は!!」
…………反省してねぇ………あの野郎。周りはじっくり聞く気満々なんだけどな…………。急かしているつもりなのだろうが正直進行には本当に邪魔だ。その思いが通じたのか、あのオバサンの頭に盥がヒットした。それはもう、パッカーンという良い音を響かせた。木製なのであまり血も流れていない。そしてオバサンは気を失っている。
『うっわ、マスターの言ってたとおりホントこれ付けておいて正解でしたね………。クレーマーにはこれを使えって…………まぁ、運が良かったですね……。マスターがもしこれをギロチンとかにしていたら賞金なんて夢のまた夢のまま死んじゃいますからね。』
とりあえずオバサンは気絶したまま動かなかったが、サラリーマンの言っていた黒服だと思われるスーツを着た男が部屋に持って行っていた。お姫様だっこという優しいものではなく、首根っこを低く持って引きずるように運んでいた。これにはフィナの苛立ちからの指示もあるのかもしれない。まぁ、邪魔者はいなくなったためにスムーズに進むだろう………………他に騒ぐ奴がいなければいいんだけど。
『狩人は大体は元の人狼ゲームと同じような感じですね~。一日に一回、誰かを護衛して人狼と人鬼から守る事ができます。しかし、人狼ゲームと違って護衛をしているときに襲われかけても不在のために失敗扱いになります。でもでもそれだと絶対に死ななくなりますから、そうならないように、三日に一回は自室で待機しなければならないという誓約がつけられています。死ぬ確率は低いですが、人間チームにとってかなり重要な役になりますね……なんせ人狼から守ってもらえる役ですから。』
全部の役にとって友好関係を築くのにメリットが大きいのはこの狩人であるのは誰だって承知しているはずだ。少なくとも狩人の行動は知っておいた方が良い。
『狩人は人狼と人鬼を追い払うために猟銃を構え、人影が見えたときにパーンと大きな音を鳴らし、人狼と人鬼を怯ませます。そして追い払うという世界観もありますが、誰が襲ってきたかは分かりません。勝利条件は人狼と人鬼の殺害、敗北条件は人狼か人鬼に殺害される、誓約を破る………ですね。誓約を破って過労死で死ぬのはかなり恥ずかしいことなので気をつけてくださいよ~。』
そして、次にの役の説明になる。しかしここまでに30分は優に掛かっているので座りっぱなしで尻が痛くなってきた。
「少し立っても良いか?座りっぱなしだと少し痛むんだ。」
『あ、いいですよ~。むしろ立っていてもオッケーです!!まぁあのクソババのせいで進行が大分遅れているのでこのままだと別会場の司会の騒音ノイちゃんに迷惑かけてしまいますよ~。まぁ全部人のせいにするので問題ナッシング!!ってわけで次の役の説明しますね~。あ、今は人間チームの説明ですね~。私も参加してみたいですけどフェアじゃありませんし~。』
別会場ということはここのゲーム以外にも別の場所で同じゲームをやっているやつがいるのかと感じた。まぁ、あのサイトだけならばこの人数でも普通かもしれないが、金目当て、嫌われ者と呼ばれた者を合わせればかなりの人数になるはずだ。ここはいわゆる予選会場なのかもしれない。進行はあのオバサンのせいでグダグダと進んでいるけど。
『え~、次に説明するのはこれまた重要な役、占い師です!!これも人狼ゲーム時代と変わりありませんけどね………ほとんど。』
「確か占い師は人狼かそうでないかを知ることができたんだよな?ここはルール覚えたんだけど、人鬼とか入ってるから変わるのか?それとも狩人のように誓約とかあるのか?」
肉体は仕事により鍛えたような俺と同じぐらいの年の男がそう言った。まぁ、役に関する質問ならむしろどんどんやってもらっても構わない。少なくともオバサンのような金切り声で言わないなら聞き取りやすい。
『誓約は無いですよ。まぁ、占い師は人狼しか見分けられないですけど。占い師は占うとその人が黒か白かを判定できる。対象が殺されていた場合も占いの結果は出ます。まぁ、人狼と人形が黒判定、それ以外は白判定ってわけです。簡単に言うと占い師は人鬼を見分けることはできないわけなんです。だから人鬼は自力で見分けないといけないし、黒判定も信用しきって良いかは微妙なんですね。でも大切にしなければならない役の一人ですね~。』
「占いのタイミングはどこなんだ?」
俺が質問すると、フィナは軽~く答えてくれた。
『占い師の占いは、選択するのは夜で結果は朝に出る。それと、同じ人を続けて占ったからという理由で役職まで分かるという事は無いからいろんな人を占うべきだね。後、占い師の勝利条件と敗北条件は村人と同じだね。』
人間側はとにかく自分が吊されることの無いようにするのが普通なのだという雰囲気だ。まぁ、どちらにしろ死ななければ勝てるのに変わりは無いのだから、俺は次の役の説明が始まるのを待つ事にする。しかし、人鬼を見分ける方法が無いのは少し難しい………しかし人鬼もそれなりのリスクを負っているのだろう。それが無ければ人鬼は吊されない限り死なないだろう。
『次の役である霊術師はかなりアレンジがありますね………。とりあえず名前から分かるように霊術師は死者の役を知ることができます。しかし、それだけだと面白くないのでアレンジさせて貰いました。』
正直一番やりにくいと思うアレンジなのだが、これでどう変わるのかは気になるところだ。霊術師は一般的には重要視されにくい、しかし後から段々と推理に必要になる。死者の役が分かればそれだけ生き残っている奴らの役を絞り込める。人狼と人鬼という二つの殺害をする役がいる中でもいるだろう。
『まぁ、一日に人狼と人鬼が殺害に成功したとき、最低でも死者は三人となります。しかし、その三人の職業を全て知ることはできませんよね?なので、今回の霊術師は二つの行動パターンを設定して貰いました。一つ目は前日に死んだメンバーの内一人の役職を判明させる。二つ目は全員調べられるが、人間かそれ以外かを判定します。使い方は人それぞれですね。勝利条件と敗北条件は村人と同じです。』
すると小学生が無邪気な質問で返してきた。ここにいる理由は知らないが殺した伯父の娘と仲の良かった奴もあのぐらいの年だったたし、知的な要素も持っているとは思えない。そんな感じの小学生はこう言ったのだ。
「霊術師って死んだ人を蘇らせることはできないの?」
『………………あの~、霊術師は死者と会話するような人のことを言います。実際にこのゲームではそれぞれの命が掛かっているので生き返ることはありません。ゲームバランスも崩れますし、この先タイムマシンのような過去に戻る道具が出来たとしても死者をそのまま生き返らすような道具を作ることは不可能ですよ。どんな儀式をしても生き返ったと思われる物は基本的にその人の形をした別の何かです。何度も言いますがこのゲームのバランスは崩すことはできません。それに占い師に似たようなものなんですよ。このゲームの中の霊術師というものは。まぁ、これも重要な役なので』
人を生き返らせる事ができるとしても、誰もが喜ぶわけではないと俺は思う。自分の殺した家族もどきには別に情も無いし、生き返らせる価値も無い。家族が恋しいと感じる日も無く、むしろ最悪だと感じている俺にとってその技術は必要ないな…………。
『それにこの世の中で人口が増え続ける事態を作っちゃ駄目になりますよ。最近世界人口が増えすぎていたりもするので……。地球は何回か人間の技術で面積を広くしたりしていますけど世界人口は今80億……………昔ならこれが限界だと言われた人口です。死者を蘇らす技術の研究すら最近は無くなりましたからね。あ、そろそろ残りの役についても説明しなければいけませんね…………。』
そしてフィナは切り替えたようにクルリと回ってからピースを決めた。二次元のアイドルとしてかなり様になっている笑顔だった。まぁ、シリアスな話の後にしたので空気は読めていないのかもしれないが。
『次の役は陰陽師です。これは人狼ゲームでは無かった役の一つですね。まぁ、当たり前なんですが……。この役は人鬼を殺すのにかなり重要な役だということです。まぁ、この陰陽師も人を生き返らせる事は出来ません。かの有名な安倍晴明レベルの人なら出来るでしょうけど、今回は鬼を殺すことができるレベルですね。ちなみに陰陽師の本職は占いの筈なのにこの陰陽師、全く持って占い関連ができません。さて、陰陽師の能力はというと、鬼殺しですね。夜に鬼に襲われると、鬼を結界により殺害します。まぁ、返り討ちにするだけなんですけど。ただし、人狼に襲われると当たり前ですが死にます。なので安心しないように!!』
「え~と、つまり、陰陽師は人狼がいなくなれば大体無敵って事?」
同い年ぐらいの女子高生が手を挙げてフィナに質問した。まぁ、気になる所だろう。考えてみると人狼が死んだ後には人鬼に襲われても死なないし、あらぬ疑いをかけられて処刑されなければ大体の勝ちは決まるはずだ。
『まぁ、そんな感じですね。勝利条件は人狼と人鬼の殺害、人鬼と人間の数が同じになったときに生存しているで敗北条件は人狼に殺害される、処刑される、人狼と人間の数が同じになるですからね………。』
「じゃあ人狼、人鬼、陰陽師の三人が処刑後に残っていたらどうなるんだ?」
と、俺と年が同じくらいの男が言った。確かに人狼と人鬼、陰陽師(人間)の数が同じになっている。だが、これは恐らくもう一度夜が経過するだけだろう。人鬼が人狼を殺してしまえば陰陽師の勝ち、人狼が陰陽師を殺せばまだ勝利条件は聞いていないが人鬼の勝ち、人鬼が陰陽師を間違って攻撃して死亡してしまった場合、陰陽師を人狼が襲って人狼の勝ちという、三人での後出しじゃんけんみたいな関係になっている。まぁ、そうなる前に勝負は着くだろうと思うが……。
『もう一回夜が経過しますよ………。この三つの役は三竦みの関係ですからね………あいこでしょ!!と同じようになるんですよ。』
「そうか………すまん、俺の思考単純だからな………」
しょんぼりした顔になった同年代の男はそのまま座った。このゲームは正直騙しあいをやるために複雑に考える思考も必要だ。俺もかなり回りくどい方法で人を殺したことがあるからなぁ………。ブレーキオイルを抜くだけとか……。むしろ、あれで事故起こして死ぬ家族が哀れだなぁと感じてしまう。しかし、事故の相手には可哀想な事をした。また免許取り立ての純粋な少年が事故のトラウマで車に乗るのが怖くなってしまったらしい。そのために稼げなくなったという給料は慰謝料として両親の貯金を全て差し出した。趣味の釣りにも行きにくくしてしまったのだからと差し出したら相手は苦笑いながらも受け取っていた。ちなみに、両親の老後の蓄えとしての通帳だったためかそれなりの額だった。その貯金できる蓄えをもう一人の子の為に使えよ………と思ったのはその通帳を見た時だけだ。正直家を売らないといけないほど預金がなければ困るのは俺だったのだから、むしろ唯一親に感謝した瞬間かもしれなかった。いや、本当に。
『さて、次に人間チームなのか人外チームなのか微妙に分かりづらい狼人形の説明になりますね~。ある時は人間の数合わせ、またあるときは人狼のフリをする悪者!!いや~、完璧に矛盾した役ですよ~。』
フィナがそう言うとサラリーマンが挙手していた。
「それだけを聞くと人狼ゲームの狼憑きや狂人に似ている気もするのだが…………。」
確かに、サラリーマンの男の言うとおり、名前が違うだけで狼人形の効力は予測できる。しかし、何か追加要素があるのだろうと推測される。人形というのにも何か意味があるのだろう。元々狼憑きという人狼ゲームの役は人狼のフリをして人狼を守る。つまり、人狼に変わって吊されるのだ。しかし、そうなってしまうとこの人狼人鬼ではなりたくない役ナンバーワンに輝いてしまうだろう。恐らくこのゲームには敗者復活戦が存在しないのだ。通常の人狼ならなかなか面白い役になるのだろうが、命のかかったゲームならば、間違いなく死んでしまう。それ運営側はどのように変えているのだろうか?
『あ、勿論類似している要素は多いですね。でも、吊しでは死にませんよ。この役は吊されたら勝ち………そんな役になっていますから。まぁ、吊される前に人狼か人鬼に襲われれば死にますけどね。それにいきなりCOするのもオススメできませんし。なんたってCOする余裕がある=人狼が生き残っているという証明ですからね。殺さないといけないのは人狼と人鬼なのでむしろ選択肢から外されてパクリと死んじゃうと思いますから。』
まぁ、自分が生き残りたいから意図的に吊してと言われても、誰もが嫌だと答えるだろう。相手一人を生き残らせて死亡させる危険を増やしてはいけないのだから。つまり、狼人形は人狼か人鬼であるという雰囲気を漂わせておいて意図的に吊されるという方法を使う。そのために偽のCOをして占い師のフリをした人狼などの怪しい役にならなければいけないのだ。
「しかし、吊されても死なないのはどのような世界観からなのでしょうね…………?少し気になってしまいます。」
そう少し豪勢な服を着た老婦人が静かに言った。まぁ、世界観としてはどうなのだろうか?陰陽師とかはしっかりとしていたのだけども、これだけはイメージしづらい。まぁ、そもそも俺達はどんな人形なのかというイメージも知らないわけだけど。
『まぁ、人形としては人間と同じぐらいの大きさで魂が込められています。吊しが行われた時には魂が一時期離れ、終わった後にまた魂が入るわけです。人形なので首を吊されても肉体は壊れない。そのために死なないのです。しかし、人狼と人鬼に襲われると人形の体は魂ごと壊されてしまうので死んでしまうのです。分かっていただけましたか?』
「ありがとう。よく分かりましたわ。」
老婦人はにこやかにフィナに向かって微笑んだ。俺にも祖母がいたら孫の俺にあんな風に笑いかけてもらえたのだろうかと少しだけ、ほんの少しだけ寂しく思う。俺の祖父母は両家とも死亡していて、そこの遺産関係でまたも面倒事があり、正直ここの家のやつらは皆金に五月蠅く、遺産に関しては介護とか我関せずの奴が一番多い取り分にしようとしたりと大変だったらしい。まぁ両親はあまりもらわなくとも生活に不自由はしないからと貰わなかったらしいが、その家庭の俺だけがめちゃくちゃ不自由している事を気にしない分あまり両親は良心を持っていないのでは?と感じた。………別にダジャレでさっきの言葉を言ったわけではない。それは言える。
『狼人形の勝利条件は吊される、人狼と人鬼を全て殺害する、敗北条件は人狼か人鬼に殺される、ですね。まぁ、恐怖感は持っていてくださいよ~。夜に死んじゃったらもう確実に敗北ですから。まぁ吊しの時に優越感があるのはいいんですけどね~』
そして、いよいよこのゲームに必要不可欠な役の説明が来た。しかしまだ一日の流れの時間が分かっていないために少しでも早く進んで欲しいと感じた。オバサンやサラリーマンの喧嘩やらで進行が大幅に遅れているのだ。本当なら今頃はすでに部屋に帰っている気がする。
『人狼と人鬼は二つとも夜に人を一人選択して誰かを殺すことの出来る役です。狩人に守られている人を襲うと狩人に銃で威嚇される感じで攻撃が出来ません。銃の音で驚いたために人間の姿に戻るまでに時間が掛かるようになり襲うことを諦めるためです。流石に鬼や狼の姿で集まったら真っ先に吊されますからね。』
フィナがそう言ってから画面内でクルクルと回った。その後に鬼の面を被り狼の影絵が登場した。なにか説明するのだろう。
『人鬼は人狼を襲って殺すことができますが、逆に人狼は人鬼を襲う対象に選んでも殺すことはできません。』
狼の影絵の映った壁を破壊した後、鬼の面を突然現れた障子の裏側に投げ、狼のような犬耳をつけあと後に障子の向こうにある事で鬼の面の影ができていて、それにわざとらしく怯えるフィナの姿があった。
『人を襲う順番は人鬼、人狼という並びです。さてここで質問はありますか~。まぁ、あると思いますけど~。』
すると、いかにも日本人では無いような顔立ちの男が初めて喋った。ホント、この人人形じゃ無いのかと思うぐらい喋ってなかったので不安になっていた。
「人鬼が人狼を襲って殺したら、人狼が、襲うはずの人は生存するんですか?」
『まぁそんな感じですかね………。そんな事もありますね。他に人鬼と人狼が同じ人を狙っていても人狼は殺害をする事ができないということです。つまり、人狼は人鬼が誰かを襲った後に誰を襲うかを決定できるわけではありません。』
そうでなければ人外チームがかなりの優勢になってしまう。もし人狼が後から選ぶことになれば、人間はほんの数日でいなくなってしまうだろう。そうなれば運営側の望むゲームはできない。だから、こんなルールを設定しているのだ。
『人鬼の勝利条件は、人鬼と他の役全部の人数が同じになったときに陰陽師が相手のメンバーにいないことで敗北条件は陰陽師を攻撃してしまう、吊される。人狼の勝利条件は人狼と他の役全部の人数が同じになったとき、その中に人鬼がいないことで敗北条件は人鬼に襲われる、吊されるの二つです。これで役の説明は終了となります。』
役について、チームによって協力しあうという事は可能だが、別チーム同士では無理だという事が分かる。確か誰もがこう考えるだろう。人鬼になったときに人狼と協力して陰陽師を殺しておこうと。しかし、人狼は最終的には自分も死んでしまうために拒否するだろう。つまり、あの三竦みの役は自分から相手に接触せずに相手を利用する事をしなければならない。………やるとしたらキツいな………。
『さて、次に一日の流れについてですね~。まぁ、朝から順に説明しまーす。あのクソババのせいで大分遅れてるので息継ぎ無しで行きまーす!!大丈夫、私はボーカロイドだから!!息継ぎは必要ない!!』
そう言って威勢良くフィナは説明し始めた。多分、夜ぐらいになると噛むかむせるだろうが、止めないで置こう。ちなみに俺は東京特許許可局をまともに言えないほど早口言葉は苦手だが、このゲームには関係ないだろう。
『一日目の始まりには前日殺された人の報告がありますそれが朝七時のできゅご………。』
噛んだ。あれだけ自信満々に息継ぎは必要ないとか言っていたフィナは一番最初の説明すらも最後まで言えずに咬んだことでボーカロイドとしてのプライドが傷ついたのか落ち込んだ。まぁ、あれだけ自信たっぷりな顔で言っていてまさかの数分で噛んでしまっているのだ。そりゃあ落ち込むのも分かる。しかし、あまり同情は出来ないが。
『急がば回れ………という言葉が頭の中を通り抜けて行きましひゃよ…………。』
「というかボーカロイドでも舌噛むんだ………。」
『一応私はオリジナルですからね…………。人工知能という学習していく自我を持ったプログラムなわけですから、こんな事もあるのですよ。』
これは恐らく市販用に作られたボーカロイドではないのだろうが、それでもこの機能は微妙に使いにくいだろう。まぁ、面白いとは思うけども。
『とりあえず説明を再会しますね…………。朝七時には全員に起床してもらい、モニターから前日の夜の死亡者を発表します。そして、その後は朝食です。これはトーストとコーヒーのセットか、ご飯と味噌汁のセットの二つから選んで貰います。他にリクエストがあれば言ってください。軽食であればなんでもやれますから。』
「じゃあ肉まんと烏龍茶でも?」
日本人でない、唯一の外国人の彼がフィナに質問していた。まぁ、祖国でそのような朝食なのかは知らないが、落ち着くのだろう。少なくとも和洋だけではあまり少ないかもしれない。
『多分簡単にできるので追加しておきますね~。じゃあ朝食の後は十一時まで自由時間となります。そして、十一時までならば自室にいたり周り情報交換したりできます。有効に使ってくださいね~。そして、十一時からは投票タイム!!吊される人が決まります!!吊された人はこの円卓の間の赤い扉を通ってください。扉が閉まった後に、人形以外は処刑されます。処刑の仕方は人それぞれとなっておりますよ~。』
「あぁ、つまりそれは吊された奴がなんだったかを分かりにくくするためか………。」
その場で本当に縛首台を使ってしまうような事ならば誰が人形かそうでないか分かってしまう。それを避けるためにわざと曖昧な感じの扉をくぐるという事にしているのか……。
『投票後の十二時からの昼食の後、夕食まで自由時間です。そして、夕食の時間は十八時となっております。昼食は弁当のような重箱のメニューがあるのでそれを押してください。そして、夕食が始まるのは十八時です。そして十八時から十九時半までこの円卓の間の緑の扉から食事の間が開きます。食事の間ではバイキング形式です。最後の晩餐になるかもしれないのでしっかりと飲み食いしていてくださいね。リクエストも可能ですので、存分に毎日楽しんでくださいね。』
そしてフィナはゲームについて一番の鍵にもなりそうなルールを言ったのだ。これによりゲームの形が大幅に変化しただろうというルールだった。
『夜八時には人狼と人鬼は当然襲う人を選択するのですが、ここで人間のある選択も行われます。まぁ、狩人は守る人を選ぶと出来なくなりますが、占い師、霊術師、陰陽師、狼人形は村人と同じように選択可能です。』
フィナはかなりもったいぶってこの事を言いたいらしい。なぜか画面内にドラムロールまででてきたのだ。ドラムロールの音が響く。………さすがに、さすがにこれを投票結果の時には使わないよな…………。しかしフィナならばやりそうでムードが壊されそうで正直怖い。そして、ようやくフィナが発表した。
『そ・れ・は!!外出システムです!!このシステムは狩人に選ばれない人でも生き残れるシステムとなっております!!まぁ、外に出るわけですが全神経をすり減らしてでも外で待機するために連続では行えません。』
「それだと外出にメリットが多すぎではないか?」
サラリーマンがもっともな意見を放った。まぁ、当然のことだろう。
『まぁ、そうなんですがね…………。狩人が人狼と人鬼を護衛したときは人を襲うことができません。つまり、護衛のためにいる狩人に自分の正体がバレることを恐れますから。しかし人鬼は狩人に閉じこめられたときに窓から出るのです。その時に外出していた人間は全て殺されます。なる確率は少ないですが、もしなったらと思うとあまり外出しにくいでしょう?』
しかしそれは狩人と手を組むことができればかなり優勢になるという事を改めて物語っている。狩人が休みになる日が分かれば外出が非常に使いやすくなるのだ。なんせフィナの言ったかなりなる確率の低いもしも、が予防できるのだから。
『そして、夜が明けるとまた朝になりま~す。ちなみに夜が明けたとき、人狼と人鬼が絶滅していた場合、その朝の時点でゲームは終了となります。そして勝者は第二ゲームへと進むことが可能となります。』
「第二………ゲーム……?」
小学生が不思議そうにそう呟いた。まぁ、スリルと金以外で連れてこられた奴らには予想外の言葉だったらしい。しかし、俺としてはこれだけの規模で一回だけで終了するのは運営側の性格を考えてもありない。
『それでは、夕食前の十八時の三十分前までにはもう一回こちらに戻ってきてくださいね~。その時に自己紹介はしておいてください。名前ぐらいは分かっていないと投票の時のボタンが誰に対応しているのか分かりづらくなりますからね。じゃあ、またお会いしましょう。』
そして、モニターの電源は切れ、フィナの姿も消えた。
「じゃあ一旦部屋に戻ろうか。」
その場にいる全員が自分の部屋に向かって歩き始めた。早く自分の役が知りたいのだろう。俺は何になっているかなぁ、とそう思いながら部屋に戻るのだった。
すみません…………前回の後書きでは参加者の名前を全て出すとしていましたが、進行の都合上今回はルール説明と一部の人柄ぐらいしか出せませんでした。次回からしばらくは参加者の名前とそれぞれの環境をその参加者本人や他の人物からの視点で書いていきます。………ゲーム開始までまだまだ掛かります。それと、この小説は本格的な謎解きではなく駆け引きをメインに書いているつもりなので誰が何の役かは読者のみなさんにはゲーム開始前から分かっている状態です。
参加者達の自己紹介までに時間がかかりそうですが、もうしばらくお待ちください。