7 潜入と艦隊
☆
~クィーン~
不気味なほど反応しない監視カメラの下を歩いて進む。
ちょっとずつだが、歩哨にばれないように細心の注意を払っている。
HK416のグリップをしっかりと握り、いつでも撃てるようにしながら一歩ずつ前進。
「…………」
「……」
「……」
3人の呼吸する音がかろうじて聞こえているぐらい静まり返っている。
この間にも、他の6人も任務を遂行しているのだから、よけい緊張感の重圧がのしかかる。
「ついた」
レーダー施設の入口へと着く。そこで、暗証番号を認識する装置があった。
「暗証番号は」
MCDをその装置にかざして、いじること数分。
「あいた」
しっかりと入口は開いていく。
それと同時に、シノミがHK416を構えて突入。
1人の衛兵の頭を貫いた。
「クリア」
サブプレッサーの乾いた音と衛兵が倒れた音だけがした。
「さぁ、いくわよ」
シノミを先頭にレーダー施設内部へと侵入していった。
☆
~ナイト~
シマリとカエデが敵に紛れ込んで何食わぬ顔で歩いている。
カノンは茂みに隠れて様子を見る。
ミサイル発射装置は全部で4つ。全て対空ミサイルで埼玉全域を覆っていて、連発可能なので一番脅威となっている。
「ここが最初の場所」
カエデがシマリの耳元でささやいた。
「そうです」
シマリが懐に隠しているC4、プラスチック爆弾を設置する。まわりに被害を大きくするためにあえて誘爆をするような場所へと設置する。
シマリは周りを監視して、カノンはその様子を眺める。
「ナイト3 設置完了」
無線で連絡してから、カノンが大きく深呼吸をした。
「これでひとつ」
隠れつつシマリとシノミの援護に徹しながら周りの監視をしていた。
「こちらナイト2、ふたつ目のポイントまで向かいます」
「ナイト1、了解。引き続き周辺の監視を続けるわ」
カエデはSR-25を長い鞄の中に隠してそれを肩にかけながら進み、シマリはHK-416を背中に隠しながら徐々に進んで行った。
☆
~ペイジ~
3人は林を抜けて倉庫が見える所までやってきた。
目標の弾薬庫は3階建ての建物に高さが相当して結構広かった。2階部分には広い窓があって中には灯がともっていることがわかる。
「暗視装置とって」
シモハルの指示で、暗視装置のスイッチを切って腰に引っかける。
「それじゃあ、キリを戦闘で私は一番後ろね」
「りょうかい……」
「はいよ」
「キリ頼むな」
「…………」
雅一が先導をうながすと、顔を横にプイと向けてしまう。
「キリお願いね」
「……わかった」
シモハルが言った時にはしっかりと返事を返すので、雅一はまだ拗ねてるのか肩を落とす。
HK-416を片手に持ってキリが林と倉庫の間の車が2台ぐらい通れる道を横切る。
雅一、シモハルもそれに続く。
「弾薬庫は全部で4つ、まずはひとつめ」
倉庫の入り口には1個しかなくて、そこを通るしかなかった。
「……ハル、バックアップ」
「了解」
キリが見つからないように倉庫の入口へと向かい、シモハルはうつぶせになってSR-25を構えスコープを覗き見た。
雅一はシモハルの周りを警戒しながら、キリの行動が気になってしまう。
一歩一歩ゆっくり、音を立てずに進む。
あそこまでの無音歩行はそうそうできることでもない。
キリがコンバットナイフを構えて、こちらに何かのハンドサインを送った。
シモハルとの距離は40メートルと距離は短い。
SR-25の銃口から、静かに弾が撃ちだされて、頭部に直撃。
中から何事かと出てきた軍服の人を、キリがコンバットナイフで首もとに切りつけた。
キリから来てもよいとハンドサインがきたので、慎重に合流することに成功した。
「……慎重に」
キリは殺した2人をゲームの制約で消えるまでの間、隠すために倉庫の中へと運んで、中を周回していく。
キリはHK416の銃口を前に向けて進んで行く。雅一がその後ろから付いて行き、シモハルはSR-25を背負いUSP TACTICALのグリップをしっかりと握り後方を警戒。
「……いない」
1周してきて、入口に戻ってきて敵がいないことが確認された。
キリが腰辺りからC4を持ってきて、弾薬庫の真ん中に設置した。これで誘爆して大被害をこうむる。
C4は無線式で、途中に中継するために発信器を設置する必要がある。これで、ある程度の距離を稼いで爆発させる事が出来る。
「これでよしっと、ふたつめへ急ごう。たぶん、もうそろそろレーダー施設が片付くと思うから」
「なんでだ?」
「それは、あそこのチーム、アヤネがいるでしょ。だから、一番最初に到達して囮役を引き受けてくれると思うから。こっちのも爆発させて、負担を減らさないと」
「仲間のためなら頑張るか」
☆
~ブルー・リッジ級揚陸指揮艦改良型“しらさぎ”~
ここの電子装備は最高ランクで、レーダーで埼玉の山間部を除いてほぼカバーしている。
「夜間にもかかわらず、凄いですね」
しらさぎの艦長が声をかけてくる。さすがに現実と違って、まだ30代ぐらいと若い。
「いえいえ、こちらこそご苦労様です」
「私たちの役目は作戦を円滑に進める事なので気にしないでください」
この作戦で東京湾には護衛艦とイージス艦を含めた大艦隊が集結していた。これで、対空は万全で空から来てもステルス機ですら、レーダー網に引っかかるほどだ。
海軍の港は浜松にある。そこには一大海軍拠点が出来てるらしい。すべて、ここのクラン会長が指定して作っている。
「現在の状況はどうですか?」
“月下の灯”が作戦を開始して、30分が経過していた。
夜のために月光で照らされているだけで、海の上は暗い。
「月下の灯が降下を開始してから、27分経過。さらに春日部に侵入する予定の機械化装甲連隊は南で駐留中、入間に向かう部隊も順次準備を開始しています」
「ありがとうございます」
ヨウコは隣にはいない。今は仮眠を取ってもらっている。
「司令官殿、ここは一度お休みになられた方が良いのでは」
艦長が声をかけてきた。まだ年若そうな女性にはきついだろうと心配しての事。
「ですが」
「次の作戦が開始される前には、起こさせていただきます。1,2時間は寝ておいた方が全然違います」
これは艦長の経験上のことだった。寝れるときに寝る。これが海軍において重要だった。
ゲームでも、すぐに戦闘が起きるわけではない。長いにらみ合いなどをしながらの戦闘が多かった。
だから、作戦中においても寝れるときには寝ていたので、今回も助言をした。
「わかりました。それでは、2時間後に起こしてください。お願いします」
「アイマム」
本物軍事人かと思うほどきれいな敬礼をした。
まだ作戦は始まったばかり。