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9、俺、人ン家で年越しします。


 キッチンから何やら和食っぽい香りが漂ってくる。しかし、先ほど朝食を食べたばかりなので、いったい彼女は何を作っているのだろう?昼ごはんにはまだまだ早い。

 それにしても、年末の特番はどれも変わり映えしなくてつまらないし、彼女は料理に没頭しているし、つまらない。まるで飼い主に相手してもらえない飼い犬のようだ。もう、否定しないよ。

 彼女は鼻歌交じりで楽しそうだ。むぅ。何しようかな・・・。

 足元にとぐろを巻く鎖を暇つぶしにジャランジャラン鳴らしていると、彼女がこちらへやってきた。


「あの・・・すみません、退屈ですよね・・・。これよかったら・・・」


 彼女が差し出したのは数冊の本。だから俺、小説は・・・と思って見てみると、何やらそれは普通の小説とは違っていた。


「なに?これ?」


 形は文庫本のようだが、その表紙には漫画のようなイラストが入っている。


「兄の忘れものなんです。ライトノベルっていって、普通の小説よりは読みやすいと思うんですけど・・・」


 そう言う彼女からそれらを受け取る。全部で4冊。大ぶりの剣を掲げている異世界風の少年が描かれた表紙の本を、試しにパラパラめくってみると、やっぱりほとんど文字だったが、ところどころ挿絵が入っている。「」の会話部分が多いので読みやすそうだ。へぇ、最近はこんなのもあるのか。小説はまったく読まなかったから知らなかった。


「どれがお勧め?」


 彼女に聞くと、


「そうですね・・・今吉野君が持っているのは全部で10巻ある物なんです。でもここには1巻しかないので、面白いんですけど・・・。私としては、一番下の本がお勧めですよ」


 言われて俺はいったん床に置いたそれを持ち上げる。表紙の絵は、雪が降る中で紺色のコートを着た少女が嬉しそうに空に手を伸ばしている。その後ろで黒いコートの少年が岩に腰掛けそれを眺めている・・・というものだ。なかなか綺麗な絵。しかしタイトルは『ゾンビな私と月夜の悪魔』・・・可愛らしい絵の割にゾンビって・・・。


「どんな話?」

「えっとですね・・・。病気で動けない少女の前に、自分は悪魔だと言う少年が現れるんです。その少年が少女に『自分と契約して魔界に来い』って言うんですよ。その自称悪魔の少年にはとある目的があって、その目的の遂行に手を貸してくれたら、自分の体を彼女に譲ると言うんです。彼女は自由に動ける、しかも健康で綺麗な悪魔の体が手に入ると言うことで、契約することを決意します。しかし、魔界に行くにあたって何と彼女はゾンビにされてしまった・・・・っていうお話です。そこから魔界での冒険が始まります。そんなに長い話じゃないので、読みやすいと思いますよ?」


 普段では到底考えられないほどすらすらと長い言葉を話す彼女。あぁ、本当に本が好きなんだなぁ・・・。

 そこまで勧められては断ることもできないし、なんだかちょっと興味が出てきた。よし、読んでみよう。


「ありがとう、読ませてもらうよ」


 そう言って本を開く。彼女は嬉しそうにうなずいてまたキッチンへと戻って行った。

 それから昼までずっと読んでいたのだが、如何せん、俺は本を読み慣れていないので文字を追うのは遅いし、目が疲れ集中力も切れるので休み休み読んでいたらなかなか進まなかった。しかし、彼女の言う通りわりと読みやすい。小難しい小説だったら一瞬で眠くなるのに・・・。ライトノベルってすごいな。

 そうこうして昼ごはんの後も読んで、ついに夕方。ようやく読み終わった。


「終わったぁー」


 机につっぷし、読み終わった本を閉じた。


「お疲れ様です。どうでした?」


 そう言う彼女に感想を言う俺。それを聞いて彼女は満足そうに笑った。


「少し早いですが、晩御飯にしましょうか?」


 時計を見ると6時過ぎ。そう言えは腹が減ってきた。慣れない文字を追ったせいか。


「今日の晩御飯は、オソバなんです」


 そう言う彼女の言葉にいまさらながらに思い出す。


「今日大みそかか!!」


 俺のその様子を見ておかしそうにクスクス笑いながらキッチンに戻る彼女。しばらくして丼を二つ持って戻ってくる。続いておかずも何品か。麺オンリーじゃないところか偉い。ご飯いりますか、という彼女に大丈夫と答え、二人して食べ始める。和やかに会話しつつ食事をしていると、彼女がふいにテレビに手を伸ばした。おや、珍しい。

 どことなく嬉しそうな彼女が回したチャンネルは・・・紅白歌合戦だった。


「年末はやっぱりこれです!」

「ははっ、確かに」


 俺も歌は結構聞く方だし、毎年これは見ている。今年の白組の司会は今流行りのイケメングループだ。彼女もこういうグループ好きなのだろうか?と思いこっそりうかがうと、


「遊螺梨ちゃん、可愛いなぁ・・・」


 と今人気の女性アイドルの名を口にする。今年は彼女が紅組の司会らしい。イケメンには興味ないのかな・・・?


 ふたりで好きなアーティストとか曲について語り合いながら、次々に流れて行く音楽を聴いていた。しかし、dボタンでプログラムを確認すると、これからは演歌やら、応援合戦やらが始まることが分かった。大して興味がなさそうな彼女に今のうちに風呂に入れば?と言うと、なるほど!っと言ってバスタオルと寝間着を抱えていそいでバスルームに駆けて行った。

 その間俺は演歌のボリュームをあげて、なるべく彼女のシャワー音が聞こえないように頑張った。それはもう、頑張った。毎日これなんだよ!頑張ってる俺を誰かほめてほしい!


「・・・吉野君も入りますか?」


 いつの間にか風呂から出てきていた彼女が言った。ボリュームをあげすぎて気がつかなかった。俺は何気なく音量を落としつつ、「じゃ、そうするよ」と言って彼女と入れ替わりにバスルームへ向かう。

 そこに入ると当然ながらまだ熱気が残っていた。湯船に湯は張っていないが、さっきまで同年代の女の子が使っていた風呂を使うのっていいのか?彼女はそういうこと気にしないのか気付いていないのか。でも俺は結構意識してしまうんだな・・・悲しいかな健全なる男子高校生なので。


 薄く煙るバスルームには、たぶんトリートメントだろう、甘い香りが漂っていた。俺はシャンプーしか使わないから知らなかったが、そういえば彼女からはいつもかすかにこの香りがする。うわぁ、ど、どうしよう・・・。

 とりあえず風呂に入ったのだから俺も身体を流さねば。水をぶっかければ邪念も去るだろうと思い、蛇口をひねってわざと冷たい水を出す。いつも通り上だけ服を脱ぎ、汗を流すのだが、どうにもその邪念からくる熱で身体がほてり、一向に熱は冷めないし、何やら冷や汗が次から次に出てくるので全然意味がない。


「はぁ・・・」


 俺はあきらめて蛇口を閉じた。

 彼女から渡された服をしっかり着て、バスタオルを頭に引っかけたままバスルームから出る。ようやく甘い香りから抜け出せたので若干気分が落ち着く。なんだ、さっさと出れば良かった。


「お帰りなさい。なんだか長かったですね?」


 いつもは烏の行水なのに珍しかったのか彼女がそんな事を言う。きょとんとした顔はまるで何もわかっていない。俺はタオルで自然に顔を隠しながら、気付かれていないことに内心安堵し、一方で無防備な彼女にため息をつく。だが、気分を切り替えて


「今、だれが歌ってんの?」

「今は知らない人です・・・」


 そう言ってテレビに視線を戻す彼女。俺も目を向けると、外国人のグループが踊って歌っている。俺も知らないグループだった。プログラムを確認すると、どうやらこれから外国人グルーブが続くみたいだ。俺も彼女も、韓流や英語の歌は興味がないので、少し退屈になるだろう。まぁ、仕方がない。自分の好きな歌手ばっかり出るわけではないのだから。俺は彼女の隣に腰を下ろすとローテーブルに片肘をついてテレビに視線を投げる。だいぶ俺に慣れたようで、彼女は特に怯えることもよけることもしなかった。と言うか、テレビをまっすぐ見つめているので気にしていない。

 特に会話もなくボケっと眺めていると・・・


「!!」


 突然肩に重みが。いや、見るまでもなくそれが何かはわかっている。が、そろりと視線を横にずらす。

 目の前に、彼女のつむじが見えた。


「・・・・・・」


 彼女はさっきまで体育座りで自身の膝に顎を乗っけてテレビを見ていた。しゃべらなくなったなとは思ったけど、まさか寝てるとは。っていうか、なにこのベタな展開は!

 心臓が壊れるんじゃないかと思うほどバクバクいっている上に、彼女の髪から先ほどと同じ甘い香りが香ってきてさらに追い打ちをかける。再び体中がほてる。そしてその反応に対する罪悪感から背中に冷や汗が流れた。


 ふと視線を下げると、彼女の黒猫パーカーの襟首から下に着ている桜色のシャツが見えた。しかし、それは首元が大きく開いていて、彼女の綺麗な鎖骨が逆に生々しく見えてしまう。


 だ、めだ・・・!


 当然寝間着なのでその下に下着などつけているわけはない。いや、かろうじて見えないけれど、ここまで見てしまった俺の想像がもうすでにヤバくて限界だ。止まれ止まれ、俺の妄想!

 死ぬ気でぶっ飛びかけた理性をかき集める。そこでふと目に入ったのは、相変わらず彼女の首にかかっている銀色のチェーン。

 ・・・今なら、取れる。

 そう思ったからか、わずかに危険な思考が収まる。しかし


「あけましておめでとうございますぅ・・・」

「・・・へ?」


 彼女が何かつぶやいた。あけまして?

 時刻はまだ11時。年が明けるまで1時間もある。


「ははっ、あはは・・・まだ早いだろ・・・」


 思わず小声で笑ってしまう。もう完全に邪念はどこかへ行ってしまった。あぁ、もし俺が今いなくなったら、彼女はきっと悲しむだろう。俺はここにいて、明日の朝、彼女の口からもう一度「あけましておめでとうございます」を聞かなければならない。

 俺は彼女を起こさないようにそっと抱きあげると、ベッドに寝かせた。目にかかった前髪を優しく払う。


「おやすみ」


 俺はテレビを消し、手近にあったクッションを引っ張りよせて、カーペットの敷かれた床に横になった。



 

 ネタがなくなって、自分の書いた作品の宣伝してしまいました(汗)

この話に出てくる『ゾンビな私と月夜の悪魔』は、こっそり書いて、こっそりとあるコンテストに送った物です。なんと優しいことに、全員に講評を送ってくれるんですよ!なので、講評が来しだい、治せるところだけ直して、なろうにupしようと思っている物です。(全否定されたらあきらめるかもしれませんが・・・)

 初めてのファンタジーで、しかも初めて書きあげた長編です!興味がある方は期待せずにお待ちください(笑)



 そしてこの話の中に出てきた今流行りのアイドル遊螺梨ユラリちゃん。・・・誰でしょうね。即興で適当に出した名前です。でもなんか名前だけ気に入ったので、この子の話とかそのうちかけたらいいなぁなんて思ったり。


もうすぐ完結です!と言うか、今からすぐにupします。もう少々お付き合いくださいませ。 

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