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噂話

 砂漠にある遺跡の最深部には未踏の宝物庫がある。

 曰くがある迷宮には付き物の伝説である。アグニ砂漠の南に位置する太陽神の遺跡も、その例外ではなかった。食料の補給と情報収集を兼ねて立ち寄ったウンディーネと言うオアシスの町でアンジェリナ一行はありがちな噂話を耳にした。アンジェリナは大戦時にウンディーネの町に立ち寄った事もあるが、その時は最深部にはエンシェントドラゴンが居ると噂されていた。

「まあ、大きな迷宮には必ず付いて回る言い伝えですわね」

 町の中心にある市場の片隅の食堂で、マンゴーとパパイヤの果汁と練乳を混ぜた甘い飲み物で喉を潤している和美は、携帯オベリスクストーンを用いて書き込まれた情報を引き出していた。その中には無記名で書き込まれたものも少なからずあるので、真偽のほどは甚だ疑わしいと評さなければならない。

 卓には紅いサボテンの花が生けられた花瓶が置かれ、ステージでは淡い色の紗(薄い絹の事)で編まれた衣を纏った踊り子が悩ましげな腰つきで、演奏に合わせて異国の舞踏を披露している。昼下がりの店内には冒険者の出で立ちをした者が多いが、皆須らく軽装である。この砂漠を重鎧で渡ろうとする者はおらず、日中の暑い間は町で過ごし、日が暮れてから出立するのが定石であった。

 このウンディーネの町はエルドラゴ城とは異なり、帯剣したまま町の中に入る事ができる。アンジェリナ、和美、ケイ、ナオ、ユミの五人とパンダの一匹は各々武具を足元に置いて、好みの飲み物を手に、持ち寄った情報を交換していた。暑さに強いシーマは町の外の見張り櫓の近くでクォーツを持って待機している。先日の宿場町での一件があってから、一行はクォーツを持って人間の密集地に入ることは可能な限り避けている。食堂にグングニルの姿がまだ見えないが、集合時間からは数分が過ぎている。そのうち戻ってくる筈であった。

「ここは金の亡者のフロギーが治める町ですからね。隠された財宝とか、未踏の宝物庫とか、金になりそうな噂が絶えないのではないでしょうか」

 胡散臭そうな話ばかりで、やや辟易した表情でケイが付け加える。フロギーとはラビニーと同じくらいの背丈の蛙の様な姿をした亜人種(ヒューマノイドの事)で、戦闘や魔法の行使には不向きだが、武具の練成と建築業、そして商売に長けた種族だ。数百年前に砂漠を放浪していた一族がこのオアシスを発見して町を築き、当時のエルドラゴ国王から自治権を買い取ったと言われている。フロギーは長い年月をかけて砂漠の環境に適応し、皮膚は乾燥に耐えられるように固い鱗となり、手足の指の水掻きは失われた。

「何にせよ、触らぬ神に……。と言う奴じゃろう。一刻も早く砂漠を抜ける事を提案するぞ」

 市場で購入したらしい孔雀の羽でできた自分の顔より大きな扇で、汗だくの体を扇いでいるパンダが、さも鬱陶しそうに吐き捨てる。毛皮で覆われている体に砂漠の暑さは相当応えるようで、悪態と愚痴ばかりの数日を過ごしている。

「でも、財宝って言うと、相当高位な武器とかが眠ってるんじゃないですかね」

 恍惚とした表情で、ナオがアンジェリナに視線を向ける。見たことがない武器に眼が無いナオは噂話に興味津々である。

「仮に噂が本当で遺跡に財宝があったとしても、手に入れた所で、お主には使えんじゃろう。遺跡に眠っている宝は近接武器と相場が決まっておる。万が一、杖だったとしても、今のお主には使いこなせないじゃろうて」

 ナオの期待をにべも無い言葉であしらって、パンダは溜息を付いた。

「確かに、クォーツを集めると言う目的からすると、遺跡の言い伝えは無視して構わない。しかも、皆其々手にする得物に困っている訳ではない。不確定な噂に踊らされて、敢えて危険を冒すこともあるまい」

 アンジェリナは長として、当然と言うべき結論を出す。手にしているクォーツは五つ。マーサに持ち去られた物を合わせても、所在が知れているのはまだ総数の半分である。早急に残りのクォーツを収集する必要があり、得体の知れない噂話に乗ってやる時間も必要も無かった。

 アンジェリナの言葉にナオが耳を畳んで落ち込んでいると、グングニルが血相を変えて食堂に戻ってきた。

「どうしたのですか、そんなに慌てて」

 この暑さでも顔色も変えず、汗も全くかいていないユミが息を切らしているグングニルに声を掛ける。残りのメンバーも等しく視線を向けて、只ならぬ表情のグングニルを窺った。

「これ、自治府の前で配られていた依頼書です」

 グングニルは握り締めていた羊皮紙を卓に広げた。そこには、遺跡の最深部に辿り着いた物には珍しい宝玉を与える、と記されていた。全員の脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

「この宝玉って、もしかすると……」

 落ち込んでいたナオが再び眼を輝かせて立ち上がる。アンジェリナは無言で頷いてナオに微笑んだ。あからさまなパンダの舌打ちが聞こえたが、依頼の報酬はクォーツである可能性が極めて高いと言えた。千載一遇の好機とも思えるが、クォーツは他のアンデッドを引き寄せる可能性も含んでいる。早急に依頼を達成し、クォーツを携えて町から去る必要性も出てくるかも知れない。

「行ってみる価値が、一気に高くなりましたわね。退屈な砂漠の行軍よりは幾らかマシかも知れませんわ」

 仕方ない、と言う風に苦笑いをして、和美も肩を竦めてみせた。だが、冒険者としての業の深い性から、未踏の宝物庫に辿り着いてみたいという欲求が少なからずあったのは事実だ。

「何かの罠と言う可能性もある。ここは慎重に事に臨むことにしよう。いたずらに戦力を割くのは好まないが、隊を二手に分けて行動する。一組が遺跡に向かい最深部を目指し、もう一組がここに残り自治府の警護と、可能であればクォーツの存在を確認する。それで良いな」

 行動指針を決定する時、無敗のギルドを率いる五郎丸ならどうするであろうと、事有る毎に考えてしまうアンジェリナであるが、自分は逆立ちしても五郎丸のような策士には成れない事も知っていた。長としての自分の非才振りに大いに落胆することもあるが、それでも、仲間に失望されないよう決断しなければならない。

 アンジェリナの一行は全員で八名と少数ではあるが、プラチナランクの冒険者が二人に、龍の守護者が二人。さらに巫女と魔術師も一人ずつ居り、頭数の割には戦力は充実していると言える。その為、隊を二手に分かれる事に対して異論は出なかった。それでも、編成はあらゆる可能性を考慮して行う必要がある。

 プラチナランクの近接戦闘要員であるアンジェリナと和美、龍の守護者のシーマとパンダ、魔術が行使できるナオとユミは其々別の隊への編成が前提とされる。畢竟、残りのケイとグングニルの二人も別の隊になる。そこまでは誰でも思いつくが、どちらを遺跡に、どちらを町の警備に当てるかは更に熟考する必要があるように思われた。

 南中を超えた太陽が西の地平線に沈むまでの数時間で、アンジェリナは難しい決断を下さなければならなかった。

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