免許返納
今年93歳の竜お爺ちゃんは高齢ドライバー。
毎日町へ向かう移動手段に自家用車を運転している。
免許を取得して以来ずっと無事故・無違反。
ゴールド免許をずっと続けている。
「竜お爺ちゃんはまだ免許を返納しないの?」
家の近所に住む主婦や、街のスーパーで会う知り合い、公民館の寄合では免許返納を勧められている。
妻は30年も前に病気で亡き別れており、子もいないためすでに天涯孤独。
免許返納を強く勧める身内がいないことから、この年まで運転を続けられているのだろう。
竜お爺ちゃんの住む地域は治安が悪いという訳ではないが、暴走族は多く走っている。
夜な夜な道路交通法を守らない車やバイクが大きな音を出して走っていて近隣住人に迷惑をかける。
公民館に集まった人々はそのような迷惑を掛ける若者達に対しては直接何にも言わず、
道路交通法を遵守して気を付けて運転している竜お爺ちゃんには免許返納を勧めている。
そしてその話題は近隣の家に広がり、
竜お爺ちゃんが免許返納しない事はあたかも違法行為のように扱われ始める。
「あ、竜爺の車や。叩こうぜ!」
「え、マー君、辞めとこうや。すぐ戻ってくるかもしれへんよ。」
「大丈夫やって。ママが言ってたもん。あんなよぼよぼやのに、返納せんのはおかしいって。みんなで運転するの止めようとしてんのに全然聞いてくれへんって。きっと近く事故起こして捕まりよるわ。」
子供達にもその風潮は伝わってしまう。
特にマー君と呼ばれる少年は同級生や周りに自分を大きく見せようという意味でも、
竜お爺ちゃんとその相棒である車に何度も嫌がらせをするようになりました。
駐車してある竜お爺ちゃんの車におしっこをかける。
運転している車にまずまずのサイズの石を投げつける。
木の枝や岩で車体をこすったり、叩いたりする。
竜お爺ちゃんはそのような嫌がらせをされていても何故かいつもニコニコしている。
公民館でもさすがにマー君の嫌がらせの内容が問題になっていたが、
「子供のすることじゃし、責任とか弁償とかなんて気にせんでええ。大きくなってから自分が馬鹿やったと反省してくれれば儂としてはそれだけでええんじゃ。」
竜お爺ちゃんは笑顔でそのように言う。
ご近所に住む人々は感心する。
「ほんと竜お爺ちゃんは温厚で人が良いわよね。でも免許返納はなんでしないのかしら?」
ある日の深夜。
珍しく暴走族が走っておらず稀とも言える静寂な夜。
…ドオゴガガガアアアアァァァァ……ン!!!!!!
「うわぁ!!!!」
家の2階。自室で寝ていた悪ガキのマー君は轟音と家自体が大きく揺れる振動で目を覚ます。
起き上がり自室のドアを開けたとたんに煙が充満しており、不快な匂いが鼻につく。
「えーっ!…何!?何っ??ママーっ!!パパーっ!!」
階段を降り1階へ。両親の寝室を開けると中はぐちゃぐちゃ。
車が突っ込んでおり家の外壁が壊され外が大きく見える状態。
両親の寝室の床には血だまりが出来ていた。
警察による実況見分が始まる。
「両親は深夜に寝ていた時に車で突っ込まれて即死…か。」
「一人残された子供は可哀そうになぁ。」
「本当そうだよ。ん~…、、たぶん車は家の外壁を突き破って奥の壁にぶつかって停まってるから時速100km以上は出てたはずだ。」
「これ。道路と直角に突っ込んでるよな?前は丁字路でも十字路でもない直線道路だしどういうことだ?」
「だな。助走…っても1mちょっとしか無いからあり得ないよ。こんなの。」
「うーん。これだけの事故で奇跡的に爺さんが無傷なのも何だかなぁ。取り調べではその93歳の爺さんは何って言ってんだ?」
「ニコニコと笑みを浮かべながら『アクセルとブレーキを間違えました』だってよ。」
アクセルとブレーキ(比喩)




