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2、俺、狼狽しています。


 入ってきたのが女の子で、俺はものすごく驚いた。それはそうだろう?だって、拉致監禁するのって、普通大人が子供をだったり、男が女をだったり・・・普通そうだろう?だからいくら俺が男子高校生だと言っても、相手が男ってことは考えられても、まさか女の子とは考えられないよね?だから俺は信じられずに、半ば放心状態で、とりあえず聞いてみることにした。確率はかなり低いが、人違いかもしれないし。


「あのさ・・・俺をここに連れて来て、その・・・これつけたのって誰かわかる?」


 俺は足首につけられた手錠を指さしながら問う。


「あ、はい、その・・・私です・・・」


 君なの!?


「な、何で・・・?」


 俺はわけがわからず半開きの口からかろうじてそう問うた。知らない子だけれど、見た感じものすごくおとなしそうな子だ。俺の顔をまっすぐ見ることすらできずに、耳まで真っ赤な顔をうつむけながらおろおろしている。おろおろしたいのはこっちだよ!


「あ、あの・・・その・・・」


 俺の『なんで』の問いに答えようとしているのか、口を開けたり閉じたり忙しい。しかし、そこから発せられるのは文章どころか単語にもなっていない。なぜか相手は混乱しているようだ。とにかく落ち着かせないと。


「えと、いきなりごめん、とにかく落ち着いて。・・・座ろうか?」


 なるべく優しく言うと彼女はコクンとうなずいてその場にペタンと座った。なかなか従順でいい子・・・じゃなくて!何で俺は俺を拉致監禁してる犯人を落ち着かせようとしているんだ?ごめんって、俺悪くないのに何で謝ってんの?っていうか犯人ならもっとそれらしくしてくれよ!

 しかし、そんな内心は口に出せないほど彼女は狼狽しきった様子だ。何でこんなことになったんだ?


「いいかい?ゆっくりと深呼吸して・・・そう、落ち着いた?じゃあ、まず理由を聞こう、何で君は俺をここに連れてきて、そして足に手錠をかけたのか?」


 そういった瞬間、彼女の体はびくりと跳ね上がった。一向に顔をあげる気配がない。


「いやいや、大丈夫、怒ってないよ?」


 俺はそう言ってなだめてみるのだが、いや、だからなんで犯人にこんなこと言ってんの?十分怒るところだろう。しかし話し出す気配がないので、こちらから質問をぶつけてみるしかない。だが相手は話せないので、イエス、ノーで答えられる質問・・・要するに、首を縦か横に振ればいいだけの質問に変える。


「・・・君は、俺に何か用があった?だからここに連れてきた?」


 そう言うと、彼女はコクンとうなずいた。よかった、反応した。しかし、用があるなら道端ででも言ってくれればいいのに。わざわざ自宅に連れて来て拘束する必要が分からない。


「その用事って、俺に何かしてほしいことがあるとかかな?」


 たとえば重い箪笥が一人で動かせないから手伝ってほしいとか、蛍光灯が取り換えたいけれど、天井が高くてできないとか・・・。まぁ、どちらも拘束する意味はわからないが、これなら連れてきたことに意味は出てくる。しかし、後者はないか。彼女はたぶん俺より背が高い。比べたわけじゃないから確かではないが、俺は160センチで、彼女はたぶん165センチくらいじゃないだろうか。それくらいあればそこにある椅子に乗ればすんなり届く。


 しかし、彼女の答えはノーだった。首を横に振り否定する。長い黒髪が首の動きに合わせて揺れた。むぅ、じゃあ、なんだ?

 悲しいかな、俺の小さな脳みそでは、もう質問が浮かばない。さて、どうしよう?しかし、自分は拉致されて足首を拘束されているのに、意外と冷静だなぁ。逆に犯人の方が落ち着きがない。というか怯えている。まるで俺が彼女を拉致監禁しているみたいだ。いや、そんなことは絶対しないけど!あぁそうか、犯人が女の子だから冷静でいられるんだ。なるほど。


「ごめん・・・ギブアップだ。そろそろ君の口から話してよ」


 俺は両手を小さく上げて降参のポーズをした。彼女の顔色は、さっきよりもいくらかましになっており、耳だけはまだ真っ赤だが、顔の方は本来の肌色を取り戻しつつあった。

 すると、ついに彼女が顔をあげた。しかし、一瞬でまた下げると、土下座するように床に両手をついて頭を下げた。


「ごめんなさいっ!」


 対する俺はあっけに取られた。とりあえず「あ、え?いや、顔をあげてよ!」と叫ぶ。俺をここに連れてきた理由を聞いたのに、いきなり謝られてしまった。しかし、まぁ、謝るのは当然と言えば当然だ。これはたぶんれっきとした犯罪。女の子が拉致したのが男子高校生でも。


 しかし、さっき一瞬見えた彼女の顔。やはり見覚えがなかった。だが、結構可愛らしい部類に入ると思う。顔が小さく、そこに配置された小さなパーツがまた形がいい。さらに全体的に小さい作りなのに目だけはぱっちりと大きい。化粧気のない肌は、白くてつるつるしてそうだ。また、口紅もグロスも塗っていないのに、その唇はぷるぷるで桜色。確実に可愛い。

 だが、今はそんな事はどうでもいいんだ。彼女が可愛かろうがなんだろうが、犯罪はいけない。というか、早く俺を家に帰してくれ。部屋の壁にかかった壁掛け時計はすでに深夜2時を回っている。


「別に怒ってないからさ、理由を聞かせてよ?」

「理由・・・」


 そうつぶやいて、彼女はまたしても身体をこわばらせる。何かまずいことでもするはずだったのだろうか?もしや殺そうとか思ってないよな?まさかな?


「理由は・・・何でしょう?」

「・・・・は?」


 俺は彼女の言葉を聞いて今度こそ絶句してしまった。


「・・・」

「・・・」


 彼女は何も言わない。だから当然俺が話さなければ話は前に進まない。なんとか理性をかき集めて再び問う。


「・・・理由なく、知らない男を拉致って拘束したの?君?」

「違います!私はあなたを知っています!」


 突如叫んだので驚いて身を引く俺。それを見た彼女がまた焦り出した。


「いや、その・・・変な意味じゃなくてですね・・・あの、その・・・」


 宙をさまよい安定しない彼女の目がふいに俺に向けられ、何やら意を決したような間があった。そして彼女はすっくと立ち上がると、


「吉野一弥君!1年前からずっと好きでした!」


 俺に向かって勢いよく頭を下げながらそう叫んだ。



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