2 一匹狼と救援要請
☆
~館山統合司令所~
「えっ! ゲームの人数が10万人!?」
マユミは誰もいない司令所で甲高い声で叫ぶ。今は新しく設立されたタクスフォースの人員整理をしていたのだ。調べていると解放軍側のそうゲームプレイヤー数が10万にだったことが判明した。開始当初の10倍に増えていた。
「FPS系の人が多めで、その他にも料理系、レース系なんかから来てる。けど、RPG系からは誰も……ひとり以外来ていない」
このゲームとは別のFPSから来た人数が多くて、数は少なめでレース系、そして料理系なんかのVRから若干来ていた。でも、RPG系は雅一のみしか来ていなかった。
「ミノマサさん……かれだけがRPG系からの来訪者、なにかあるの?」
疑問なままマユミは一夜を開けた。
☆
~月下の灯~
「ここが館山か~、想像以上だ。というより、こんなに人がいるのかよ。しゃっベってるからNPCじゃないだろ」
一本の広い道に人がたくさんいた。その両側には数多くのお店が建っていた。
「どうにも、あなただけが特別じゃないみたい、あなた以外にも他のVRから飛ばされた人がたくさんいたの、それで料理系のVRから飛ばされた人がこうやって店をかまえてるってわけよ。わかった?」
「ありがと」
アヤネのありがたい解説を受けた雅一は納得しつつ、周りを見渡していた。
その後、適当な中華料理屋に入って食事をとる。
何でもVRの再現度がものすごいハイクオリティでいいと、料理屋のおっちゃんが豪語していた。
その通りで、味も現実で食べるのとまったくと言っていいほど変わらなかった。
適当な宿泊施設に入って睡眠をとった。
こうして、怒涛の一日は終わりを告げた。
木更津での戦闘から館山まで一日とは思えないぐらい長く感じた。
とてもとても長い1日だった。
「ふわぁ~~」
雅一は朝もまだ早い時間帯に目を覚ます。
「マサ、早いですね」
後ろで声が聞こえたので振り返ってみると、シマリとキリがいた。
「珍しい組み合わせだな」
「たまたま起きたタイミングが一緒だっただけです」
「……そう」
「そうなのか」
シマリの返答にキリが小さくうなづいた。
「そういえばシマリって、このゲーム内なら何でも操縦することができるのか?」
雅一はカノンが行っていることを思い出してシマリに訊ねた。
「はい輸送機から、原潜まで何でも」
「すごいな、でも船系はあるのか?」
「艦船系はあります。でも、お金が高くて一部のVIPな人とか道楽家じゃないと持ってません」
「そりゃそうだろうな」
「海軍のクランも、3つしかありません」
「3つね。全国区で有名なゲームからしたら珍しいな」
「戦闘系と支援系、そして輸送系です」
「きれいに3つに分かれたな」
「いえ、もともとひとつしかなかったのですけど、3つにわけたんです」
「会社みたいだ」
妙に現実感あふれるゲームだと思っていたのだが、ここまで来ると現実そっくりだ。
「そういや、キリの存在を忘れた」
今の今までキリのことをのけ者にしていたのを思い出したので、キリに話題を振ったつもりの冗談だったのだが、
「…………」
キリはその言葉を聞いた後にどっかに言ってしまった。
「いまのはひどいですよ」
「そうか……」
冗談では済まない話になってしまったことにショックを受けた雅一であった。
何回もキリに話しかけているのだが、
「おい、キリ。わるかった」
「…………」
「キリ」
「………………」
「キ!―――」
「……………………」
と、無視され続けた。
ある宿泊施設の自動販売機の横の長椅子に座りながら雅一は頭を悩ませていた。
「やばい」
「どうしたのマサ、なんかキリが避けてるみたいだけど」
ため息をついていた雅一が気になってカノンが声をかけた。
「いや俺が冗談で、キリの存在忘れてたって言ったら、無視されるようになっちまったんだ」
「それは、あなたが悪いわよ。キリはうちのクランに入る前は一匹狼の暗殺者っていう、二つ名だったんだから」
カノンも雅一の隣に腰を掛けた。
「一匹狼の暗殺者?」
「チームを組んでも勝手に行動することで有名だったの。でも、腕はピカイチでひとりで数十人を倒したこともあるの。それで一匹狼の暗殺者」
雅一は感心した顔をして頷く。想像通りと言うかなんというか言葉を濁いていた。
「それでなんで、キリがこのクランにいるんだ?」
「それは、ある時に私たちのクランとキリで戦う破目になったのが始めり、何でも私たちはランクが高くて少人数でしかも全員女だったから、いろいろと恨みをかってたわけ。それでキリと戦うことになったの」
「いろいろと大変なんだな」
「私たちは大人数で連携を取ってキリを罠にはめて勝ったんだけどね」
「やることえげつねーな」
1人相手によってかかって攻めたということなので、若干雅一は苦笑いをする。
「勝つためだから仕方がない事よ。それでその時、チームプレイの大切さを教えたら、このクランで学ばせてくれって言ったのが、このクランに入ったわけ」
「そんなことがあったのか、それで結局、見つけれたのか?」
「それはわからない。聞いたことないもん。でも、マサが言ったことはすごい関係していると思うってことだけよ!」
カノンは雅一の背中を思いっきり叩いて、去って行った。
「チームプレー、一匹狼」
雅一は疑似の蒼空を見上げた。
☆
~館山統合司令所~
それから数日後、タクスフォースの編成が終わりを見せかけたころ、救援要請が入った。
「えっ! どこのクランが勝手に任務を受けたんですか」
運営側から任務が数件流れてきているが、それを無視するように言っている。それなのに救援要請が入った。
「どうも、まだどこにも辿りついていない人たちのようです」
ここ数日で司令所の人数も増えた。レーダー員や通信員などなど、一気ににぎやかになった。ここの人たちは、それぞれ何回かはやったことある人らしくスムーズに進めてくれることがマユミにとって嬉しかった。
「それは、救出しないと」
「でも、問題があるみたい」
地図をよく見ていたヨウコが隣から言う。マユミの補佐官的な地位についたヨウコ、本当なら指揮官にもっともふさわしいのだけど、「わたしが指揮官なんて、むりむり」とか言って断られた。
「ここの高台、たしか昔にミサイル基地が作られてたはず。だから、空からの支援ができない」
ヨウコの情報は正しく、丘の方にはミサイル基地がありそれは味方が占拠しているという情報はなかった。
「それなら、まずはミサイル基地を占拠または爆破した後での救出ですね」
新たな任務が入ることとなった。