プロローグ
――プロペラが回り始めるがまだ飛べない物語――
☆
~館山統合司令所~
「はい、現在の館山統合司令所の指揮官代理のマユミです」
『よかった。君に頼みがあるのだよ』
「その前にお名前をお聞きしてよろしいでしょうか」
「これは失礼、すっかり忘れていたよ」
笑っていた。とても貫録のある声をしていた。
「中部方面軍の指揮官をしていた西郷一誠です。ゲストとして呼ばれたのですが、巻き込まれてしまいました」
「これはこちらが失礼でした」
突然の現役の指揮官から連絡がきたので緊張が走る。
「楽にしてて話してください。今現在、各方面の指令所の人たちと会議をする予定でね。集まってくれないかね?」
「了解しました!」
走って司令所を出て、大型のプロジェクターがある会議室と行く。
映像が映りだされて、他にも数個の画像が写って、ひとりひとりの顔がはっきりと見える。
「自己紹介は抜きにしましょう。いきなり本題から入ります」
先程の無線と同じ声が聞こえた。映し出された人柄、まさに歴戦の勇士そのものの面構えだった。
「この真相が今一つわかりません。なので、現状維持をして様子見をします」
その言葉に数人の人が驚きを隠せないでいた。
「現状維持と同時に、館山にタスクフォース。特別任務部隊を設置して、情報収取に当たってもらいたい」
「えっ!!」
マユミが目を大きく開けた。
「館山には優秀な人材が集まっているとか、それに不可視迷彩があるとかをヨウコ君からの連絡で来たものだから」
「ヨウコさんが……」
ヨウコが何を言ったのかは明白だった。
「不可視迷彩の技術をつかえることを相手に黙秘しておきたいから、この技術は館山のみが使えるので、館山にタクスフォースを設置したい」
「で、でも」
迷っているところに間髪いれず次のことを言う。
「そこで指揮官は、マユミ君。君がやってくれ」
「えっっーーーー!! 無理です」
「ヨウコ君から、君しかないと言われもんでね。それに先の戦闘でも凄い采配だと私は思うのだけど。やってはくれないか」
「そ、それは……」
マユミが判断できなかった。そして帰ってきたらヨウコをとっちめようと心に決めた。
「他の方々もそれでよろしいかね」
「それは……」
「それなら……」
「いいのでは……」
賛成の声が多かった。
「私で、いいのでしょうか……」
「君じゃないと出来ない事なんだよ。君の判断力と度胸、そしてなにより、粘り強さ。指揮官の素質を君は持っている」
「で、でも」
「頼む」
西郷が頭を下げた。
「わ、わかりました。出来るだけの事はやってみます!!!!」
こんな事を言ってしまって後悔しているが、目が輝いていた。
「よく言ってくれた。これから、館山をタクスフォース634と呼称。この事件の情報収取を任せたい。そして他の指令所は現状維持で、いま別の勢力にも一時停戦を打診している。たぶん、了承をもらえるだろう。それでは、詳しいことは追って連絡する」
画面が真っ黒になる。
「たいへんなことになちゃった……」
マユミはただ茫然とすることしかできなかった。
目の前にはタクスフォース634の文字が写っている。
司令所の窓から見える青空を眺めている。
☆
~月下の灯~
「ここが館山……」
雅一がヘリに乗って数時間で着いた飛行場の景色を見ている。
「実言うと私も急いでいて周りの景色みてないのよね」
アヤネが隣から話しかけてくる。
「そうなのか」
雅一の手には両刃剣が握られている。銃がどうやったら剣に変わるのか。普通なら無理なのだが、ここはあくまでゲームの中。そんなことも可能なのだ。
ヘリが地面に着地。
ローター音が収まって行く。
「ついたーー」
雅一は手を空に向かってのばして解放感を満喫していた。
「こっちに」
ヘリで一緒に搭乗していた人が案内によって、全員と合流した。
「これで、ようやく月下の灯が合流できた」
カノン
シマリ
アヤネ
キリ
シノミ
ヒメ
カエデ
シモハル
雅一
最初の合流から、館山に向かって、途中にまた分かれて、ようやく合流できたのだ。
「やっとゆっくりできる~」
「そうだね~」
「美夏ちゃん、ようやく休憩できますわね」
「もう……」
みんなの顔がはれて元気な顔をしていた。
「みんなお疲れ様」
「おつかれ~」
サキとシグレがこっちに来た。
「私たちは帰る」
「おつかれさまでした~~」
2人が言うと月下の灯のメンバーも
「こっちこそ、ありがとう」
「ありがとうね~」
「こまったことがあったら言ってね」
少しの間でも一緒に戦えば戦友。そんな感じの雰囲気だった。
2人とも別れて、9人だけになった。
「館山に遊びに行こう!」
カノンの掛け声と共に、月下の灯は館山市街へと足を踏み入れた。
茜色の空が青色と混ざり合い、一番星が見え始めたころに9人は歩き出した。
これから、どんなことがあっても9人がいれば大丈夫。そんな気がした。