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プロローグ

*この作品はソフトながら変態性欲・同性愛・流血表現やグロテスクな表現を無節操に含む予定です。

*この作品の更新は不定期です。

*この作品はおおむね思いつきと勢いで書かれています。

 マグ・メル。

 脳波によるPCの操作。【ブレインコンピューターインターフェース】の開発と、バーチャルリアリティの探求とを併合し、ここ数年で大躍進を遂げたこれらの技術によって世界にもたらされた数多くの体感型MMORPGの一つである。

 神話や伝承などを取り入れた剣と魔法のファンタジー世界。選ばれた魂の持ち主として、あらゆる生命がその存在を認められた理想郷の新たなる住人となれる。雄大にして広大な世界と、限りなく広げられた自由度。まるで本当にそこに生きているような、空気感まで綿密に再現されたVR。そこまでは、実のところ他のMMORPGの売り文句と大差ない。

 プレイヤーの人数自体、他の作品と比べるとやや少なめだ。

 この作品はありふれたファンタジー世界で、ありふれた冒険活劇を繰り広げられる、今の世にあふれかえったMMORPGの一つである。

 ただ、ある分野で非常に名の知れたゲームでもあった。


 これは、そんなゲームに魅了されたとある廃人ゲーマーの物語である。




**** ****




『らいせんすヲ確認シマシタ。ぷれいやー名<安藤悠璃あんどうゆうり>がいど音声ニ従ッテ、あばたーヲ作成シテクダサイ』


 水の流れる音と共に響く無機質な音声。そっと目を空けると、世界は青かった。

 恐ろしく透明度の高い海、あるいは湖だろうか。水中をたゆたう感覚。しかし呼吸は出来る。こぽりこぽりと足下から登る気泡をぼんやり眺めながら、私はそっと視線を動かした。


『マズハ種族ヲ設定シテクダサイ』


 そんな声と共に、目の前に小さなウィンドウが開く。ずらりと並ぶ数多くの種族。人間というポピュラーなものから、これを選ぶ人が果たして存在するのかと思えるようなスライムという定番モンスターまで。全ての性能に目を通すだけでも膨大な時間を必要としそうだ。

 だが、そんな事は当然していられない。こうしたアバター設定に何日もかかったという声を数多く聞いたが、私は初めからある意思のもと、アバターを作成することを決めていたのだ。


「この中で、身体的パラメーターが最も低い種族はどれ?」


『妖精族。ソノ中デモ小妖精ニ分類サレル【フェアリー】【スプライト】【ピクシー】ガ最低値二ナリマス』


「さらにその中で最も不人気なのはどれ?」


『【ピクシー】デス』


「特徴を教えて」


 問いかけてすぐに、眼前にもう一つのウィンドウが開かれた。


 【ピクシー】

 妖精族:小妖精種:地精

 装備:軽装備可・中、重装備不可

 スクロール使用:可

 積載量:極小

 生産:可

 飛行:不可

 敵対種族:無し

 生産スキル制限:無し

 進入不可領域:無し

 成長速度:中


 成長率

 腕力・物理耐性:E

 魔力・属性耐性:C

 素早さ:C

 器用さ:A

 スタミナ:D

 運:B

 水抵抗:弱

 火抵抗:弱

 風抵抗:弱

 地抵抗:中

 光抵抗:弱

 闇抵抗:弱

 身体的負荷抵抗:弱

 精神的負荷抵抗:弱



 初期装備

 武器:ロッド・ナックル・弓・短剣・リングの中から二種

 防具:チュニック・ローブ・布帽子・布靴


 詳細を見ただけで、私の心臓は跳ね上がっていた。

 これが、種族設定において「これを選ぶ意味が全く理解出来ない」と言われたピクシー。

 能力は器用さを除いて人間に敵うものがなく、装備の限定、積載量の少なさ、移動速度の遅さ等、デメリットをあげればいくらでも出てくる割にメリットが見あたらないと言われる種族。亜人系の中で唯一人間と同等の自由度を持ちながら、そのステータスの低さによって不遇されているというピクシー。

 同じ小妖精でも飛行技能持ちで魔術スキルに特化したスプライトや、同じく飛行技能持ちで高い素早さに加え、風抵抗に精神負荷抵抗を持つフェアリーは人気の種族だ。


 最弱かつ、不人気、その二つのキーワードで唯一その名が上がる種族。

 その情報は、嘘でも誇張でもなかった。

 私は迷わずその種族を選択する。


 続いて職業を求められる。戦士や魔法使いといった冒険主体の職業から、細工師や鍛冶師、料理人といった生産系の職業。他にも商人や吟遊詩人、職業と言っても様々だ。

 これに関しても、私は既に自分の選ぶ道を決めていた。


【農民】


 パラメーターの伸び率は全職業中最低。メリットは最初から拠点に出来る掘っ立て小屋と小さな畑と山羊が一匹貰える事。

 ただし掘っ立て小屋はベッドとキッチン以外の施設を置くことが出来ず、比較的序盤から購入が可能な物件であるため、せいぜい最初だけ宿代がかからない程度のメリットだ。その宿代自体、贅沢を言わなければ微々たるものだそうな。

 いよいよもって私の興奮は最高潮に達していた。


 次に出身国、すなわちゲームの開始地点となる国を選ばされる。

 選べる国は全部で六つ。


 巨大な湖の上に作られた、水と学問の国「ダイン」


 砂漠のオアシスに位置する、火と鍛冶の国「ウーリィ」


 広大な平原に築かれた、風と芸術の国「ミュラン」


 深い森に囲まれた、地と豊穣の国「ネネト」


 点在する浮遊大陸の一つにある、光と信仰の国「エルシアン」


 太陽の昇らない極寒の地、闇と武闘の国「ユノ」


 六つのうち、もっとも安全だと言われているのがダインとネネト。戦闘が苦手なキャラはこの場所から始めるのが無難だ。

 ミュランも、戦闘スキルが少しでもあれば十分に乗り切れる難易度だと言われている。

 エルシアンとウーリィは初めから戦闘メインで作ったキャラクター向けで、やや難易度が高い。

 ユノは上級者向けで、まず戦えなければ生き残れないと言われる最も危険な国だ。


 これを選ぶとき、私の指はひどく震えていた。

 緊張に少し似ている。恐怖ではない。つばを飲み込む音がやけに大きく響く。息が荒くなるのを押さえて、私はそっと【ユノ】を選んだ。


 あとは細かい外観と初期装備を設定するだけとなった。

 性別は素直に女性を選ぶ。

 小妖精は、その名の通り全長15㎝から30㎝の間でしか設定できない全種族中最小の亜人だ。私は特に深くは考えず、初期設定のまま30㎝を選択した。

 いっそ歩幅も小さくしようかと思ったが、15㎝の体格がまるで5才未満の幼児のようなフォルムで、なんとなくその狙い澄ましたような外観が性に合わなかったのだ。

 肌の色は日に焼けたような小麦色。髪は折角だからとんでも色にしてやろうと思い、銀朱と呼ばれる光沢ある薄ピンクに。髪型は面倒なので、普段と同じゆるいウェーブのかかったロングヘアーを選ぶ。目の色もそれに合わせて深紅にして、目の前のミラーウィンドウを見つめた。


 大きさを比較するものがないので身長に関してはよく解らなかったが、尖った耳とややは虫類じみたきょろりと大きな目。大きな口は開くと犬のような牙がのぞく。

 ほっそりとして愛嬌のあるピクシー族の女の子。なかなかファンタジーっぽくて良いんではないだろうか。


 選べる二種類の武器はナックルとロッドを選んだ。

 防具は小妖精の場合、選べるものがないので自動的に最もレベルの低い軽装備一式になる。


 最後に、先天的特性を三つ。

 これは全種族共通で得られるものだ。六つの国それぞれ国の名前にもされている守護女神がいて、選ばれた魂は生まれるとき、生まれた国の女神の加護を受けられるのだそうな。

 女神によって得られる加護に違いがあり、武闘の国というだけあってユノは戦闘面に秀でたものが多い。単純に攻撃力をあげるものから、僅かながらクリティカル補正がかかるもの、闇への耐性をあげるものなどがあるほか、闇のささやきを聞くといった何の役に立つのかいまいち良くわからないモノまで様々だ。

 加護そのものは必ず三つ選ばなければいけないようなので、中でも出来るだけ戦闘の役に立たなそうなヤツをじっくり吟味する。


 結果として、『闇のささやきを聞く』『黒猫の目』『影隠し』の三つを選択。ちなみに黒猫の目というのは、暗闇でもある程度視界が聞く他、暗闇で発光するらしい。姿に変化はないが、いわゆるネタ系の一つなのは間違いない。影隠しとはその名の通り、自分の影を他者の目から隠すというものだ。姿ではなく、影のみという点がいまいち使いどころが解らずとても心が惹かれたのでそれを選んだ。どうにも解らないのは闇のささやきを聞く、だ。これは説明にもまったく同じ事しか書かれていないのだが、まぁ名前からして戦闘向けとは思えないので好奇心半分で選択してみた。


『ソレデハ、最後ニあばたーノ名前ヲ設定シテクダサイ』


「ユーリ」


『ヨウコソゆーり』


 目の前に突然扉が現れる。そのドアノブに手をかけてゆっくり回すと、僅かに出来たドアの隙間から頬を刺すような冷たい風がふきつけた。

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