偽銀
改訂中
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神聖デント王国。
ルナ王妃は、機嫌が良かった。
ナバーラ王国侵攻とは、別の国に侵攻していた。神聖デント王国の主力、神虎大陸最強の白虎騎士団が力を発揮し敵国の王都を陥落させたのだ。
聖騎士がヘラルドからの書状を届けに来た。聖騎士から書状を近衛兵が受け取り、近衛兵が書状を王妃に渡す。
「……………」
書状を読んだ王妃は無言で、隣に座る国王に書状を渡す。国王は書状を読むと顔が見る見るうちに赤くなり怒鳴る。
「何だと!ヘラルドが負けた、馬鹿な… ドラゴン、しかもリナだと…」
その場の空気が凍りつく。
「ナバーラ侵攻は中止しましょう」
ルナ王妃が言う。
「何故だ、ルナ。もう少しでナバーラを落とせる所だったのだぞ」
国王には珍しく、王妃に噛み付く。ルナ王妃は冷たい視線を国王に向ける。
「だから貴方には、任せられないのです。リナがルイスに味方したのですよ?あんな貧乏国を手に入れるのに大事な騎士団を出すわけには行きません。それに勇者の従者だった、リナを敵にすると士気に影響しますわ」
「では、ナバーラを放って置くのか」
「しばらくの間です。この大陸を統一するのですから、他にいくらでも攻める所は有るでしょう」
(やっぱり帝国の事もあるし、勇者を召喚させないとダメかしら…)
○
日本、警視庁。外事課。
森田警視正は、頭を抱えていた。事の始まりは、米国中央情報局のリーザ・スミスを新田家に案内した事だ。
ごくごく一般的な家庭である、
新田家の子供になんで米国が興味を示し大統領が直接契約書にサインしたのか、彼には理解できなかった。
その後気になり、新田家を調査させたがたがやっぱり普通の家庭だった。
新田義雄は今回渡米した以外は海外に行った記録が無い。
彼は6ヶ国語が話せるが、あの二人が話した言葉は、聞いた事がない言語だ。
だが、それだけでは彼は頭を抱えない。
新田家からリーザ・スミスに連れられていき。その後、息子居所も連絡先も留学先も分からないと、毎日のようにクレームを受け。
更に義雄の父が別荘やマンションなどを建築しているお得意さんが、代議士で政治的な圧力まで来たのだ。
米国に問い合わせても、機密の一点張りで埒が明かない。
「一緒に付いて行った、だけなのになぁ…」
彼の苦悩は、しばらく続く事になる。
○ ○
ナバーラ王国。
義雄はレオン領をナバーラ王からもらい、義雄・新田・レオンとなり爵位は男爵だ。
この大陸では、領地の名前=爵位名で爵位を複数持つ大貴族も存在する。
レオンの領主は血縁に関係なく、代々レオンと名乗る。家名は別だ。
国王などの直轄地は、騎士や下級貴族が管理を任されたりする。
レオン領は、ナバーラ王都と神聖デント王国の国境のちょうど中間の旧街道沿いの盆地だ。
旧街道は神聖デント王国からナバーラ王都にまっすぐ最短距離を通っているが、山を通る為、道が狭くモンスターが多い。現在の街道は直轄地(王領)で山を迂回して通っている。
今義雄は国王から与えられた、王城近くの店舗に来ていた。
「無駄に広いな。まぁ、タダでくれたから文句は言えないか」
元は逃げた大臣の屋敷で、店舗と兼用できる作りだ。逃げた大臣も商会をしていたそうだ。家具や美術品などそのままで、執事やメイドが大臣に置き去りにされ、そのまま雇う事になった。
「このあたりが良いか…」
石の床に魔法で転送魔法陣を刻む。
「旦那様、美術品をお持ちしました。」
「あぁ ありがとう、ホセ」
ホセは執事だ、彼は優秀で逃げた大臣も商会を経営していたのだが商会の運営を任されていたそうだ。
ホセは愛国心が強く、逃げずに防衛戦に参加していた。
ちなみにホセは農家出身で家名がなく、歳は40歳中肉中背で黒髪。身長は俺と同じくらいで175cm前後だ。
「ホセ、明日中には戻る。後の事は頼んだ」
屋敷の資金に手持ちの金貨をホセに渡す、薬草を買った残りの金と食糧の売上金だ。
「かしこまりました」
リナとバーク少佐、ブラウン中尉を連れ、美術品とボーダーでは取れない薬草と一緒にアース商会本店に転送魔法陣を使いボーダーに戻る。
○ ○ ○
アース商会、本店。
店に戻った俺は、ミゲルとスミスさんの報告を受け、店員達に紹介される。
ミゲルとスミスさんにリナを紹介してナバーラでも事を説明すると二人ともかなり驚いていた。
ミゲルは「え…ホントに勇者様なんですか!」ぶるぶる震えながら、何度もきいてきた。今度、リナに竜化してもらって見せれば信じるだろう。サービスで空でも飛ばしてやろうか。
俺はリナと二人で美術品を売りに行く。
残りの美術品をボーダーの町で売ると金貨100枚になった。その足でギルドに行き報酬金貨200枚を受け取る。商人ランクがEからCに上がった、商人ランクは純粋に受け取った報酬の総額で決まる。
帰りにゴードン商会にやって来た。
「これは、これはヨシオ様、今日はどんな御用でしょうか?」
やけに態度が良い、こないだの水晶で儲けたのだろう。
「実は偽銀を売って欲しい」
「え、偽銀ですか…あんなもので良ければいくらでもお譲りします」
しばらくすると袋が5個何人かで持ってきた。
「いくらですか?」
「はぁこんなもの売った事がないものですから……ヨシオ様なら言い値で良いですよ」
義雄は中を確認すると砂の粒のような偽銀だ。持ち上げてみる1袋10kgあるだろうか…
「1袋金貨1枚でどうですか?」
「ええー!そんなに高く買っていただけるのですか」
義雄は金貨を5枚払い。流石に重いので軽減魔法をかけ、袋をリュックに入れる。
「僕の故郷で人気が有りまして…この金額で毎回買いますので、誰にも言わないで頂きたい。勿論うちの店の者にも…」
「……分かりました、その代わりと言っては何ですが水晶がまた仕入れられたら売って頂けませんか」
「分かりました、度仕入れられたらゴートンさんにお譲りします」
ゴードンさんには、偽銀を仕入れてしまったら取って置いて欲しいと頼んでおいた。
ゴートンさんはニコニコしながら見送ってくれた。
「ヨシヒコ、そんな物どうするのですか」
リナが不思議そうに聞いてくる。
この世界では銀を採掘して商会に持ち込む冒険者や鍛冶屋など居るがその中に偽銀が混じっている事がある。混ぜたのかもしれないが…
偽銀は、融点が高くこの世界の技術では装飾品に加工が出来ない、仮に加工出来ても銀と価値が変わらないだろう。なので、かなり安い。捨てている人も居るぐらいだ。
「偽銀は俺の故郷ではプラチナと呼ばれていてね、金と同じぐらい価値がある」
リナは驚きながらも「そうなんですか~」と言っただけで、お金に興味が無いのかそれ以上聞いて来ない。
リナはお金よりも義雄があげた飴の方が気に入ったみたいだ。
「リナ、偽銀の事は秘密にしておいてくれ」
「はい」
リナが飴を口に含んだまま、笑顔で答える。(……かわいい)
店に戻った義雄は、みんなを集めナバーラ支店の事を相談する。
「うーん、俺は開店したばかりの店があるから動けないな」
最初にミゲルが言う。
「僕もミゲルはここに居て欲しい。この店は順調だしこのままミゲルに任せようと思うけど良いか」
「勿論だよ、任せてくれ!必ず成功させる」
ミゲルが瞳を輝かせて自身満々で答える。
「ヨシオ、相談なんだけど表通りの買わなかった店舗を買い取ってハンバーグを売りたいんだ。勿論それだけじゃなく、地球で食べた食べ物を売りたい」
「面白そうだな、任せるよ。スミスさんは何かありますか」
「米国としては、ナバーラから持ち帰った薬草もあるので今の所は良いですが今後も物資の提供を続けるには、何か他の物も考えていただきたいです」
今度はスミスさんが話す。
「この辺に居ないモンスターや植物、薬草などを送れば良いだろうか?」
「ええ、それでしたら本国も納得すると思います」
「分かりました、しばらくはそれで対応しましょう。それとこれから僕は支店を増やす予定ですが米国は全支店に人員を置きますか?」
「いえ、流石にそこまでの人は割けませんので。新田君に護衛を出す程度に止めます」
米国は異世界の事は機密にしているので、人員に限りがある。
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融点(固体が融解し液体化する温度のことをいう)
別の物です。↓
「白金」=「プラチナ」(platinum)
「ホワイトゴールド」 (white gold)