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3、俺、監禁されるそうです。


「はいぃぃ!?」


 度肝を抜かれるとはこのようなときに使うのだろう。俺は驚きすぎて素っ頓狂な声をあげながらのけぞった。こ、告白されてしまった!?

 うわぁ、すごい。初めてだ告白されるのって。でも。

 俺は自身の足に目をやる。

 ・・・拘束されながら言われても全然嬉しくない。

 相手に視線をやると、まだ顔をあげずに、腰を90度に曲げた状態で固まっている。俺、どうすればいいんでしょうか?


「と、とにかく、顔あげようか!そして座って」


 慌ててそう言うと、彼女はまたおとなしく、その場に座った。ドアの前にいる彼女は俺との距離約3メートル。ここからは手が届かない。しかし、自身の胸の前で両手をくんでうつむくこの状態って、俺が彼女を襲ってるみたいじゃないか。はぁ・・・。

 せっかく告白されたが、まったく嬉しくないうえに、おかしな罪悪感がある。惜しいなぁ。これだけかわいい子なら、普通に告白されてたら絶対に受けたのに。何でまたこんなことに・・・。


「あの、さ。気持ちは嬉しいんだけど、実は俺、君のこと知らないんだ。どこかで会ったことあるかな?名前は?」


 しかし、無下に断ることもできず、俺は彼女の方を向く。しかし如何せん、鎖が短いがために、右足は曲がったままベッドの上だ。すると彼女は少し傷ついたようにピクリと体を震わせ、弱弱しい声で言った。


「2年2組の・・・佐原鈴香です・・・」


 隣のクラスかよ!?じゃあ何か?俺は同じ学校の同学年の女子に拉致られたのか?ふ、不覚・・・!しかし、名前を聞いてもやっぱりわからない。隣のクラスなら接点なんてないはずだ。去年同じクラスだったわけでもない。仕方がないので、多少傷つけるかもしれないが、本人に聞くことにする。


「佐原さん・・・。ごめん、君との接点が思い出せない」


 彼女はしゅんとした様子で、しかし、だんだんこの状況に慣れてきたのか、発する言葉が滑らかになってきた。いや、慣れられるのもなんか変な感じがあるけど。


「去年の体育祭前の、合同練習のときに・・・」

「体育祭?」


 うちの学校の体育祭は毎年10月だ。今が年の瀬の12月27日だから、去年の体育祭ということは、ちょうど1年と2か月前と言うことになる。それではさすがに覚えていないのも無理はない。だが、たしか体育祭の練習は学年全体でやるので、彼女と接点があったかもしれないのは納得した。


「その時、私、友達とマスゲームを希望してたんですけど・・・組み体操の方でメンバーが足りなくて、私、仲いい子と分けられて組み体操に入れられて・・・」


 マスゲームとは、色とりどりの旗を振ってメンバー全員で踊るという演技だ。去年の体育祭では、学年の半分がマスゲーム、もう半分が組み体操ということになった。単純に男女で分ければよかったのだが、そこはなぜか今はやりの男女平等がうたわれ、男子でも体力のない者はマスゲームを希望できた。そして組み体操がやりたい!という運動部の女子は身体を張って組み体操をした。そうだ、だんだん当時のことを思い出してきたぞ。

しかし、ぽつぽつと、そしてたどたどしく話す彼女に、俺は言葉をはさまず、それを黙って聞いた。


「私、女子の中でも身長があるから、組み体操にまわされて・・・でも、女子同士で組んでるところはもういっぱいで・・・そしたら、吉野君の班が一人足りないからってそこに」

「あぁ!思い出した!」


 俺は手をポンと打ってそう言った。すると彼女が少しだけ嬉しそうな顔をする。


「私、身長があるから・・・その・・・吉野君よりも。だから当然下だと思ってしゃがんだら・・・」


 彼女はまた顔を赤くしながら言う。自分の身長が恥ずかしいのだろう。


「そしたら、吉野君が、『女の子に下やらせるわけないじゃん』って言ってくれて・・・私、嬉しかったんです」


 あの時か・・・。で、俺に惚れたと?いや、でも普通だろう。さすがに俺は女の子の上には乗れない。たとえ自分より身長が高くとも。


「だって、男が下なのは当たり前だよ。そんな、感謝されるようなことしてないし・・・」


 ましてや、それで惚れるとか、どんだけ男慣れしてないんだよ。


「それに君、身長はあるけど、線は細いし、いかにも女の子って感じで、上に乗ったりなんかしたら潰れちゃうんじゃないかって思って・・・」


 そう言ったとたん、再び彼女は真っ赤になってうつむいた。え、なんか変な事言ったかな、俺?しかし、まるでゆでダコのようだ。ちょっと面白い。俺は彼女に近づいてちょっとからかってみたい欲求にかられた。そしてベッドから立ち上がろうと・・・

 ガチャン

 無理だった。全然面白くない。

 いや、俺には楽しんでる余裕なんかないだろ。自身の足を見降ろして再び思う。とにかくこれを外してもらわないと。


「君の気持も理由もわかった。ありがとう。でも、とりあえずお友達からってのはダメかな?俺、まだ君のこと何も知らないし・・・」


 何も知らない女の子の家に来てしまってからこの会話って、かなり違和感。しかし、その言葉に彼女は顔をあげ、頬を染めて嬉しそうにうなずいた。あぁ、可愛いなぁ。


「じゃ、これ外してくれる?」


 俺は笑顔で足首の手錠を指さしながらそう言った。しかし、彼女は今度は青くなって首を左右にぶんぶんふった。


「へ?なんで?」


 話し合いは終わったじゃないか。彼女は俺に気持ちを伝え、俺は返事をして、お友達になった。まぁ、この話は学校の中庭でも出来るような内容だった・・・というか、そこでやるべきであって、断じて自室に連れ込んで足枷つけてするような話じゃなかったけれど、一応無事に決着はついた。この期に及んで彼女がはずしてくれない意味が分からない。


「・・・ダメ」

「・・・なんで?」


 涙目で俺に訴える彼女。泣きたいのはこっちだと思いながら見つめ返す俺。


「・・・出てったら・・・人に言っちゃうでしょ?」

「は?何を?」

「私が・・・拉致監禁するような女だって・・・」

「・・・へ?言わないよ?」


 確かに少し怖い思いはしたが、結局何もされなかったわけだし。それにそんな事を言いふらしてもメリットはないじゃないか。それどころか、俺が同い年のか弱い女の子に拉致られるような軟弱な奴だなんて知られたら、今後こんなことが多発する恐れがある。それだけは勘弁!相手がこんな女の子ならまだしも、さすがに男だったら手に負えない。


「言わないよ。絶対」


 まっすぐに彼女の瞳を見つめて言う。嘘など言ってない。この目を見てもらえば、誠実な気持ちが伝わるはずだ。しかし、


「だ、・・・ダメッ」


 青い顔でぶんぶん首を振る彼女には伝わらなかった。なんで!俺のこと好きなら信じてよ!


「・・・じゃあ、俺はどうすればいいの?」


 うなだれて聞く俺に彼女は恐る恐る言った。


「ここに・・・いてくれる?」


 疑問形で聞かなくても、俺は逃げられない。

 足元で鎖がジャランッと音を立てた。



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