勇者の墓
24年5月11日改訂
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笑って誤魔かせるわけも無く…。
「ほぉ~最近の“ただの商人”は空を飛び、光の柱魔術が使えるのかのぉ~」
「それよりも、リナを休ませたいのですが…」
義雄は大事に抱きかかえた、彼女を見る。
「おお、そうじゃ…リナは大丈夫か?」
ルイスは前世の頃、リナと面識がある。
「はい、意識を失っているだけです」
「そうか良かった。部屋を用意させよう。ヨシオが何故あんな魔術が使えて、リナと何故知り合いなのか、あとで聞かせてもらうぞ」
「はぁ…」
(…面倒な事になったな)
○
俺は城に連れて行かれ、客室に案内された。
「ヨシオ、無事だったか」
部屋に入るとバーク少佐とブラウン中尉がいた。
「その子は…」
バーク少佐がリナに視線を移す。
「彼女はリナ、前世の頃の仲間です」
俺はリナをベッドに寝かせる。
「ヨシオ、どう言う訳か聞きたいのだが」
俺は米軍に詳しく前世の事を話していなかった。
ここまで“良く覚えていない”とか言って誤魔かしている。前世の事を覚えている事態異常だからね。老人が、ボケてる振りして誤魔化している心境だった。
(もう少し黙っているつもりだったけど、リナとルイスの事も有るし話すか)
俺が前世でも日本人で召喚され、勇者になった事とルイスが戦友だった事を話した。あの女に殺された事は言っていない、こっちの世界に来て思いだした事にした。
「なるほど、勇者に魔王か…ドラゴンまで居るからな」
バーク少佐がベッドの方を見る。
するとドアにノックの音がしてルイス将軍が入ってくる。
「ヨシオ、待たせたな。リナはまだ起きておらんようじゃな」
(まってねぇ…)
「わざわざ閣下自ら、何か御用ですか?」
「お主は商人じゃろう、馬車の食糧件じゃが他の商人達と同じ値段で良いか?」
そう言って値段票を俺に見せる。
(わざわざ将軍が来て話す事じゃないだろう。本題は他にあるくせに)
「…これで良いですよ、依頼の報酬も有るので十分です」
「そうか、ではこれにサインしてくれ…そうじゃ例の移転魔法件じゃが、篭城戦が終わってしもうたからの~」
「ええ、食糧の販売は必要なくなりましたね」
「そこでじゃが…どうじゃナバーラに支店を作らんか?」
(また篭城した時の補給の為か…)
「支店ですか…何か条件が有りますか?」
「戦時の補給じゃな、金は払うぞ。あと店舗はナバーラで手配する、店が城より離れていると不便じゃからな」
(凄く良い話だが…後が怖いな、だけど断る理由も無い)
「…分かりました、そこまでして頂けるなら断る理由はありません」
「おお、そうかそうか。細かい話は、文官と話してくれ」
ルイスがリナの方に視線を向ける。
「所で…リナとはどんな関係だ?」
(やはり来たよ…ぶっちゃけるか)
「竜の契約者です」
(あっ、驚いてる、驚いてる)
ルイス→(新たに契約したのか…リナの事を考えると考えられんな。それにあれから竜の里を出てないはずじゃ)
「リナの契約者は死んだ筈じゃ、お主は新たに契約したのかの?」
「…死んだ理由が知りたくて、地獄から戻ってきた。と言ったら信じるかいルイス?」
ルイス将軍は固まっている。
「まぁ、信じられないのが普通だろうね。リナが起きれば分かる事だよ」
ルイスから俺とルイスしか知らない事を聞かれて。全て答えた。
「………1人で来て正解じゃっな、まだ信じられんが。本当見たいじゃな」
「この事は秘密にしてもらいたい、その方がお互いの為だ」
俺が元勇者だなんて言っても信じる奴の方が少ないだろうし、今度は本気で攻めてくるだろうな、あの女が。まぁ、ばれてもやりようはあるが…。
例えば、リナに俺が元勇者だと証明させて、あの女に殺されました。とか暴露すれば面白そうだ。
だが、単純な復讐が俺の夢じゃない…復讐は目標の1つに過ぎないのだから。
「そのようじゃの、努力しよう… 何にせよ明日、国王に謁見してもらう。あれだけ目立ったのじゃお主が誰であれ」
まだルイス将軍は、義雄が勇者なのが割り切れていないようだ。
「……断れないか、店舗代だと思ってお会いしよう」
こうしてナバーラ王との謁見が決まった。
○ ○
神聖デント王国、勇者の墓。
ナバーラ王国、王城で戦いが行われている頃。今はほとんど人が来なくなった。勇者の墓の前で身長は170cm半ば、金髪で蒼い瞳、一瞬女性かと間違えるような中性的な顔立ちをした。見掛けは20~30歳ぐらいか、エルフより耳の形が突き出ておらず、人間よりは突き出ている。彼はハーフエルフだ。
「師匠…貴方は馬鹿だ。あれだけ忠告したのに…あんな女に騙されて…」
ハーフエルフの男が勇者の墓に語りかける。
「校長、そろそろお時間が…」
傍らにいる、彼の部下の女性がハーフエルフの男に言う。
「分かっています… 行きましょう」
ハーフエルフの男はもう一度墓を見る。墓石には刻まれていた。
“勇者、ヨシヒコ・ムラカミ”ここに眠る。
ハーフエルフの男はその場を立ち去った。
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