竜の契約
4月29日改訂
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ギルドを出た俺達は,城の近くにある役所に向う。
役所の建物は石作りで、4階立て1階は国民向けの役所だ。受付に居たのは、横柄な態度の中年のはげ親父で、周りに見えないように銀貨3枚を渡すと。突然、丁寧な態度になり手続きかスムーズに運び。ビリーさんの紹介状も有ったおかげで登録はその日の昼までに終わった。
ちなみに登録料と一年分の税金で金貨6枚かかった。商会名は”アース商会”考えていなかったので適当に付けた。
「ヨシオ、昼飯にしないか腹減ったよ」
ミゲルがお腹を鳴らしながら言ってくる(笑) 器用なやつだ。
「そうだな、ミゲルのおススメの店で良いから行こうか」
ミゲルに案内されてきた店は、何でも「俺の家母さんの実家が漁師で、魚料理か多く。たまには、肉が食べたい」と言って肉料理で有名な店に案内してきた。その店は、ギルドの近くにあった。
その店に入ると昼過ぎになのにお客でにぎわっていた。
「注文は、俺に任せろ!」とミゲルがハイテンションで言うのでまかせる事にした。ミゲルは、里帰りしてかなり明るくなったかも。ブラウン中尉は、違う意味でハイテンションだが。バーグ少佐に「そんなにはしゃぐならもうつれて来ないぞ」と言われて大人しくなっていた。遊園地に遊びに来た子供じゃないんだから…
しばらく待っていると、肉料理が運ばれてきた。「オーク亭名物、オークのステーキだよ」言い、女将さんらしきおばさんが人数分のステーキを運んできた。
「オークか久しぶりだな」
俺が言う。
「オークってどんな生き物だ?」
バーク少佐が聞いてきた。
「豚みたいな生き物ですよ」
(ゴブリンのぐらいの身長の二本足で歩く、醜い豚系のモンスターなんだけどね。知らない方が良いよね?)
味は、塩とにんにく味でハーブがきいている。大変おいしく頂きました。
ちなみに食事中、スミスさん目当てにからんで来た傭兵風の人が居たが、バーク少佐に片手で撃退されていた。流石、米軍歴戦の精鋭部隊のエースだ。ブラウン中尉は、そんな中1人お替りしていた。あれ? 君の仕事では… この人も精鋭部隊の仕官だよね?
オーク亭を出て。予定通り物件を探す事にした俺達は、ミゲルの案内で不動産屋に着くと、店主を捕まえて中古物件を見て回る。
みんなで相談した結果候補が2件にまで絞れた。立地は、表通りにあり良いが、1階建ての狭い店舗物件と。裏通りにあるが、それなりに広い地下室がある2階建ての物件だ。
両方とも家具付きだ。ミゲルは、表通りの物件が良いと言ったが、スミスさんが裏通りの方が良いと言い。
俺も転送用の魔法陣を置くスペースを考えると裏通りの物件にする事にした。
店主との粘り強い交渉の結果、金貨50枚値引きしてもらい、450枚即金で買い取った。契約書を交わし店主と一緒に役所に行き所有権の登録を済ませると、もう夕方になっていた。今日の所は、ミゲルの家に戻る。
ビリーさんに店舗物件を買った事を伝えると、こんなに早く買った事に驚いていた。 ビリーさんの話だと競合店が無ければ立地はあまり関係ないとの事、ここは交易都市で数多くの商人が出入りしているので良い物は必ず売れると言ってくれた。
夕飯にモニカさんの魚料理をご馳走になり、早めに部屋に引き上げて義雄は1人考えていた。
明日の事、米国との関係、何よりこの世界に来た理由。
まず軍資金を稼がないと始まらないな、それに資金よりも情報が必要だ。俺が16年前の情報しか今はないのだから…
それに米国が本気で異世界に力を入れてきたら厄介だ。あくまで交易だけで止めて置くのが理想的なのだ。
俺は米国政府と交渉の過程で、異世界が急速に科学の力を手に入れたら地球にとって脅威になる事を伝えている。
今でさえ地球から人間を拉致できる力があり。今のままでも要人が誘拐される可能性。仮に手に入れた、科学力で作った爆弾を好きな所に魔術で送る事も考えられる事などだ。
いきなり爆弾がホワイトハウスに転送されたら?
街に転送されたら?
核施設に転送されたら?
少なくても俺には可能だ。爆弾を召喚して核施設に転送すればいろいろと終わりだ。
俺が提案したのは、まず交易を行ない。情報を集め、経済から影響力を持つ事だ。
経済的利害があれば対立はあっても戦争は興り難い。それに先にこちらで魔術を学び防衛対策を取れる事。しばらくは水面下で行動するのが得策である事を説明し合意した。
勿論こちらの魔術、薬、この世界でしか無い物を地球に送り。
異世界でオーバーテクノロジーになるような物は、こちらになるべく持ち込まないようにしなければならない。
ガラスは、今異世界で有る技術で作れるので了承を得ている。米国から送られてくる物資だけでは 怪しまれ要らぬ詮索をされると厄介だ。
スミスさん達は、情報収集とこちらの薬を持ち帰る事が今回の目的だが、恐らく俺の監視も任務のはずだ。
強すぎる個人の力はその人間にとって幸福なのだろうか…
要らないトラブルを抱え込むだけでは? 例えば仲間だった人間に背後から襲われるような。
義雄には答えが出なかった。少なくても前世のような事だけは避けたい… 前世では与えられた力だったが、今は違う。
義雄は、そんな事を考えていると睡魔に襲われ眠りについた。
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時は少しさかのぼり、義雄が再び異世界にやって来た日。神竜大陸の聖域とされる ”竜の里”
彼女は見かけの歳は18歳ぐらいか、10人居れば10人が美少女だと言うだろう。肌は透き通り。綺麗なストレートの黒髪は腰にまで届いており。その黒い瞳は窓の外に向けられていた。
だが、竜の里の山々を観ている訳ではなかった。その瞳はもっと遠くを見える筈もない。
彼女が愛し。“竜の契約”を交わした、 唯一の契約者だった彼の事を見ていた。しかし彼は、16年前に魔王と共に死んでしまった。
彼が仮に生きて戻ってきても自分の思いが、かなう事は無いと分かっていた。何故なら彼はあの女を愛していたのだから…。
だが彼女は、彼の側に居たかった。それで良かった。たとえ彼が振り向いてくれなくても…。
彼女はあの日、彼を背中に乗せ魔王の城(空中に有る)に送り届けた。無数の魔獣と戦い怪我を負い。力尽きようとしながらも。今思えば最後まで付いて行けば良かった。彼の盾ぐらいにはなれたかも知れない。
彼女は、仲間に助けられ辛くも生き残った、生き残ってしまった。あの日死んでしまえば、どんなに楽だっただろう。彼より先に死ねたのだから。
彼女の全てだった。何よりも大切なあの人を失ってしまった。16年前のあの日から生きる気力を失っていたが、あの人との“最後の約束“で彼を追って命を絶つ事を出来なかった。
今考えれば、彼は死ぬ事を分かっていたのかも知れない。彼女が魔王の城に彼を送り届け私に言った「お前は生きろ 生きて帰れ 約束だぞ」彼女は嬉しかった。たとえ一瞬でもあの女の事ではなく、自分の事を考えてくれた、それだけで…。
信じたくないが彼は死んでしまったのだ。“竜の契約“を交わした彼女が一番分かっていた。契約を交わすと契約相手の魂がこの世界に生きている限りその存在が分かるのだ。
そしてその日は突然やって来た。彼の波動を感じたのだ。何故なのかは分からない。
理由など、どうでもいい、私があの人の波動を間違えるはずがない。
たとえ彼がどんな姿でもいい。彼女は、文字通り飛んで彼の元に向った。
そして、彼女の16年間止まった時間が動き出した。
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この話は、あまりいじりたくなかった。




