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7、俺、親睦深めます。


「きゃあぁぁぁぁ!!」

「!?」


 耳元で大音響の悲鳴があがり、俺は跳ね上がった。音から遠ざかろうと後ろ手に両手をつく。見上げると、ベッドの上で壁に張り付く彼女が見えた。まるで2日前の俺みたいだ。


「あ、おはよ・・・」


 いまだに先ほどの悲鳴が耳なりを起こす頭を振って俺は朝の挨拶をする。


「あわわ・・・おは、おはようございます・・・」


 彼女の顔は真っ赤だ。大丈夫だろうか。


「昨日、君、熱出したんだよ。覚えてる?」

「え?熱?」


 彼女は周りを見回し、キッチンの惨状を目にする。ひっくり返った皿とパスタは昨日の昼からそのまんまだ。片付けたかったけれど、それは俺の行動範囲外だったので仕方がない。

 彼女は思い出したのか、ベッドの上で土下座して「ごめんなさいっ」を連発している。顔は赤いが、これだけ元気ならもう熱は下がったのだろう。よかった。

 良かったけれど・・・俺は腰が痛い。結局座ったままベッドに顎だけ乗せて変な体勢で寝てしまったようだ。あ、もしかしてさっきの佐原の悲鳴は俺のせいか?そりゃ目の前で男が寝てたら驚くよなぁ。たとえ同じベッドに入っていなくとも。


 ばつが悪くて頭をかきながら、とりあえずごめんなさいを連発している彼女を止める。土下座状態なので、なんとなく後頭部を押してみる。「むぐっ」といって布団に突っ伏す彼女。あ、なんか楽しい。・・・いや、それよりも重要なことがあるんだ。


「佐原・・・腹減った・・・」


 力なく言う俺。そう、たとえ監禁されて自由を奪われていようとも、高校男児は育ち盛りなのだ。腹が減る。しかももう午前11時を回っている。どうやら夕食だけでなく、朝食も逃したらしい。


「わっ、ごめんなさい!」


 そう言って飛び起きてキッチンへ・・・と思ったら思いっきり転んだ。なぜかその拍子に俺の脚が強く引かれる。「わぁ!?」

 何事かと思ったら彼女はどうやら俺の鎖に引っかかったようだ。やっぱり危ないよな、これ。

 彼女は鼻を押さえながら起きあがり、やはり何事かとこちらを振り返った。その拍子に四つん這いの彼女の襟元から、中が思いっきり見えてしまった。俺は反射的に首をグルンッと回し、遠くへ視線を飛ばす。その様子を不思議そうに見た彼女だったが、すぐにわけを察したのか自身の首元を抑え、さらに四つん這いをやめて座り込んだ。


 うわ・・・見えてしまった。薄いオレンジ色の彼女のブラジ・・・いや、忘れろ!

 あれ?でも他にも何か見えたような・・・。ちらりと彼女の方に視線を戻すと、襟元を抑えて首まで真っ赤になっているそこに、銀色の細いチェーンが見えた。そう言えば会った時からずっとつけているような気がする。俺は無意識におしゃれなネックレスだと思い込んでいたが、良く考えてみれば、おしゃれでつけているのなら、そのペンダントトップが外に出ていないのはおかしい。そして、さっき彼女の服の中が見えた時、俺は見てしまった。銀色のチェーンの先につく物は・・・黒い鍵だった。たぶん、いや絶対、この手錠の。


「・・・・・・」


 もっと早く気がついていれば!!

 しかしそれも後の祭り。立ち上がった彼女はキッチンへ走っていく。さすがに起きているときに首もとに手を突っ込んで奪うのは無理だ。あーあ・・・。

しかし、まぁ、鍵のありかがわかっただけでも良しとしよう。そう思ってキッチンに立つ彼女を見つめる。焦ったように準備をしていく彼女。ちなみにひっくり返ったパスタのかたずけは後回しらしい。ごめん、俺が腹減ったとか言うから。しかも病み上がりなのに。。

 少ししてお皿を二枚持って帰ってきた。いつも通りテーブルに並べて置く。


「お、チャーハンだ。うまそう」


 俺は手を合わせてから、がっついた。もともと彼女の料理はおいしいが、腹が減っている分余計においしい。あぁ、良かった。さすがに監禁されて餓死するとかは嫌だったから。

 今日はきちんと食べている彼女は、やっぱり昨日と違ってにこやかではなく、ちょっとおどおどしている。やっぱりあれは熱のせいだったのか。残念。早く俺に慣れてくれないかな。


 俺がここに監禁されてから今日で3日目(1日目はすでに夜だったけど)。しかし、どうも監禁されてる感がないんだよな。いや、それはいいことなんだけど。


さて、今日は何をしようか。彼女は今日も読書だろうか?でも俺はさすがに一歩も外に出られないのは退屈だ。早く解放してくれないかなぁ・・・。

 そしてなんとなく目をやった棚の上に、トランプが見えた。おぉ、いいものが。


「なぁ、トランプしない?」

「トランプ?」


 食器を洗って戻ってきた彼女に言う。彼女はちょっと考えて、「わかりました」と棚からトランプを取り上げた。別にトランプ使って何かしようとか考えてないって。警戒しすぎ。まったく極端だな。やたらと無防備だったり、警戒したり。なんかするなら昨日意識失ってる時にするって。


「・・・何しますか?」


 おずおずと言う彼女。そうだな・・・。二人でババ抜きしてもいまいちだし、7並べも・・・なんかなぁ。他に二人でも楽しいゲームって・・・。


「あぁ、神経衰弱はどう?」


 すると彼女はうなずいて、箱からカードを出し、ばらまき始めた。


「じゃ、お先にどうぞ?」


 俺がそう言うと、またコクンとうなずいて少し迷うように手を宙でさまよわせた後、2枚引いた。しかし残念、はずれだ。続いて俺の番。

 そんなこんなで一回戦は俺の勝ち。続いて二回戦。・・・はまた俺の勝ち。三回戦、四回戦、五回戦・・・

 やばい、全部俺が勝ってる。いや、彼女が記憶力悪いわけではないと思う。ただ、どれもすごく惜しいのだ。正解のカードのすぐ隣だったりする。そして勝負終了後の俺との差も2,3組ほどだ。本当に惜しい。最初の方は残念そうにしていた彼女だが、だんだん悔しくなってきたのか、もともと無口なのにさらに言葉を発しなくなってきた。これはまずいかな?暇つぶしついでに親睦を深めようとしたんだけど。


 でも、彼女は別に怒っているわけではなく、たぶん負けず嫌いで悔しいのだろう。頬を少し膨らませているところがなんか可愛いので俺もわざと負けたりはしない。

 他のゲームにしようか、と言っても、首を振って神経衰弱がいいと言う。やれやれ、ホントに負けず嫌いだなぁ。一見気が弱そうに見えるのに。意外な一面が見えてちょっと嬉しかった。が、忘れてはいけない、俺は彼女に監禁されているのだ。まぁ、でも。


 勝負がついた。もう何回戦目になるのかは分からない。すでに時刻は六時半だ。いったい何時間やってるんだろ、俺たち。まるで子供だ。しかし、ついに勝利した彼女がものすごくうれしそうに笑っているので、俺もなんか満足だ。・・・もう少し、この監禁生活につきあってあげてもいいかな。なんて、思ってしまったり。





 夕食を終え、彼女がお風呂に入っている間、俺は退屈しのぎにトランプタワーを作っていた。バスルームからは絶えず水音が。いやいや、そんなんで変なこと考えたりしないよ?俺一応紳士なつもりだし。ただ・・・トランプタワーに集中しよう。


 しばらくしてバスルームの扉が開き、彼女が出てきた。もちろん寝間着姿だ。そう言えば、ここに来てから二晩過ぎたが、なんせ一日目は彼女はキッチンで寝たし、二日目は普段着のまま寝かせたし、彼女の寝間着姿は初めて見る。俺は不自然にならないように自然を装って振り返った。けしてやましいことは考えてないけど!


 彼女のことだから、きっと可愛らしいピンク色のパジャマかな・・・なんて思っていたけれど、意外に真っ黒なパーカーだった。下は灰色のゆったりしたシマシマズボン。なぁんだ・・・と気を抜いた時気がついてしまった。


「? どうかしましたか?」


 だいぶ自然に話せるようになってきた彼女が不思議そうに問う。


「あ、いや・・・なんでもない」


 俺はトランプタワーに視線を戻す。・・・やばい。彼女の黒パーカー、猫耳付いてる!


 一見真っ黒で見にくいが、彼女の首の後ろにぶら下がるフードの頭に黒い突起が二つ。そしてよく見るとジッパーには鈴を模した飾りがついている。胸のところには猫足の模様。あげくの果てに・・・

 パーカーの後ろから、ちょろんと伸びる短めのしっぽ。

 なぁ、それ狙ってるだろ!?

 しかし当の本人はきょとんとした顔。俺、この状況でもつだろうか?頭に『婦女暴行』の文字が浮かぶ。監禁と婦女暴行。どちらの方が悪質ですか?罪が重くなりますか?


 ・・・佐原、頼むからフードはかぶらないでくれ。


 そう心の中で念じるのだった。



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