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策謀

 エルドラゴは先の大戦で先代の王を失っている。終戦後正式に戴冠し、女王となったフィーナは王宮騎士団長の将軍ギリアムを婿として迎え、表面上はエルドラゴは王国制を保っている。しかし、若いフィーナと軍属出身のギリアムには財政、外交、内政と言った諸問題に対応できず、実際は元老院がエルドラゴのまつりごとを運営している。

 先代の王の時代は国王直属の諮問機関と言う程度であった元老院は、現在七人から成り、内政、外交、財政、土木、教育、環境、軍事をそれぞれ分担し協議制で国を動かしている。特に軍事の担当は将軍ギリアムの穴を埋めるために大戦後に設けられた職で、軍事大国となったエルドラゴの中での発言権は日に日に大きくなっている。七人の元老院はそれぞれ、王家を守る黒い獅子の意匠を施した鎧を身に着ける事を国内で唯一許されており、その姿から元老院の事を「黒獅子」と呼称する事もある。

 緊急時のギルドへの出撃要請や国庫からのギルドへの支援なども全て元老院が牛耳っており、この七人の影響力が女王フィーナよりも大きいものである事は、誰の眼にも明らかだった。


 

 調査機関「Angel Halo」が宿場の町長マコトから、立ち退きの命令を受けた夜、アンジェリナは同行している冒険者に自室に集まるように指示を出した。機関の構成員であるケイ、ナオ、グングニルと、以前所属していたギルドから出向した和美、そして先程の戦闘で協力してくれたユミ。部屋の主を含めた六人は卓を囲み、ランプの灯が不安定に揺れる様を一様に見守っていた。アンジェリナの口からこれから語られるであろう事の重大性が、全員を無口にしているのは間違いなかった。

「黒獅子が狙われている」

 語りだしたアンジェリナの言葉は具体性を欠いていたが、その場に居た同席者を凍りつかせるには充分な衝撃を持っていた。

「どう言う事ですの。元老院を倒して武力による政権奪取(クーデターの事)を起こそうとでも言うのでしょうか」

 和美が訝しげな声で沈黙を破る。

「大手ギルドが手を組めばエルドラゴ城を制圧する事も難しくないでしょう。城内の正規兵は実戦慣れしていないと聞きます。ですが……」

 ケイは自分の推論では元老院が狙われる理由を説明出来ない事に気が付き、言葉を詰まらせる。

「そう、エルドラゴ城を占拠したところで何もできはしない筈です。残りのギルドの冒険者に城攻めの口実を与えるような物で、とても成功するとは思えません」

 ナオがケイの後を引き継いで結論付ける。

「一つのギルドが武力行使による政権奪取を行えば、国内の軍事力の均衡が崩れる。それによって国力を衰えさせる事が狙いだとすれば、内乱が起こってくれればそれで良いのだ。城で権力を振るう元老院を討ち倒し、フィーナ様を傀儡に奉り上げて新しい政府を作る。エルドラゴの城下町には、さぞ大量の血が流れるだろう」

 冷淡な口調でアンジェリナは言い放つ。

「でも、誰がそんな事を望むのです。国力と軍事力が失われた国など、誰も欲しはしないでしょう。他国に攻め込まれるのが目に見えている」

 若いグングニルが子供でも思いつくような当然の質問をする。

「争乱を起こして、元老院を駆逐する。それに乗じて大きくなりすぎたギルド同士を喰い合わせて共倒れにさせる。残った兵をまとめあげて、新しい秩序を作る。それが奴等の筋書きだ。それを可能にするのが……」

 アンジェリナはそこまで言うと腰の袋から三つの輝く宝玉を取り出し卓の上に置いた。乾いた音を立てて卓上に置かれたそれは、見る者を魅了するような妖しい光を灯していた。

「このクォーツと言う訳ですか。確かに流通しているクォーツでさえ、我々の技術では練成する事のできない武具を造り出す事ができます。この特別なクォーツがあればどんな化物を練成できるか、見当もつきません」

 武具に精通しているナオが緊張の余り、声を震わせて告げる。

「だけど、首謀者は誰ですの。現状エルドラゴの情勢は逼迫していますけど、この国の民や冒険者が再び争乱に巻き込まれて良いと思っている人間が居るとは思えない」

 俄かには信じがたい武力による政権奪取を画策するほどの人間が何処にいるか、和美には見当もつかなかった。

「元老院を倒し、もう一度更なる軍事力を手に入れ国を創りなおそうとしているのは、元老院の七人目の獅子だ」

 アンジェリナの言葉は、その場に居る誰もが予想していなかった人物だった。

「大戦の後に設けられた軍とギルドの統括職だ。これほど国内の軍事を正確に把握できる人物も居るまい。増えすぎた冒険者を内乱で淘汰し、力を持ちすぎたギルドと言うシステムを打破して、クォーツによる練成で最強の武器を生み出し、少数精鋭の軍に与え国内を平定する。志を持たず欲を満たすだけの強さのみを求める冒険者が増えた現在、国を救うより己の野心を優先する者が多数を占めている。最強の武具を餌としてちらつかせ、裏切りや謀反を起こさせて新政府への忠誠を誓わせる事など、難しくない事さ。そこまで、冒険者と軍の倫理観は廃れている」

 アンジェリナの言葉は冷たい空気のように、その場にいる全員の思考凍りつかせた。

「そもそも、七人目の元老院が大戦後に設けられた際、国からの一方的な告知に我等は無関心過ぎたのだ。国王から賜る筈の黒い獅子の鎧。門外不出の練成によって成しえる鎧を、国王なき当時、誰が作れるだろう。無論フィーナ様がお造りになれない事は調査済みだ。だとすれば……」

 アンジェリナは淡々と話を進める。

「まさか、偽造だとでも」

 ナオは信じられないと言う口調でアンジェリナに問いかける。

「闇の練成師であれば、いかなる武具であっても複製が可能と聞く。どこかに元老院を手玉に取り国を転覆させようとしている練成師が居る可能性が高い。七人目の元老院も恐らく踊らされているだけだろう。だが、国の極秘事項である黒獅子の鎧の練成方を盗まれた上に偽造された等と公表はできない。残りの元老院たちもその弱みを握られている。証拠を掴み、練成師を探し討つ。それがこの機関の任務だ」

 語り終えたアンジェリナは深く息を吐き出した。

「そんな。下手をしたら我等は元老院に立て付いた国賊になるって事ですか」

 グングニルは両手を卓に叩きつけて怒鳴った。

「そう。だから行動は隠密に行う必要がある。練成師や元老院の息が掛かった者に気取られる前に決着をつけなければならない」

「だから、星の欠片であるクォーツを探さなければなりません。あれはこの世の理を歪めた輝き。命無き者に命を吹き込み、邪な心を支配する元凶。十二の犠牲者が供物として命を差し出され、各地に転送されました。冒険者と戦わせ実戦の情報を集積するために。回収された情報は解析され、新たな武具を造り出す源となる。クォーツの記録を辿り金獅子の鎧を偽造した練成師を暴き実験の事実の証拠を手に入れなければ、ここに居る全員が国家反逆罪で城門に首を晒すことになります」

 今まで黙っていたユミが落ち着き払った声でクォーツを追う理由を明かした。

「知っていたのか。あなたは」

 アンジェリナの問いかけに、ユミは黙って頷くだけだった。

「負ければ国賊。勝っても我等の功績が讃えられる事はないでしょう。はぐれ者の我等には似合いの仕事ですね」

 ケイは覚悟を決めたように苦笑した。

「最初から伝えれば良かったのだが、私の判断が甘かった。赦してほしい。これから先に進む事を無理強いはしない。誰も敢えて国賊になる道を選びたい訳ではないからな」

 アンジェリナは一同の顔を見渡したが、ここで任務から降りる者は誰も居なかった。

「済まない。皆の命、もう暫く私に預けてくれ」

 長いまばたきの後に発したアンジェリナの言葉に、ユミを除く全員が敬礼して応えた。

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