エピローグ おやすみなさい
眩しい光が消えた。
理美は目を開けた。
見慣れたリビングだった。
自分の家と、全く同じリビング。
「あれ?」
眼鏡が少しずれた。
理美は眼鏡を押し上げた。
「ゆるい。」
着ている服も、ぶかぶかだった。
理美はリビングを出て、すぐ近くの洗面所へ向かった。
鏡を見る。
そこにいたのは、二十二歳の理美だった。
「おお。」
間違いない。
二十二歳の自分である。
理美はリビングへ戻った。
カーテンを少しだけ開け、外を見た。
真っ暗だった。
街灯がない。
いつもなら駐車場に並んでいる、自分とパパの車もない。
玄関ポーチの明かりだけが、家の前をぼんやりと照らしていた。
よく見えない。
それでも目を凝らすと、暗闇の向こうに、見慣れた住宅街ではない建物が並んでいるのが分かった。
中世ヨーロッパのような街並みが、ぼんやりと見える。
「……来たんだな。」
本当に異世界へ来たらしい。
理美は、しばらく外を見ていた。
そして、ふと思った。
「……あれ?」
日本の理美が配信を休んだ日だけ、自分の意識をあの快活クラブのような部屋へ連れてくれば、JINとは話せたのではないだろうか。
アーカイブを一緒に見ることもできる。
裏話もできる。
普通に喋ることもできる。
「私、別に異世界に来なくてもよかったんじゃない?」
今さらである。
しかし、テレビで見たことがある。
熱狂的なファンが、自分の推しである芸能人を招待する。
好きなものを用意する。
やりたいことを聞く。
そして、全力でもてなす。
そんな番組があった。
なんやかんやで、JINさんは結局、これがやりたかったのかもしれない。
理美が考えた通りであった。
その頃JINは、日本の快活クラブの個室にいた。
「やった!」
マットの上を転げ回る。
「やったぞ!」
また転がる。
神、歓喜。
そんなに騒いで、快活クラブを追い出されないのだろうか。
異世界の神が、日本の快活クラブを出禁になる。
かなりいいネタにはなりそうだな。
本当なら、もう少し快活クラブでゆっくりするつもりだった。
フリーパックの時間は、まだ二時間残っている。
しかし今、自分の世界には理美がいる。
推しがいる。
「早く帰ろう。」
もう、フリーパックの残り時間などどうでもよかった。
早く精算して、早く帰ろう。
自分の世界へ。
今のJINは、自宅に憧れの大スターを招待したまま外出している熱狂的なファンと、ほぼ同じ状態である。
その頃、理美は
JINさんと話すか。
ヒューゴを呼び出してみるか。
……
眠い。
とにかく眠い。
今日は、いつになく頭を使った。
異世界でどう暮らすか。
何が必要で、何が嫌なのか。
自分のことを、これでもかというほど考えた。
全部、後でいい。
理美は二階へ上がり、寝室へ向かった。
いつもの寝室。
いつもの布団。
理美は布団に入った。
「まあ、朝起きてから考えるわ。」
(終)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
異世界転移ものと言いながら、物語のほとんどは快活クラブのような一室。
登場人物も、異世界の神と主人公のほぼ二人だけ。
なんとも地味な物語になりました。
それでも、自分が書きたいと思っていたことは、全部書けたと思っています。
初めて一つの作品を最後まで完成させることができて、本当に嬉しいです。
理美の物語は、異世界へ行ったところで終わりました。
これから理美が異世界でどんな生活をするのか。
JINやヒューゴと、どんな毎日を過ごしていくのか。
異世界で暮らす理美のお話も、今後また書いていきたいと思っています。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




