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1、俺、拉致されました。

 

 目を覚ますと、そこは真っ暗だった。


「あれ?ここ、どこだ・・・?」


 俺は周りを見回す。しかし、起きたばかりで闇に目が慣れておらず、良く見えない。とりあえず、俺が寝ていたのは柔らかいマットレスの敷かれたベッドだということはわかった。しかし確実に自分の部屋ではないし、どうも病院でもないらしい。

 俺は自身の記憶を振り返った。なぜ意識を失ったのだろう?そしてここはどこだ?確か、なんとなく寝つきが悪くて、夜中の11時ごろに飲み物でも買いに行こうとコンビニに行ったのだ。俺は一人で暮らしている自分のアパートを出て、歩いて5分のコンビニでスポーツドリンクを1本買うと、それを飲みつつ来た道を引き返した。そして・・・

 そこから思い出せない。


「いてて・・・」


 ふいに痛みを感じて後頭部に手をやると、何やらたんこぶができている。結構大きい。


「・・・いったい俺、何やったんだ・・・?」


 痛む頭、知らない部屋。何で俺はこんなところにいる?

 自分で歩いてきたのか?意識が飛ぶほど何かに頭をぶつけて、無意識に他人の部屋に上がりこんだ?だとしたら大変だ。一瞬で顔が青くなる。『不法侵入』と言う文字が頭に浮かんだ。は、早く家主が帰ってくる前に出なければ。

 慌てて布団をはぎ、床に足をつこうとしたが・・・

 ガチャンッ


「へ・・・?」


 無事に床についたのは左足だけで、なぜか右足はベッドの上。そして先ほど聞こえた不自然な金属音。まさか・・・。俺は恐る恐る闇に慣れ始めた目をそこに向けた。

 自分の足首に取り付けられた黒い金属の輪。それから伸びるのは同じく黒い金属でできた鎖。そしてその先は、おそらく作りつけらしいベッドの足に頑丈に固定してあった。それはもう、頑丈に。ベッドの足に何重も巻きつけられ、その鎖どうしに5つの南京錠がぶら下がっている。


「・・・」


 ・・・・・・何、これ。

 俺の顔は今まさに、青から白へと変わっただろう。そう、俺は紛れもなく、


「拘束、されてる・・・・?」


 絶望的な声が出た。痛む頭、知らない部屋、そして・・・鎖に繋がれた足。

 これはもう、俺が入り込んだとか、不法侵入とかのレベルではなくて、というか、俺に非はなくて。俺にあるのは、ただただ、身の危険のみだ。


 嘘だろう!?俺監禁されてる!!

 瞬時に頭はパニックになる。それはそうだ。俺は別に幼い少年でもなければ、可愛い女子高生でもない。はたまた金持ちのボンボンでもない。それどころか毎日生活が厳しいほどの金なし男子高校生だ。実家があるこの県の山奥には高校がないため、わざわざ家を出て一人で暮らしつつ高校に通っているのだ。しかし支送りなど微々たるもので、毎日食べるものにも困っている。そんな俺を誘拐したところで金なんか手に入らない。だから俺は、知らない部屋にいるという事実を、自らの失態だとまず最初に考えたのだ。だってそうだろう?何で男の俺が拉致られて監禁されるんだよ!?


 いや、落ちつけ、俺。まだ拉致監禁と決まったわけじゃない。

 ・・・いや、決まってるだろ・・・。だって他に理由が見つからない。

 何で?何でこうなった?よく思い出せ!コンビニを出てから何があった?


 俺は記憶をどうにかして引っ張り戻そうと考えつつ、足の拘束具を引っ張って外しにかかった。そんな、拘束具と言っても、所詮はドンキあたりで売ってるおもちゃに決まってる。だって本物がそん所そこらで簡単に手に入ったら大変だ。絶対これはおもちゃのはず!高校2年の俺にはまだ縁はないけれど、“そういう遊び”が好きな大人はいるらしい。いや、俺も多少興味あったり・・・って今それどころじゃないって!


 だから、そんなおもちゃ程度なら少し引っ張れば壊れるんじゃないか?そう思って俺はぐいぐい引っ張った。しかし、それはびくともせず、金属の輪が歪むどころか、俺の足にくいこんで痛くなっただけだった。なんでだよ!しかし、良く見ると、俺の足首に巻きつく輪と細い鎖でつながれ、対になる輪を発見した。その輪が今度は太い鎖に引っかけられていて、それがベッドの脚へと延びている。って、これ手錠じゃないの?え、本物?嘘だろ?ってか手錠を足にはめんなよ!


 しかしそんな事で俺はあきらめない。手錠本体がダメなら反対につながれているベッドの脚に注目した。幾重にも鎖を巻かれ、なおかつ南京錠で固定されてはいるが、ベッドの足を折ってしまえばいいのだ。俺はその棒を両手でつかむと、思い切り手前に引いた。しかし、木でできているように見えたベッドの脚の内部には、どうやら金属が骨格に使われているようで、ガンッという音をたてただけで、1ミリも曲がることはなかった。


 ・・・やばい。


 背中を冷や汗が伝う。

 ここにきてどれくらい経つのだろう?俺をここに連れてきたのはいったい誰なのだろう?そしてどんな奴なのだろう?どこに行ったのだろう?いつ戻ってくるんだ?戻ってきたら俺はどうなるんだ?

 俺の足りない脳みそでも、俺の未来ははっきりと推測することができた。だって、それはほかでもない、“俺”が持っている物を一つ一つ検分すればいい。俺が持っている物で、それを犯人が奪って得をする物。一般的に考えられるのは金だが、さっきも言った通り俺には金がない。そして俺がもっている物とは、他にはない。そう、“身体”以外には。


 もう一度言っておく。俺は男だ。断じて男だ。しかし・・・あまり人には言いたくないのだが、俺はわりと男にモテたりする。

 その理由は至極簡単。俺の背が世間一般の男子よりも低めであり、加えて顔が童顔であること。しかし、それも少しからかわれるくらいで、別にいじめも受けていないし、人と接するのが好きなので、男女ともに友達は多い。ごくたまに変わった男子に告白されることはあるものの、たまになのであんまり気にしていなかった。だから・・・こうなるなんて思ってもみなかった。


 でも、考えても他に思いつかない。何度も言うが、金も名声もないし俺をさらうメリットってそれくらいしかない。やばいやばいやばい!俺今貞操の危機!?

 ガチャ・・・


「!!!」


 か、帰ってきた!

 やばいって!俺そんな趣味ないんだよ!いくら顔が童顔でも、れっきとした高校男児だからショタコンとかならホントやめた方がいいよ!顔が可愛いとか思っても、男だから!何度も言うけど!マジ勘弁~!!

 ベッドの上で後ろの壁にべったりと張り付きながら心の中で絶叫する。部屋の扉がゆっくりと開いていく。廊下の電気が真っ暗な室内に徐々に入ってきて、闇に慣れた目がわずかにくらんだ。わあぁぁぁぁ!


「あの、起きてますか・・・・?」

「・・・へ?」


 しかし、聞こえた予想外の声に、思わず間抜けな声を出した。その瞬間、俺が起きていることを知った家主が部屋の電気をつけた。


「眩しっ」

「わ、あ、ご、ごめんなさいっ」


 突如明るくなり思わず声をあげながら目をつむる。そしてゆっくりと目を開けると、そこには・・・


「女の子・・・?」


 コンビニの袋を持って、顔を真っ赤にした女の子が、非常に申し訳なさそうな顔をしながら立っていた。



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