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再会

龍の守護者。其は神の遣い。

大地に禍降り掛かりし時、必ず降臨し迷い子たちの導き手とならん。


猛るいかずちにて、神に仇成す魑魅魍魎を打ち砕き、

慈しみ溢るる御心にて、傷ついた人の子を救わん。


敬え。畏怖せよ。

その比類なき力、一度ひとたび目覚めれば何人なんぴとたりとも止める事能わず。

龍の守護者。其は破壊すら齎すもの。


新たな秩序を為し、世界を浄化せしため、今ぞ、来ませり。


                <エルドラゴ叙事詩 龍の章より抜粋>




 大地に縫い付けられたワイバーンに向かって、全長七メートルを超す槍が上空から突き刺さる。人間が振るう剣では全く歯が立たない強靭な鱗を、飛来した長大な槍は易々と寸断した。壮絶な一撃は大地を穿ち、削り取られ飛散した石は辺りの家々に甚大な被害を齎していた。恐るべき破壊力の攻撃を受け、暗褐色の血を撒き散らしてワイバーンの体は細かく痙攣を繰り返し、やがて動かなくなった。


「あの白黒熊。アンジェリナ殿の忠告も聞かずに龍の守護者になって、自分の寿命を縮めてしまいましたわ」

 高台からワイバーンが貫かれる様を見ていた和美は苦々しく呟いた。龍の力は絶大だが、供物として契約者の生命力を要求する。先の大戦で英雄王リチャード卿が力を使用しすぎた為、老化が著しく進む奇病を患ったのはエルドラゴでは有名な話だ。


 ワイバーンは槍の魔力で浄化され、後には二つのクォーツが残された。地響きを立てて、上空から舞い降りた龍の守護者は、眩しいほどの白い鎧を身に付けていた。

「違う。これは……」

 アンジェリナの前に佇立する白亜の巨人は先程のパンダのものでは無かった。アンジェリナが見紛う筈もない。五年前に共にエルドラゴを救った仲間の一人、叙事詩に謡われる英雄が操る守護者だ。


 一人はカイラス。誇り高き、白き龍の勇者。


 五年振りに目にする龍の守護者は光を放ち変身を解いた。人の姿に戻った男は、褐色の肌に黒い瞳、漆黒の巻き髪はうなじの付近で結われている。目鼻立ちは秀麗であるが、どこか愛嬌のある美丈夫であった。

「久しぶりだな。我が麗しの美姫びきよ」

 恭しく片膝を着いてアンジェリナに一礼した男は、紛れもなく救国の英雄の一人、カイラスその人だった。再会に打ち震えている声のカイラスに対して、アンジェリナは拳を固く握り締めていた。


「まさか。カイラス卿」

 高台から駆け下りてきた和美は、そこまで言って絶句してしまった。高台から見るより町の被害は遥かに甚大であり、飛び散った石の破片で命を落としたと思われる町民の死体が視界に入ったからだ。これが英雄と謳われた人間のやる事か、と危うく口に出しそうになった言葉を飲み込んで、和美はアンジェリナに向き直る。

「周辺の警戒と、生存者の救出を行います」

 何やら二人の間に言いようのない雰囲気を感じた和美は、残りの仲間を連れてこの場から離れようと試みた。振り向くと、グングニル、ケイ、ナオが自分の後を追って坂を降って来るのが見えた。また独自の判断で神聖魔法を放ち、ワイバーンを攻撃したユミもアンジェリナの元に戻ってきた。

「これはこれは、見目麗しい女性にょしょうがこれほど集まるとは。百花繚乱とはこの事か。春の麗らかな風のような亜人の魔術師殿。夏の燃えるような情熱を宿した黒髪の姫君。秋の物憂げな儚さを宿すアンジェリナ殿。冬の凍る大地に可憐に咲く花のような龍と人の間に生まれた美女。ああ、非才なる我が身では、あなたたちの美しさを表す言葉を紡ぐ事が出来そうにない」

 カイラスは立ち上がると謳うように語り、大袈裟に両の手を広げて昂ぶる感情を表そうとしたが、その言葉や身振りは、どう贔屓目に見ても売れない三文役者のものだった。


「助けて頂いた事に感謝致します」

 カイラスに負けず劣らずの感情の伴っていない口調で、かろうじでそれだけ口から搾り出すと、アンジェリナは振り向いて怪我人の救助に向かおうとする。

「待てよ。五年振りに会って、言う事はそれだけか」

 立ち去ろうとしたアンジェリナは右の手首をカイラスに掴まれ、力ずくで引き寄せられた。お互いの吐息が感じられるほどに二人の顔が近づく。薄い笑いを浮かべているカイラスに対し、アンジェリナは全く表情を変えずにその瞳を見つめ返した。

「これが、五年経ったあなたの状況判断能力ですか」

 唇を噛み締めてアンジェリナは尚もカイラスを見つめ続けた。

「俺が手を貸さなくても人は死んだだろ。俺は自分が救いたいと思った者が生き延びればそれで良いのさ。それが五年前も今も変わらない、俺の正義だ。そしてまた、美しいものも正義だ。御主たち一行にはその正義がある。五年振りに合えた奇跡に感謝するよ」

 悪びれた様子もなく、好色そうな視線を一行に送りながらカイラスは言い放った。

「残念ですが、私はあなたと再会の喜びを分かち合う気は毛頭無い。恩を売りたいのであれば、私からフィーナ様に報告しておきます」

 掴まれた右手を振りほどき、アンジェリナは背を向けて再び立ち去ろうとする。

「相変わらず鈍い奴め。俺もついて行ってやろうって言ってるのさ」

「安く見られたものだな。あなたの協力など必要ない」

 背中に投げられた言葉に振り向く事無く、アンジェリナは即答した。

「すぐに生存者の救助を行う。一秒たりとも無駄にするな」

 無言で二人のやり取りを見ていた仲間は、アンジェリナの声と同時に動き出した。


「なるほど。それがお前の正義か。五年経っても、甘ちゃんのまま何も変わってないな」

 アンジェリナたち一行の後姿を一人見送りながら、カイラスは呟き小さく笑った。

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